私たちを太らせる「ニセ食欲」とは?――『身体ミニマリスト―空腹感の近くで暮らす―』第1章まで無料全文公開!
2021年11月30日にICE新書より出版された書籍『身体ミニマリスト―空腹感の近くで暮らす―』(著:工藤 孝文)の第1章までを無料全文公開いたします!
はじめに――我慢するダイエットはもう古い
医療は日々進歩し、10年前には難しかったがんやアルツハイマーの治療も劇的に進んでいます。
しかし、肥満症の治療は遅々として進みません。実際には、減量に有効な食事や運動に関してのエビデンスはたくさん出ていますし、日本人の多くはそうした知識を共有しています。
それにも関わらず、多くの人がリバウンドを繰り返し心身ともに疲れ果ててしまう、という悪循環から一向に抜け出せずにいます。
なぜなのでしょうか?
理由はいくつかありますが、最大の原因は「ダイエット=我慢」が常識になってしまっているためだと考えます。
糖質制限やファスティングなど、巷では様々なダイエット法が注目されていますが、結局どれを選択しても食べたいものを我慢する必要があります。
この我慢こそが、ダイエットの天敵なのです!
確かに我慢をすれば、一時的に体重を落とすことはできます。しかし、重要なのは〝続ける〟こと。我慢を一生続けるなんて不可能に近いですし、人生の質を落とすことになりますから絶対にしてほしくありません。
それに無理な我慢はメンタルを悪化させ、脳内ホルモンのバランスを乱します。
幸福ホルモンが枯渇して糖質を欲したり、過食ホルモンが増えて本来体に必要のない「ニセの食欲」(過食)をかえって増大させてしまうのです。
本当にダイエットに必要なのは、我慢ではなく、自分の心や体と素直に向き合うことです。
そのために有効になるのが、肥満症治療のひとつである「行動療法」です。
自分のライフスタイルや食生活を客観的に把握・分析し、「自分が食べ過ぎてしまうのはなぜか?」「その原因に対して、どう対処すればよいのか?」というニセの食欲が起こる原因を探り、行動を変えていく治療法です。
また、ダイエットを繰り返してしまうもう一つの理由に、「認識のズレ」があります。
「ダイエットは我慢」「白米は太る」「運動不足だから太る」といった正しくない思い込みが多く存在し、痩せられない原因になっているのです。
本書では、行動療法を中心としたダイエット法や多くの人が抱える認識のズレ、メンタルを変える手助けとなる「漢方」についても紹介していきます。
行動療法を取り入れ、ダイエット力を上げることで、食べたいものを適切な量だけ欲する体=身体ミニマリストになることを目指していただきたいのです。
ニセの食欲を減らして、本来の食欲に応じた食生活を送ることができたら、我慢する必要もなくなり、心身ともに健康に過ごすことができるはずです。
また、世界では飢餓に苦しむ国も多く存在し、将来的には人口増加に伴って全世界的な食料不足も懸念されています。
その一方で、過剰な食料供給によるフードロスや肥満による生活習慣病が問題になっている国もあります。さらに牛などの家畜を育てる過程でCO2やメタンガスが大量に排出され、地球温暖化を加速させていることもわかっています。
そうした課題解決のため、フードテックといった技術も注目され、必要な分だけの食事を無駄なく生産・供給する世界を目指すことが求められています。
「贅沢で美味しいものを、お腹いっぱい食べることが豊かである」という時代は終焉を迎えつつあるのです。
同時に新型コロナウイルスの流行によって、自分自身と向き合う時間が増えたことで断捨離が社会現象になりました。シンプルに暮らすことが、丁寧に生きることや心の豊かさにつながるという考え方をする「ミニマリスト」が増えたのです。
実際に、衣食住やそれにまつわることがシンプルになるほど、考えるべきことが減り、ストレスも軽減されていきます。
身体のなかも同じです。一時的に痩せることを目的にした、我慢するダイエットは卒業しましょう。より豊かな生き方を手に入れるために、食べたいものを必要な分だけ食べ、心身の健康を保つ〝身体のミニマリスト〟を目指しませんか。
本書はダイエットの本質を解説しながら、私がダイエット外来でも行っている「工藤式ダイエット」をご紹介します。
さあ、少なく豊かに暮らす「身体ミニマリスト」になりましょう!
