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ファイナンス(企業財務)の基本㉝:「ざっくり分かるファイナンス」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

今回は、ざっくり分かるファイナンス(石野雄一著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。

この本は、自分が「ファイナンス」を勉強する際にはじめて読んだ本です(先輩にオススメしてもらい、読みました)。

まず「とても読みやすく、わかりやすい 」というのが、この本の率直な感想です。ボリュームとしては1週間くらいでさっと読むことができ、ファイナンスの基本が網羅された内容となっていて、自分としてもオススメの一冊です。

今回、改めてこの本を読んでみて、特にわかりやすいなと感じたところや、自分にとって大切なところをメモしてみました。もし、自分のまとめ(メモ)をみて「この本を読んで、ファイナンスを理解してみよう」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。


第1章 会計とファイナンスはどう違う?

会計とファイナンスの異なる点

会計とファイナンスは、次の3つの点で異なります。

  1. 会計は「利益」を扱い、ファイナンスは「キャッシュ」を扱う

  2. 会計は「過去」を扱い、ファイナンスは「未来」を扱う

  3. 会計は「漢字」が多く、ファイナンスは「横文字」が多い
    (3つ目はおまけです)

その他、本章ではいくつかのトピックスが紹介されておりましたので、説明がわかりやすかったところを取り上げます。

資金調達の方法

資金調達は「有利子負債による調達(デット・ファイナンス)」と「株主資本による調達(エクイティ・ファイナンス)」に分かれる。

そして、有利子負債は、銀行借入と社債の二つに大きく分けれられ、銀行借入を間接金融、社債と株主資本を直接金融という。この場合、何が間接で、何が直接なのかというと、それは投資家と企業との関係である。

企業が金融機関から借入をする場合は、投資家(預金者)が金融機関に対して投資(預金)をする。そして投資された金融機関が、企業に対して融資という投資をする。よって、投資家と企業との間に金融機関が介在するため「間接」という

一方、社債や株式による調達の場合は、投資家と企業が「直接」やりとりをする。「直接」と言っても、株を買うときには間に「証券会社」が入ると思うかもしれないが、この場合、投資家は証券会社には投資としてお金を預けているわけではない(証券会社は、あくまでも手数料を稼ぐビジネスモデルである)ため、証券会社は「仲介役」として考え、株式による資金調達は「直接」という扱いとなる。

資本と資本金

バランスシート右側の資本は、資本金と剰余金に分かれる。

資本金とは、企業を立ち上げた時に払込をしたお金であり、剰余金は今までに稼いできたものを積み上げたお金である。

よって、増資しないと変わらないのは「資本金」であって、「資本」は利益が出ていれば毎年増えていく。

そして、「資本金」含め、企業活動においては「資本」がぐるぐると運用されている状態であり、「資本金が貯金として残っている」といった状態ではない。そのため、資本金の多い・少ないは企業の資金繰りには関係ない

そして、バランスシートは決算日当日のみの状況を表しており、その数字は刻一刻と変化しているという現実も認識しておいた方が良い。

運転資金のマネジメントの重要性

運転資金に関連して、かつて日産自動車が有利子負債をどんどん削減していったとき、どんな手を打ったか紹介する。

まず、資産を事業に関連のある「コア資産」、事業に関連のない「ノンコア資産」に分けて、後者を売却した。そして、売上債権を削減するために、売上代金の回収をできるだけ短くするようにした。具体的には、下記のようなことを行った。

  • 財務部では、販売店の回収機関ランキングを毎月レポートした

  • 販売現場では、販売代理店のセールスマン用にチェックシートを作成し、納車日が決まった時には支払い期限日の記入がチェックシートにないと納車できないというルールを作って運用したりした

第2章 ファイナンス、基本のキ

本章では、ファイナンスの基本事項(リスクの考え方など)が、とてもわかりやく紹介されておりました。その中で、特に自身が印象に残った点を取り上げます。

株主資本コストの計算式

株主資本コストは、下記の計算式で算出できる。

株主資本コスト
= リスクフリーレート(2%) + β値 × マーケットリスクプレミアム(5%)

筆者は、CAPM理論(上式)で株主資本コストを算出する場合、リスクフリーレートはざっくり2%と仮定している(もちろん、これが正解というわけではないが、参考として覚えておく)。

リスクフリーレートとして使う「国債の利回り」と言っても、「10年の長期国債の利回りを使う」というのが一般的に言われるがことであるが、その長期国債の利回りは「現在のもの」を使うのか、それとも「過去の平均」を使うのかなど、状況によって考えるべきポイントがある。

マーケットリスクプレミアムも同様で、絶対にこれが正解という考え方はないがは、筆者はざっくり日本の場合は5%と仮定し、あとはβ値を入れるだけの状態にして計算することが多い。

β値の考え方

ある株の動きが「市場全体(TOPIX)の値動き」と全く同じであれば、β=1となる。市場全体よりも動きが大きければ、リスクが大きいと考えてβ>1、市場全体よりも動きが小さければ、リスクが小さいと考えてβ<1となる。

