ファイナンス(企業財務)の基本㉛:「起業のファイナンス」を読んで、大切そうなことをまとめてみた
久々に「ファイナンスの基本編」を更新します。
今回は、起業のファイナンス(磯崎哲也著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。
この本、実はこれまでに何度が読んでいて、はじめて「事業計画を作る」という仕事に携わった際「第3章:事業計画の作り方」に、とても助けてもらった記憶があります。もし、自分のまとめをみて(ちゃんと本を読んだ後に、)「この本の内容を実務に活かしてみよう」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。
序章:なぜ今「ベンチャー」なのか?
「資金調達がいらない起業」が増えている
「起業」と言っても、大きく2種類ある。それは「資金調達がいらない起業」と「資金調達が必要な起業」である。
そして「資金調達がいらない起業」については、ファイナンスの観点からはあまり説明することはなく「やりたいなら、やってみれなはれ。以上」で終わりである。
そのため、この書籍では「資金調達が必要な起業」とそのファイナンスについて解説する。
第1章:ベンチャーファイナンスの全体像
ベンチャー企業が株式で資金調達をする理由
イノベーションを起こすような「ベンチャー企業」の資金調達の基本は「株式」でおこなう。なぜならば、ベンチャー企業は基本「ハイリスク・ハイリターンのビジネス」であるため、銀行からの借入(ワーキングキャピタルの補填など)は適さないためである。
これと同じことは、未知のことに対する「研究開発費」は銀行借入には適していないのと同じ話である。
すなわち、「銀行のお金」は「ローリスク・ローリターン」向けであるため、ベンチャー企業などの「ハイリスク・ハイリターン」な使い方には適していないということである。
投資家は何を求めているのか
では、銀行はケチで、(株式で資金調達させてくれる)投資家は神様なのか?答えは「No」である。投資家は、銀行よりも大きなリスクを負う分、より大きなリターン(儲け)を求めている。
ざっくり言えば、ベンチャーキャピタルなどのプロ投資家は、投資した金額が最低でも3~5倍くらいになって返ってくることが期待できないと投資をしてくれない。また、株式には「議決権」もあるため「口出し」もされる(詳細は後述)。
キャピタルゲインはどのように生み出されるのか①:【上場】
株式からのリターン(儲け)には「インカムゲイン(配当)」と「キャピタルゲイン(元本の売却益)」があるが、ベンチャー投資で期待されるリターンは、基本的には「キャピタルゲイン」である。
キャピタルゲインを生み出す方法の1つ目は「会社の(株式を)証券取引所に上場する」という方法。
証券取引所に上場すると、機関投資家や一般投資家含めた、色々な企業や個人等が、自由に株式を売買できるようになる。未上場のうちに投資を行った投資家は、上場後に株式を売却し、自分が買った値段よりも高く売れればキャピタルゲインを得ることができる。
キャピタルゲインはどのように生み出されるのか②:【バイアウト】
キャピタルゲインを生み出す方法の2つ目は「会社がバイアウト(買収)される」という方法。
バイアウト(買収)と聞くと、特に日本では良くないイメージ(ドラマなどの影響?)があるが、決してそうではない。会社は「何かの目的のために法人格を与えられているもの」であるため、その目的達成に一歩近づくことができるバイアウトであれば、会社の本望とも言える。
上場とはどういうことか?
