🔶私の好きな奈良：大和と出雲の関わり 記紀に登場しない邪馬台国がカギ？説

半年ほど前から奈良についての記事を書いています。

奈良が歴史の中で重要な位置づけをされる理由の一つに、記紀すなわち古事記・日本書紀という書物に記録が残されていることが大きいと思います。

奈良の各地や寺社など、由来を辿っていくうえで、記紀の記載は大いに参考になります。奈良のみならず、古代日本に関する知識は、その多くを記紀の記述に頼っていると言っても過言ではないでしょう。

さらに古い記録はとなると、日本には存在しないので、中国が日本のことを書き残した歴史書に頼ることになります。古いものだと、「魏志」倭人伝、「後漢書」倭伝、などが当時の日本を知る手掛かりになります。

出雲大社本殿（西面）
拝殿の正面は南だが、ご神体は西を向いている

古事記は神による国生みで始まります。最初の約1/3は、高天原から蘆原中国（地上の日本国）に降り立った神による、出雲神話が占めています。
ヤマタノオロチや因幡の白兎などの神話は、皆さんもよくご存知と思います。

で、日本書紀では神代の次に初代の神武天皇の記載へと移り、神武東征を経てヤマト王権へと続くわけですが、最初に神が降り立った出雲のその後についてはあまり記載されていません。

出雲には出雲大社があり、他の神社とは明確に格が異なっていて、神無月には全国の神が地元を留守にしてまで出雲に馳せ参じます。そんな重要な出雲は、奈良時代に日本が中央集権国家となる過程で、どういう存在だったのでしょう？

さらに話を広げると、魏志倭人伝に記載されている邪馬台国も、卑弥呼も、日本書紀が記載している時代の範囲内に存在したはずなのに、何の記載もされていません。

いったい大和の国とどういう関係だったのでしょうか？

この領域については、直接に記載した史書が存在しないため諸説あり、真実を知ることは困難ですが、詳しくお調べになっている先生方の書籍を読ませて頂き、自分なりに勉強してみました。

私が理解しえた範囲で書いてみましたので、宜しければお付き合いください。

大国主命

出雲と言えば大国主命（オオクニヌシノミコト）を思い浮かべますね。

大国主命は、スサノオノミコトの子孫で、因幡の白兎を助けた心優しい神様として知られています。数々の試練を乗り越え、葦原中国の支配者となり、日本の国土を皇室の祖先神である天照大神に「国譲り」したとされています。

出雲大社にある大国主命像

神話を読んでいてややこしいのは、この大国主命が多くの名前をもっていて、お話ごとに違う名前、漢字名で出てくることです。
誰が誰なのかわからなくなってきますね。

どのような名前で出てくるか、列挙してみます。
大穴牟遅神、葦原醜男、国作大己貴神、八千矛神、大国玉神、顕国玉神、宇都志国玉神、大己貴神、大物主神、葦原色許男命…　等

あっ　この二人は同じ神だったんだ、と分かるだけでお話が整理され理解しやすくなったりしますね。

大国主命による「国譲り」の際に、その功績を称え（引き換えに）壮大な神殿が築かれたのが出雲大社の創建とされています。

そもそも出雲大社はいつできた？

古事記、日本神話、出雲国風土記などに伝承が語られる出雲大社の創建ですが、実際の大社はいつ建てられたのでしょうか。

古事記には次の記載があります。

垂仁天皇の皇子本牟智和気（ホムチワケ）は生まれながらにものを言う事がありませんでした。占いによって出雲の神の祟りであることが分かり、出雲に遣わして大神を拝ませると、皇子はしゃべれるようになりました。天皇は大変喜び、「神宮」を造らせたということです。

垂仁天皇の時代と言えば、紀元前後にわたる時期にあたりますが、実際の「国譲り」というのはヤマト王権が勢力を伸ばして出雲を平定した時期ではないかとも考えられます。

また、この「祟り」というのは、国譲りの条件となっていた神殿建設の約束が履行されなかったことに対するものではないかと言われています。

従って、この伝承の少し後、すなわち実際の「国譲り」が行われた後ぐらいが、出雲大社の社殿建築時期である可能性があります。
統治権の移行がいつ頃かについては、後で改めて述べます。

また日本書紀によると、659年に斉明天皇が出雲国造に命じて「神之宮」を修造させたとあります。この頃になると、歴史書の記載が考古学的な史実と一致してきますので、実際に社殿の造営が行われた可能性があります。

なお、出雲大社の社伝では、垂仁天皇の時が第1回、斉明天皇の時が第2回の造営とされています。

出雲の支配権がヤマト王権に移ったのはいつか

紀元前、弥生時代の初めごろから、日本海に面する出雲には、朝鮮半島から鉄や青銅器を含め、文化が伝わっていたと考えられます。

良質の砂鉄を豊富に産出した出雲は、天平時代から「たたら製鉄」といわれる技術が盛んであったことが知られていますが、神庭荒神谷遺跡から大量の銅剣、銅鐸が出土していること、出雲石による勾玉造りが盛んであったことなど、独自の祭祀を行う勢力であったと考えられています。

神庭荒神谷遺跡から発掘された銅剣
（出雲歴史博物館）

ところが大和の纏向に政権が出来たと考えられる３世紀半ば頃からは、剣や鐸に代わって、大和で行われていた銅鏡による祭祀が行われる様になったようです。

また、この出雲から富山にかけての日本海側には、弥生時代の後期から四隅突出型墓といわれる独自の墓が分布しています。２世紀後半ぐらいまで巨大なものが建造されていた様ですが、やはり３世紀の後半ぐらいになると造られなくなり、前方後方墳あるいは前方後円墳に置き換わってきています。