β値は、ロイターのホームページ で調べることができる。
(書籍ではブルームバーグのホームページが紹介されていますが、こちらは現在、有償みたいです)

WACCの求め方

WACC(加重平均資本コスト)は、資金提供者(投資家)の要求に応えるために企業が資産を活用して生み出すべき最低限の収益率であり、下記の計算式で算出できる。

WACC = D / (D+E) × (1-税率) × rD + E / (D+E) × rE
rD : 負債コスト。本来はこれから借り入れするとした場合の金利であるが、便宜的に、過去の有利子負債の調達コストを使うとが多い。
rE:株主資本コスト。CAPMにより算出するのが一般的。投資家であれば、当該企業に対するリスク認識を反映した「自分勝手割引率」を適用するのも一つの方法。
D:有利子負債。本来は時価ベースで考えるべきであるが、その算出はかなり面倒(※)なので、実務上は簿価ベースで考えることが多い。
E:株主資本。時価ベース(発行株式数×現在の株価)で考える。

※ 例えば、企業によってはユーロ建てや米ドル建てなど外貨で借入をすることもあり、円建てに換算するときの為替レートはいつの時点のものを使うのかなどを考えなければならず、なかなかに面倒になる。

WACCを下げるには

WACCが低いということは、「投資家のその企業に対するリスク認識が低い」ということを意味する。故に、WACCが低いに越したことはない。

WACCを下げることこそが、IR(Invester Relation、投資家を対象にした企業の広報活動)のミッションである。IRの役割は、「うちの会社はこんな商品を開発しました」なんていう広告宣伝活動では決してない。

では、投資家のリスク認識を下げるためにはどうすべきかというと「適切な企業情報を、適切なタイミングで開示すること(適切なディスクローズ)」が必要である。

例えば、何の予兆もなく「業績が悪化しました」と発表すれば、投資家のリスク認識は急速に高まる。そうなると、ハイリスクのものには当然ハイリターンが求められるので、WACCは上がる。WACCが上がると、資金調達のためのコストが上がるわけであるため、企業にとっては望ましくない。言い換えれば、株主価値を毀損することにつながるため、株価は下がる。

よって、適切なディスクローズによって調達コストを下げる(WACCを下げる)ことは、企業価値を上げるために重要である。

EVAスプレッド

税引後営業利益を投下資本(有利子負債+株主資本)で割った値を投下資本利益率(ROIC、Return On Invested Capital)という。この値によって、事業活動のために投下した資本に対して、どれだけのリターンを得ることができたかという、企業にとってのリターン(利回り)を把握することができる。

そして、経営者の使命とは、一言でいうと「WACC以上のRIOCを上げること」である。

ROICとWACCの差を、EVAスプレッドという。

ROIC = 税引後営業利益 / 投下資本
EVAスプレッド = ROIC - WACC
EVA = 投下資本 × EVAスプレッド

すなわち、経営者の使命とは「EVAスプレッドをプラスにすること」である。
また、EVAは「単年度でどれだけ企業価値が増加したかを表す指標」でもある。

投資家の信頼を得るには

先ほどの「WACCを下げるには」の話であったように、適切なディスクローズにより、投資家のリスク認識を下げることは重要である。

しかしながら、ことさらに「劇的な業績アップ」を演出したがる経営者も結構いる。それによって株価が急に上がることをイメージしているのかもしれないが、投資家にとっての「サプライズ」とは、投資家と企業側とのコミュニケーションがうまくいっていないことに他ならない。すなわち、「結果がよければ良いだろう」ということではないのである。

「良い時に隠していて突然こんなふうに発表する会社だったら、悪い時も隠して発表しないのではないか」と投資家は考え、リスク認識は高くなるということもあり得る。重要なのは「サプライズの良い結果」ではなく、「適切なコミュニケーションによって投資家の信頼を得ること(※)」なのである。

※ このことはファイナンス に限らず、普段の仕事でも重要な考え方だなと思いました。

第3章 明日の1万円より今日の1万円

本章では、「お金の時間的価値」が、とてもわかりやく紹介されておりました。
特に、個人的に気になったトピックスはなかったので、過去に書いた記事リンクを参考情報として貼ります。

第4章 会社の値段

本章では、「企業価値評価」について、とてもわかりやく紹介されておりました。その中で、特に自身が印象に残った点を取り上げます。

フリーキャッシュフロー

キャッシュフロー計算書でのキャッシュフローは、簡易フリーキャッシュフロー (営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー)である。

一方、事業価値評価をするときに使うのは簡易フリーキャッシュフローではなく、フリーキャッシュフロー(下記式)を使う。

フリーキャッシュフロー
= 営業利益 × (1-法人税率)+ 減価償却費 - 設備投資 - 運転資金の増加額

また、この「フリー」という意味には様々な考え方があるが、筆者が最も分かりやすいと思っているのは「企業が将来生み出すキャッシュフローから、事業を継続するにあたって支払う必要があるキャッシュフローを差し引いた後のキャッシュフロー」という考え方である。(すなわち、フリーに使えないものを差し引いているから「残りはフリー」という考え方である)