まず、上場には下記のプレイヤーが関わってくる。
監査法人
ベンチャー企業の上場には、会計を監査法人に監査してもらう必要がある。上場には2期分の監査証明が必要になる。証券会社
上場の際には、株式の募集(株式を新たに発行して、会社自身が資金調達をすること)や売出(会社自身には資金が入るのではなく、創業者や投資家がすでに保有していた持株を売却すること)を行う。この募集や売出は、証券会社に引受を依頼することになる。証券取引所
上場審査をして、上場を承認してくれる。証券代行会社(信託銀行など)
上場する会社は、株主が数千人以上となるため、株主名簿を自分で管理するのではなく「株主名簿管理人」を置く必要がある。この株主名簿管理人になってくれるのが信託銀行などの証券代行会社である。証券印刷会社
今は、書類自体は電子化されているが、財務局に提出する資料を専門的にチェックし、コンサルティングしてくれるという役割がある。弁護士
リスク管理のために弁護士の支えは必須。
上場時のチェック
上場の際には、その企業の全般が隅々まで調べられることになる。具体的には、下記のようなポイントを調べられる。
成長性に問題のがないビジネスモデルか
財務諸表をきちんと作っているか
法令遵守しているか
内部統制はきちんとしているか
反社会的勢力が会社に関与していないか(※)
※ ゆえに、未上場の段階であっても、「取引先審査」や「株主審査」は重要
第2章:会社の始め方
会社とは何か
会社とは「法人(法律で人工的に作られた人格)」であり、会社には「公私を分ける機能」がある。
一方、経営には「個人経営」という手法もある。
ここでは一旦、「会社」と「個人経営」を対比で考えてみる。
会社と個人経営の対比
資金調達と会社
株式会社以外の会社や個人経営では株式を発行できない。
そのため、将来上場を目指すベンチャー企業であれば、株式会社があっている。
一方そうでない場合は、必ずしも会社にする必要はない。
コスト
会社を作ると、登記や事務などで数十万円のお金がかかってくる。
そのため、数十万円でも節約したいという人であれば「軌道に乗るまでは個人経営」という選択も大いにあり得る。
税務
個人経営(個人事業)の場合、所得税(累進課税)であるため、何千万円も給料をもらっている人は5割弱の税率になる。一方、黒字の法人になると、法人税などが4割かかってくる。すなわち、自身の状況に応じて「税務の観点でお得な選択」は変わってくる。
有限責任
株式会社のメリットとしてよく挙げられるのが「有限責任」ということである。
つまり、株式会社が倒産しても、会社の財産だけを債権者に払えばよく、個人財産を注ぎ込んで無限に責任を負う必要はない(しかし、銀行などから借入をする際には、社長が個人保証させられるのが普通である)。
個人事業は「無限責任」と聞くと恐ろしいが、最悪のケースでは自己破産という手もあるため、ビジネスパーソンとして不適切なことをしなければ、何とかなる。
説明コスト
「株式会社です」というと、それ以上の説明は不要であるケースが多い。
一方、「個人経営で・・・」のような話だと説明を求められるケースもあり、実務上ではそのコストを苦に感じることもある。
信用
「会社にすると信用がアップする」と思う人が多いかもしれないが、実は、そんなことはない。会社法では、会社の資本金下限はないため、資本金1円でも会社設立できる。そのため「株式会社だから信用する」と言ったことはNG。
※ その他、書籍の本章には「資本金はいくらにするのが良いのか?」「誰からお金を集めるのが良いのか?」といったことも書いてあった。
第3章:事業計画の作り方
事業計画がなぜ必要か
関係者・協力者に「なんだか、いける気がする」と思ってもらうために、事業計画は必要である。すなわち、良い事業計画は「チームのパワーの源」になるのである。
一方、「そもそも、事業計画どおりにいったベンチャー企業の経営なんて無いから、事業計画は不要では?」「計画なんて立てなくても協力者を納得させることができる」と思っている人もいるかもしれない。
しかし、ファイナンスの枠組みに沿った事業計画をたて、それを説明して質疑を受けることで、結果として「説得力がある」「将来性がありそう」と思ってもらえる確率は高まる。また何より、事業計画を作ることによって起業家自身の考えが深まり、実現可能性が推し量れたりするのが「事業計画策定から得られるメリット」である。
事業計画書の構成
エグゼクティブ・サマリー
1~2分で関係者に「面白い!」と思ってもらえないと、そのあとの話は聞いてもらえない可能性がある。会社の概要
具体的には、下記項目などが入る。
・会社の資本金などの基本事項
・マネジメントチームの概要(略歴、職歴、この事業に使えるノウハウ)
・組織図
・現在の事業内容の概要
・顧客
・その他外部環境
具体的には、下記項目などが入る。
・市場の概要
・市場規模/成長性
・市場の構造(競争環境とKSF)数値計画(損益や資金調達の計画)