第1章 万年ダイエッターに告ぐ
∟そのダイエット法は一生続けられる?
炭水化物抜き、糖質制限、置き換え、プチ断食など、巷では様々なダイエット法が登場しています。
しかし、いっとき体重を落とすことができても、一生続けることができないのであれば、有効なダイエット法とは言えません。
本当の意味でのダイエットの成功とは、一時的な減量ではなく、その後の〝継続〟こそが鍵になるからです。
ところが多くのダイエット法は「食べたいものを我慢する」という前提の上に成り立っています。「ダイエット=我慢」が一般常識になっているのです。
しかし一度でも体験した方は理解できると思いますが、一生我慢を続けることは非常に難しいのです。
リバウンドを繰り返してしまう原因はここにあります。
過食を引き起こしているのは、脳内ホルモンの乱れです。
人間の脳はストレスを感じると、甘いものを欲します。これは糖質が、脳内で幸福ホルモンと呼ばれる「セロトニン」の分泌を増やしてくれるためです。
さらにストレスは、過食ホルモンも分泌させて食欲を増進させます。
こうして生まれた食欲は、すべて本来体に必要のない「ニセの食欲」です。
ダイエットのために強い我慢を強いれば、ストレスが増えてニセの食欲が増大し、痩せるどころか食欲は増すばかり。つらいだけで、すぐに限界が来ることは目に見えています。
我慢はダイエットの味方ではなく、むしろ天敵なのです。
ではどうしたらいいのか? というところは後ほど説明していきますが、まずは「ダイエット=我慢」は間違った知識であると理解してください。
また、ダイエットでは「飽き」にも注意が必要です。
たとえば、カカオ含有量70%以上のハイカカオチョコレートは、ダイエットに最適な食材のひとつであるとよく耳にしますよね。
でも、ミルクチョコレートが大好きな人が、妥協してハイカカオチョコレートを食べても、結局は満たされません。まったく食べないよりはいいと思いますが、続けているうちに「飽き」が訪れて、長続きしないのです。
また、りんごダイエットやプロテインダイエットなど、特定の食品をたくさん食べるダイエットも当然飽きがきます。置き換えダイエットなども、1~2食置き換えるだけとはいえ、やがて飽きてしまい、そのダイエット法は続けられなくなります。
つまり飽きないため、続けるためには、そもそも食べたいものを食べた方がいいのです。これについても後ほど詳しく解説していきます。
∟「ダイエット力」を身につけよう
私のダイエット外来では、毎日測定した体重を折れ線グラフにして記録してもらっています。するとグラフの形は必ずギザギザになります。下がって少し上がってまた下がる、という動きが繰り返されるのです。
減量中はこうした小さなリバウンドが必ず起こるため、思い通りに行かないと感じて挫折してしまう人も多くいます。
しかし、一直線にどんどん体重が落ちていくということはあり得ませんので、まずそこを認識してください。
そして目標体重に到達できたとしても、長い目で見れば多少のリバウンドは必ず起こります。
人が生活していく中で、仕事での難題や人間関係の悩み、家族の心配事など、自分ではコントロールできないストレスや変化が必ず生じます。状況は常に移り変わっているので、今はよい状態で体重を維持できていたとしても、明日急に大きなストレスが襲ってきて、メンタルが一気に崩れてしまうかもしれません。
会社の飲み会や年末年始の家族会など、意志に反してつい食べすぎてしまう機会が訪れることもあるでしょう。
女性であれば、月経など体調による過食のリスクも避けられません。
