見出し画像

為末大/今井むつみ『ことば、身体、学び』にて(読書の必要性)

私たちが、本を読むとき、無意識にやっていること。

今井 メアリアン・ウルフの『プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?』(小松淳子訳 インターシフト)という本をご存じですか? この本では、本を読むというのはいわば氷山の一角にすぎなくて、本を読めるようになるには、氷山の見えない部分に非常に豊かなたくさんのレイヤーが必要だということが書かれています。――p.104

 まず視覚をとおして、文字を画像として認識するところからはじまります。続いて文字を音に変換し、さらにそれらを組み合わせて、単語として認識するわけです。
 このプロセスだけでも非常に複雑ですが、単語を認識しただけでは読むことはできません。文の構文を分析して、文章の意味を読み取っていきます。
こう書くと、単語や構文の認識は脳の問題のように思えますが、実はそれを支えているのは、眼球の運動であったりするわけです。この眼球の運動には小脳がかかわっています。小脳は運動を制御する大事な役割を果たしています。実は読書には眼球の運動制御がとても大事なので小脳がかかわる運動制御が読書に深く関係しています。
 読書には本来こうした身体につながった部分がとても重要なのですが、そのことが一般には十分に理解されていないようです。
 文部科学省の指導要領でも読解力ということが言われています。確かにそのとおりなのですが、読解力というのは、文字という記号の意味を読み取るプロセスだけを指すわけではなく、その背後にある「文字列をデコード、つまり解読していって、文字から単語、文、文章の意味を構築していく一連のプロセス」がすべて大切なのです。言ってみれば、人間は身体がなければ読書ができないのです。――pp.105-106

3章「言語能力が高いとは何か」

 小学校の国語の授業で行われている、「ごんぎつね」を読む時の登場人物の気持ちや状況などの読み取り訓練は、氷山でいうと海面から頭が出ているごく一部分にすぎないのです。
 よい読み手になるには、その氷山から頭を出している部分を下階層でがっちりと支える必要があります。下階層というのは、目の動きを中心とした運動制御や単語へのアクセス、つまり書かれている文字の中から知っている単語を認識し、脳にアクセスして語彙を引っ張ってきて、書かれていることを再構築するという情報処理をシームレスに行うことです。
 それらの無意識で自動的に行っている認知機能がスムーズに自動的にできてはじめて、論理的解釈や、主人公の気持ちを読み取るなどの上位の階層にたどりつけるわけです。そしてそのためには、できるだけ氷山の下を豊かで堅固なものにして自動的にすぐに使えるような状態にしなくてはなりません。
 そうした訓練をするという意味でも、読書は非常に重要で、本を読む習慣はとても必要なことなのです。――pp.106-107

3章「言語能力が高いとは何か」

読書は、無意識(身体性)が支えている、という話。

以上、言語学的制約から自由になるために。