具体的には、下記項目などが入る。
・事業の基本的な戦略
・販売計画
・人員計画
・損益計画(予測財務諸表)
また、数値計画では下記内容がわかるようにしておく。
・市場規模や顧客数、シェア、単価などの前提条件
・売上原価
・広告費、販売促進費
・人件費
・福利厚生などの費用
・賃料
・減価償却費
・その他経費
・営業外費用や法人税
よくチェックされるポイントは
「いつ、どのくらい利益が出るか」「いつ、どのくらいの資金が必要になるか」などである。検討している資金調達の概要や資本政策
具体的には、下記項目などが入る。
・EXITをどうするか(上場を目指すのか、バイアウトを目指すのか)
・想定している企業価値の根拠
・資金調達のスキーム
・株主構成(資本政策表)
※ その他、書籍の本章には「各項目の考え方詳細」「良い事業計画とな?」といったことも書いてあった。
第4章:企業価値とは何か
事業価値・企業価値・株主価値の違い
事業価値
事業用資産の価値から、その事業で発生した買掛金や未払金などの負債を差し引いたもの。
企業価値
上記の事業価値に、事業に使っていない資産を加えたもの。
株主価値(株主資本価値)
上記の企業価値から、債権者から借入れている有利子負債を差し引いたもの
また、株式の価値は、株主価値を株式数で割ったものになる。
しかし、普通のベンチャー企業は事業に使わないような資産を持つ余裕はない。また、銀行からお金を借りたくても貸してもらえないことも多い。そのため、創業期のベンチャー企業においては、事業価値≒企業価値≒株主価値であることが多い。
※ その他、書籍の本章には「企業価値の評価方法(DCF法、マルチプル法など)」といったことについても、詳細に書いてあった。
第5章:ストックオプションを活用する
ストックオプションとは何か
ストックオプションは「将来の可能性」をベンチャー企業の推進力に変換する仕組みである。
ストックオプションの基本的な仕組み
ストックオプションは、実務的には「将来、ある一定の条件で(安く)株式を購入できる権利」であり、その「1株いくらで株式購入できるのか」の価格を「行使価格(Strike Price)」と呼ぶ。
なお、ストックオプションは株を買う「権利」であって「義務」ではない。そのため、上場やバイアウトなどで株を売るチャンスが来た時でも、1株当たりの金額が行使価格より低い場合には損をするだけなので、誰も行使しない(すなわち、利益ゼロになる)。
また、ストックオプションは「いい人材に来てもらいたい」「将来、会社が成功したときに頑張ってくれた役職員が報われるようにしたい」という意図で設計されるものであるため、通常は、ストックオプションを受け取ってから2年程度は行使できない形となっている(この行使できない期間をクリフと呼ぶ)。
そして、行使できるようになってからも、すぐに100%が行使できるのではなく、何年かに分けて行使できるようになっている(この設計をベスティングと呼ぶ)。
※ その他、書籍の本章には「ストックオプションの設計」について、会計処理の観点なども含め、詳細に書いてあった。
第6章:資本政策の作り方
資本政策とは何か
「資本政策」とは、資金調達や株式公開などを考慮して、必要な金額が調達できるか、公開時の持ち株比率は妥当な水準か、などを考慮する戦略や計画のこと。別の言い方をすると「どのような株主に、いくらの株価で、何株分の株式やストックオプションを割り当てるか」を計画したものである。
資本政策を作るには、まずは「事業計画」を立てる必要がある。
そこから将来キャッシュフローの計画が立ち、企業価値を算定できるようになる。そして、将来の一定時点での企業価値が仮定できれば「ある時点で何株発行すればいくら調達できるか」が決まっていくる。
資本政策の重要性
創業してから成長を志すベンチャー企業にとって資本政策を考えることが重要なのは「資本政策の間違えは、初期の間違えほど、後になってからの修正ができないため」である。特に創業者の持分は「一度薄まったら、二度と高まることはない」と思った方がよい。
法律面から考える「妥当な」持株比率
投資家(株主)が5割超を持つ場合
一人の投資家(株主)が5割を超える株式を持つと、株主総会の普通決議で自分の思い通りに決めることができるようになる。ただし、3分の1超を持つ投資家(株主)はその事項に対する拒否権を有する。
投資家(株主)が3分の1超を持つ場合
その株主は決議事項に対する「拒否権」を持つようになる。
投資家(株主)が3分の2超を持つ場合
特定の投資家(株主)に3分の2超を持たれてしまうと、拒否権も使うことができない状況となる。
※ その他、書籍の本章には「ストックオプションの適切な発行量」などの具体的な話も含め、詳細に書いてあった。
第7章:投資契約と投資家との交渉
投資契約とは
投資契約とは、ベンチャーキャピタルなどの投資家が投資を行う際に、投資家、会社、そして経営者などとの間で締結される契約のこと。