それに私たちの基礎代謝は加齢とともに日々低下し続けていて、同じ食生活を続けているだけでも太っていくのです。
こうした条件の中で、すべてを完璧にコントロールして、その都度過食を抑えこむのは非常に難しいことです。
つまり減量に成功しても、生活していればまた体重が増えるのは当然のこと。多少のリバウンドは基本的に起こるものだと思ってください。
それなのに、失敗(リバウンド)のたびに自分を責めて、強いストレスを感じていたら、さらなる悪循環に陥ってしまいます。「長い人生、体重が増えることもある。そしたらまた落とせばいい」ぐらいに考えて、あらかじめ想定しておくことでストレスを感じにくくなります。
ダイエットは、成功と失敗を繰り返しながら「3歩進んで2歩下がるのが常」ということをしっかり覚えておいてください。
こうした考え方を持つことは、「ダイエット力」を身につけることにつながります。
スリムな体型をキープしている人は、たとえ体重が増えても、その都度動揺せずに身体を戻すことができる、ダイエット力が高い人なのです。
∟「行動療法」にチャレンジ
過食は、脳内ホルモンの乱れによって引き起こされる「ニセの食欲」がおもな原因とお話ししました。
脳はストレスを感じると、幸福ホルモンである「セロトニン」の分泌を増やす糖質を欲します。ストレスは交感神経を活発にするので、副交感神経優位に戻すために、食べて胃腸の働きを活発にしたいという欲求が生まれるのです。
つまり痩せられない人は、脳内ホルモンが常に乱れている状態=心の問題を抱えている可能性が非常に高いのです。
ですからダイエットをはじめる前にまず、自分が抱えている問題を分析する必要があります。
ここで有効なのが、「行動療法」です。
厚生労働省のガイドラインでは、肥満症の治療として、食事療法、運動療法、行動療法という3つ治療方針が定められています。
このうち食事療法と運動療法は、一般的なダイエット法として広く知られています。みなさんがよく実施されているダイエットも、食事療法か運動療法、どちらも同時に行っていることも多いかもしれません。しかし、3つ目の行動療法を知る人は少ないのではないでしょうか。
行動療法とは、自分の食行動を見直すことです。
具体的には、まず体重や食事などを毎日記録してグラフ化し、ライフスタイルや食生活を客観的に把握・分析します。そして「食べ過ぎてしまうのはなぜか?」「どう対処すればよいのか?」というニセの食欲が起こる原因を探ります。
たとえば、「食べてないのに痩せない」と思っている患者さんに記録をつけてもらうと、自分が思っている以上に食べていたことが判明し、実行動と、自己認識がずれていたことに気づきます。
また、「会議がある月曜の前の晩は、ストレスでドカ食いしていた」「机の上にお菓子があると無意識に食べてしまう」などの食べ方のクセも見えてきます。
行動療法では、こうした「認識のズレ」や「食べ方のクセ」を把握することがポイントになります。
自分の食行動を知ると、ライフスタイルの中でどういう時に注意すべきかが見えてきます。「日曜の夜は食べ過ぎる傾向があるから、月曜の食事は軽めに済ませよう」とか、「机の上にお菓子があると無意識に手が伸びてしまうから、お菓子は机に置かない」など、対策をとれるのです。
こうして自分自身の食行動を客観的に把握して正しい対処をしていくことで、ダイエットは一気に成功へ近づきます。
∟あなたは食べ物依存症かも
「オフィスでいつもグミや飴を食べている」「テレビを見ながらおせんべいを食べてしまう」「ポテトチップスを食べはじめたら止まらなくなる」なんて経験はありませんか?