これらをあわせて考えると、３世紀の半ばぐらいに、ヤマト王権の統治を受ける様になったのではないかと推察されます。

では邪馬台国との関係は？

この時期は、ちょうど魏志倭人伝に邪馬台国の存在が記載されている時期でもあります。

邪馬台国については謎が多く、そもそもどこにあったのかということを含め、まったく結論が出ていません。

今のところどこまでいっても推測の域を出ない議論ですが、歴史学者の村井康彦氏は、魏志倭人伝にある邪馬台国の四官、伊支馬、弥馬升、弥馬獲支、奴佳鞮を、その音と天皇名および御陵の場所から、いこま（生駒）、みまつ（葛城一帯）、みまき（三輪山の麓）、なかと（田原本町）に相当し、奈良盆地中央部に邪馬台国があったと読み解いています。

それぞれの地に出雲系の豪族（物部氏、鴨氏、大神氏）がいて、卑弥呼が中央で国を統べていた、という説です。

さらに記紀にこの国についての記載がないのは、邪馬台国がヤマト王権に連続したものではないからで、卑弥呼の没後に外部からヤマトに侵入してきた勢力が邪馬台国を終わらせて大和を平定した、それが神武東征であったとの説を立てています。

そして、あくまで神武と戦おうとした（味方の）長髄彦を制してまで神武に帰順した饒速日命の行為こそが「国譲り」であり、その際に神武天皇に渡した「十種神宝（とくさのかんだから：鏡・剣・玉などの神宝）」は、大国主命が物部氏の祖とされる饒速日命に伝えていたもので、後の「三種の神器」がここで出雲系から天皇家に献上されたとしています。

真偽は謎とはいえ、非常に説得力のある説となっています。

三輪山の神の大物主と大国主の関係は

先に、三輪山麓の大神氏が、出雲系の豪族であるとの説に言及しました。

奈良県桜井市の大神神社拝殿

古事記で、大国主命が国づくりをする際に協力者として現れる神のうち、２番目に出雲の海の沖合から寄って来た神が、大物主です。

大物主は、「私を大和の東の山の頂に祀れば、一緒に国造りをしよう。そうでなければ国造りは完成しないだろう。」と言い、大国主がその通りしたところ、国造りは順調に完了したとなっています。

大物主は、実は大国主神の幸魂・奇魂であり、その求めに従って大和の三輪山に祀られて大神神社の祭神とされ、大物主神の名で呼ばれることになりました。

三輪山の信仰の根底には、古くから神奈備や磐座への自然信仰がありましたが、そこに人格神として大国主神が奉斎されたとき、自然神的存在として自然信仰の世界の包摂され、変容したと考えられます。

狭井神社境内にある三輪山への登拝口
要受付　禁止日があるので注意

日本書紀には、大物主神の子大田田根子（オオタタネコ）が今の三輪氏（大神氏）などの祖であると記述されています。
大神氏は大国主神の後裔となり、出雲系であると言えそうです。

出雲大社の巨大神殿と中央政権との関係

出雲大社といえば、かつて巨大な高層神殿があったのではないかと言われていますね。

その存在については懐疑的な見方もありましたが、2000年に鎌倉時代初期の遺構から長径３ｍの巨大柱が見つかり、高さ48ｍに及ぶ建造物が実在した可能性が高くなりました。

出雲歴史博物館にある
古代出雲大社高層神殿模型

平安中期に源為憲が著した「口遊」に「雲太・和二・京三」と当時の高い建物の順位を示した記載があり、これはそれぞれ出雲大社、奈良大仏殿、平安京大極殿を表しています。

平安期以降は出雲大社の倒壊記録が頻繁に出てくることも、この建造物が実在したことを示していますが、奈良時代をカバーする続日本紀には記録が登場しません。

日本書紀には、斉明天皇が出雲国造に命じて「神之宮」を修造させたとありますが、どうやら小規模なものであったのではとも言われており、国譲りの際「大きな神殿を建てる」との約束を守らなかった朝廷に対して、出雲側はかなりの不満があったとのお話もあります。

奈良時代には、朝廷が力を持っていたために、神の祟りをそこまで恐れることはないと判断していたのかも知れません。

しかし平安政府が衰退するにつれ、出雲神の祟りを怖れるようになったことが、倒壊を繰り返すほどの巨大な神殿を造り続けるという結果になったのではないか、それほど出雲勢力の存在感は侮りがたいものであったのでは、との推測がなされています。

その説を裏付ける様に、天皇権力に向けられた怨嗟を気にしなくてもよい武家政権となった鎌倉時代以降は、巨大神殿は造られなくなっています。

もっと詳しく知りたい人のために

私は歴史の専門家ではありませんので、今回の記事は以下の書籍で学ばせて頂いた内容を中心に書いています。

『図説 ここが知りたかった!伊勢神宮と出雲大社』｜感想・レビュー - 読書メーター

『出雲と大和――古代国家の原像をたずねて』｜感想・レビュー・試し読み - 読書メーター

出版されて時間が経っていますので、内容については以前からご存じの方も多いかと思いますが、いずれの書籍も、広範囲にわたる詳細な調査に基づいた素晴らしい内容で、お勧めです。

未だ定説に至らず、謎が多い分だけ、非常に興味深い領域ですので、とても奥が深く、一度で纏めきれる内容ではありません。
自分自身の知識の整理のためにも記事にしましたが、私の理解不足で間違った内容がありましたらご指摘いただければ幸いです。

今後も奈良の歴史を考える際には、出雲の存在を念頭におき、関係性を意識しながら解釈していきたいと思います。