「なぜ、投資契約が必要なのか?」というと、それは「投資というのは、未来を考えることだから」である。つまり、未来は本質的に不確実性を伴い、その不確実性に対する考え方は人それぞれであるのため、最初に基本的な考え方をすり合わせして、合意しておく必要がある。
そして、「投資契約」が効果を発揮するのが「当初の想定どおりにいかなかった時」である。ただし、ベンチャー企業が「すべて、当初の想定どおりです」なんてことは、まずないと思った方が良い。
ゆえに、うまく行かなかった際(最悪の事態)も、想定して、投資家や経営者の間で事前にすり合わせしておくことが必要である。
日本のベンチャーキャピタル
投資が決まるまでの間は、経営者(会社)からすると投資家は「利害の対立する交渉相手」である。そのため、交渉を有利に運ぶためにも「その相手を知る」ということが重要となる。
以下、日本のベンチャーキャピタルについて、大まかに分類してみる。
大手・老舗のベンチャーキャピタル
1990年代以前からベンチャーキャピタルをやっている会社。
例えば、株式会社ジャフコ(ジャフコは上場している)などが挙げられる。
このケースでは、ベンチャーキャピタルがGP(General Partner)となって、投資事業有限責任組合や信託などを使ってファンドを運営している。
銀行・保険子会社二人組合型
このケースは「二人組合」と言って、親会社である銀行や保険会社と、そのベンチャーキャピタル子会社の2社でファンドを作っている。
一般的に、ハンズオンにはあまり熱心ではない。また、役員や従業員も親金融機関からの出向や転籍者が多い傾向にある。
事業会社系
一般事業会社やベンチャー企業の子会社としてベンチャーキャピタルが設立されるケース(1990年代後半から増えている)。親会社の特徴などで、1社1社タイプが異なる。
独立(ブティック)型
シリコンバレーなどでは、ほとんどがこのタイプ。
GP個人のキャラクターを前面に出して、投資を行っている。ハンズオンに熱心なところが多い。
投資家/ベンチャーキャピタルに何を聞けば良いのか
上述の分類はあくまで参考程度であり、重要なのは「個別のベンチャーキャピタルや投資家をよく見て、この投資家は何を求めているのか」を考えることである。
その際に、例えば以下のような点に注意すると良い。
どのくらいのファンドサイズなのか
例えば、ファンドサイズ5億円の投資家に3億円の投資をしてもらうのは難しい。(ベンチャー投資は博打ではなく、ある程度分散投資が必要であるため)
次のファンドを集める計画はあるのか(集まりそうなのか)
1回目に投資をしてもらったとして、2回目の投資をしてもらえそうかも見ておく必要がある。
そのファンドはあと何年くらい期限があるのか
ベンチャー投資のファンドは通常、7~10年くらいの期限を持っている。
ファンドの残り期限が2年しかないからと言って、急に「あと2年で上場しろ」と言われてもかなり厳しい。
ベンチャーキャピタルの人と話をする時に「期限が来たら、当社に投資して頂いた株式は、どういうことになるのでしょうか?」という質問をしてみると良いかもしれない。
どういった業種・段階の企業に投資をしているのか
現状と今後の方針を聞いてみると良いかもしれない。
担当者は、どの程度で配置転換されるのか
「この担当者は素晴らしい」と思っても、サラリーマンでどんどん担当者が変わってしまうファンドであれば、最後まで見てくれるとは限らない可能性がある。
ハンズオンしてくれるのか
ハンズオンとは、ベンチャーキャピタルがただ資金投資してくれるのではなく「戦略のアドバイス」「鍵になる役員や技術者などの紹介」「取引先の紹介」「戦略的提携のセットアップ」などをしてくれること。
「ハンズオンしてくれますか?」と聞くだけでは意味がなく、具体的に「何をどのくらいの頻度でしてくれるのか?」を聞く必要がある。
投資を受けるまでのプロセス
NDA(秘密保持)の締結
事業や資金調達の話をはじめるまでには、まず投資家にNDA締結をお願いする。LOI(基本合意書)またはタームシートの締結
日本では例が少ないが、より具体的な話をする場合には締結するのがベター。デューデリジェンス
「売上」「顧客数」「資本金」と言った事業計画の前提となる現状や、契約・会社法上の決議・決算などについて問題ないかチェックする。投資契約締結
投資の実行
※ その他、書籍の本章には「投資契約の具体例」などの話も含め、詳細に書いてあった。
第8章:種類株式のすすめ
種類株式とは
種類株式とは「普通株式とは権利の内容が異なる株式」である。
現状、日本のベンチャー投資に使われている株式はほとんど「普通株式(議決権があり、配当や残余財産の分配を受ける権利がある)」である。これに対して、アメリカのベンチャーキャピタル投資の場合は、ほぼ必ず優先株(Preferred Stock、種類株式)が使われている。
※ その他、書籍の本章には「種類株式の条件」など話が詳細に書いてあった。
今回は、以上です。