もし「痩せたい、食べたくない」と思っているのに、いつも何かを食べ続けてしまっているなら、食べ物依存症の可能性があります。
依存症とは、不安や緊張、憂鬱なことを和らげるために行なっていることを繰り返すうちに、脳内で繰り返しドーパミンが分泌され、脳の回路が変化して中毒状態になる症状を指します。
依存症になると、自分の意志ではやめることができなくなってしまいます。アルコール依存症、ギャンブル依存症、薬物依存症など、よく知られる依存症はどれもドーパミンの過剰分泌に慣れてしまった中毒状態で、非常に恐ろしい病気です。
こうした依存症は食べ物によっても引き起こされます。
食品の3大栄養素である糖質・脂質・タンパク質のうち、糖質と脂質の2つの栄養素は、快楽ホルモン「ドーパミン」や幸福ホルモン「セロトニン」を分泌させるため、食べるだけで脳は快感を覚えます。糖質や脂質でできた高カロリーの食べ物は、食糧がなかなか手に入らない原始時代には貴重なものだったため、食べることで快感を感じるようにインプットされているのです。
では、食べ物依存から抜け出すには、どうしたらいいのでしょうか。
上記にご説明したように、依存の原因はおもに脳内ホルモンにあります。このホルモンをコントロールするには、行動療法によって、ホルモン分泌と密接に関わるメンタルの問題を把握し、ライフスタイルを改善していく必要があるのです。詳しくは第4章で解説していきます。
∟ホルモンを制す者はダイエットを制す
前項までにたびたびホルモンが登場していますね。そう、脳内物質ホルモンは肥満と深く関わりがあるのです。脳内ホルモンの働きを知ることは、ダイエット成功への近道となります。ホルモンを制する者はダイエットを制する、といっても過言ではありません。
では、100種類以上存在する脳内ホルモンの中でも、特に肥満と深く関わる5つのホルモンを紹介していきましょう。
まずは皆さんもよくご存知の、幸福ホルモン「セロトニン」。
幸福感や心の安定、ストレス緩和などの働きがあります。ストレスや不安を感じると、セロトニン神経が弱ってセロトニンが不足します。
すると、脳はセロトニンの分泌を増やそうとして、簡単に分泌を増やしてくれる糖質を欲するようになります。イライラしているときに甘いものを欲するのは、セロトニンのせいだったのです。不足したセロトニンをなんとか増やそうとしているのですね。
また、セロトニンは、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料にもなります。
ですからセロトニンが不足すると、メラトニンも減少して、睡眠の質を下げることになります。
睡眠が十分でないと、満腹中枢を刺激して食べ過ぎを防いでくれる、食欲抑制ホルモン「レプチン」を減少させます。
さらに、食欲を刺激する、食欲ホルモン「グレリン」の分泌が増えてしまいます。
もうひとつ、肥満に深く関わるのが、快楽ホルモン「ドーパミン」。
やる気や向上心を高める働きがあり、快感物質として知られています。しかしドーパミンが過剰に分泌されると、快感を求める欲求が暴走して、食べたい欲求が抑えられなくなり、前項で説明した、食べ物依存症を招きます。
このドーパミンの過剰分泌を抑える働きをするのが、セロトニンです。
このように「セロトニン」「メラトニン」「レプチン」「グレリン」「ドーパミン」、5つの脳内ホルモンは、食欲に直結した働きがあります。また、それぞれが相互に影響し合っていることも理解しておきましょう。
特に注意したいのは、「セロトニン不足」と「ドーパミン過剰」です。
どちらも「ニセの食欲」を招く代表格です。異常に甘いものが食べたくなったり、食べることがやめられない状態になったら、「脳内ホルモンのせいでニセの食欲が出てきた」と思ってください。
では「セロトニン不足」と「ドーパミン過剰」を招かないため、つまりは「セロトニンを増やす」にはどうしたらいいでしょうか。方法は大きく2つあります。
①日光浴をする
一日15分~30分ほど散歩などをしながら、日光を浴びましょう。
また、ウォーキングや深呼吸をするなど、リズミカルな運動もおすすめです。
②必須アミノ酸トリプトファンを摂取する
トリプトファンは体内で生成できないため、食事から摂取する必要があります。
多く含まれる食材は、豆腐・納豆・味噌・しょうゆなどの大豆製品、チーズ・牛乳・ヨーグルトなどの乳製品です。また、ごま・ピーナッツ・卵・バナナなどにも含まれています。積極的に食べてください(ただし食べすぎには注意しましょう)。
このように、普段から高カロリーな食べ物を食べること以外の方法で、セロトニンを増やす生活を送ることを心がけると良いでしょう。
Copyright © 2021 Takafumi Kudo All rights reserved.
***
無料版はここまで。以降では我々の持つダイエットの誤解について、そして身体ミニマリストになるための具体的な方法などを医師の視点から詳しく解説しています。
続きを読みたい方は、ぜひ各電子書籍ストアお買い求めください。なお、Amazonでは紙書籍(ペーパーバック)での購入もできます。