株価が高すぎるとは・・・

企業価値から債権者の取り分である有利子負債を差し引くと、株主の取り分である株主価値を求めることができる。そして、その「株主価値」と株式の時価総額(株価 × 発行株式数)、つまり、「現在マーケットが付けている価格」とを比較してみる。そうしてはじめて、理論株価(株主価値 / 発行株式数)に対し、マーケットがつけた株価が割安なのか、割高なのかが判断できる

株主価値はM&Aの時のベースになったり、きちんとした投資家にとっては、株式投資の際の目安にもなる。

企業価値にはもちろん正解があるわけではないが(投資家によって、リスク認識などの条件が異なるため)、経営者は将来の業績予測に基づいて、今の株価が適正価格なのかどうかを自ら把握しておく必要がある

例えば、経営者が考える妥当な株価に対して、実際の株価が高すぎる場合、原因は下記の2点が考えられる。

  • 収益予想、つまり、将来のフリーキャッシュフローを投資家が高めに見積りすぎている

  • 投資家のリスク認識が低すぎる

いずれにしても、中長期的な視点に立てば、企業の実態とかけ離れた株価がつくには好ましいことではない。いつかは株価の下落という形で、顕在化することになる。

ダブルカウント

企業価値は「数字で表されるもの」とわかったが、中には「ブランドなど、数字に表れないもの」も企業価値に反映すべきではないか、という人がいる。

しかし、例えばブランドがあるからこそ、お客様は商品を購入して売上が上がり、結果的にフリーキャッシュフローが生まれている。

つまり、企業価値にはブランドなどの「一見、数字に表れないもの」も加味して算出されている。そのため「さらにブランドの価値を加える」といったことは「ダブルカウント」になってしまうのである。

第5章 投資の判断基準

本章では、NPV法やIRR法などの「投資判断」について、とてもわかりやく紹介されておりました。その中で、特に自身が印象に残った点を取り上げます。

IRR法の弱点

IRR法は「収益率」を算出するためわかりやすく、よく使われる。
一方、いくつかの弱点(下記)も存在する。

  • プロジェクトのキャッシュフローのパターンによっては、解が存在しない場合や、複数存在することがある

  • 永続的にキャッシュフローが発生する場合は計算ができない

  • プロジェクトの規模の違いを反映しない
    (期間の短いプロジェクトほど、IRRが高くなる)

すなわち、NPV法とIRR法の両方で投資判断の試算をして、両者の答えが割れてしまった場合は、規模の違い(企業価値に与えるインパクト)も反映できるNPV法の答えを採用した方が良い。

第6章 お金の借り方・返し方

本章では、MM理論や節税効果など「ファイナンスの中では少し難しい話」が、とてもわかりやく紹介されておりました。その中で、特に自身が印象に残った点を取り上げます。

格付けの誤解

ムーディーズなどの格付け機関からみた「良い会社」とは何かと言うと、「債権者にとって良い会社」である。すなわち、格付けでは「債権返済能力がある会社」を「良い会社」と判断する。そして、格付けに影響する重要な財務指標が「自己資本比率」である。故に、格付けをあげようとして自己資本比率を高めると「株主資本比率」が高くなってしまうため、WACCが高まってしまう。

「格付けは企業の総合的な競争力を示すもの」と思っている人もいるが、それは誤解で、格付けとは、債権者の立場での債務返済能力の分析結果である。

配当のメカニズム

理論上、配当によって株主にとっての企業価値は変わらないが、「増配」と発表すると株価は上がる傾向にある。これは、増配によるアナウンスメント効果が考えられる。

企業が増配を発表するということは、経営者が将来の業績予想について楽観的に見ていると言うことを意味する。となれば、その企業の株は基本的に「買い」ということになる。

ただその一方で、増配するということは「将来の投資機会がない」と言うネガティブなシグナルにもなり得ることに注意が必要である。すなわち、その企業がライフサイクルのどの位置にある企業かということにも注意が必要である。

自社株取得

株主に資金を還元する方法として、配当のほかに自社株取得(自社株買い)がある。自社株取得とは、現株主(自社株取得後も株式を保有している株主)が、自社株取得の申し入れに応じた株主から、時価で株式を購入することをいう。

自社株取得では、その買った株は消却(発行済み株式数を減少させること)するか、M&Aに備えるべく金庫株として保管しておく。そして理論上(経営陣が評価する理論株価 = 市場の価格がイコールの場合)は、自社株取得の前後で株価は変わらない。

実際のところ、自社株取得は、配当よりも多くのシグナルをマーケットに送ることになる。というのも、自社株取得は、経営陣が自社株を割安だと考えている証拠だと考えられるためである。

また、自社株取得は将来にわたって安定してキャッシュフローを稼ぎ出せると言う経営者の自信とも受け止められる。しかし一方で、増配と同じように将来の投資機会がないと言う、ネガティブなシグナルにもなり得ることにも注意が必要である。

以上です。








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