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堀川理万子さんが描く、しあわせな「こども時間」 ~童話『アンニンちゃんとパオズ』ができるまで~
花のにおいを感じ、虫の羽音におどろき、五感をいっぱいに開いて、どんなことにもワクワクドキドキした、しあわせな「こども時間」。
noteを読んでる大人のみなさんにも、きっとそんな記憶がよみがえってくる、ちいさなおはなし7話がおさめられた童話集『アンニンちゃんとパオズ』ができました!
『アンニンちゃんとパオズ』を制作している間は、担当編集のわたしにとっても、ワクワクドキドキの素敵な時間だったので、みなさんにもお伝えできたらなと思います。
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『アンニンちゃんとパオズ』
作・絵/堀川理万子
アンニンちゃんは南の島に住む女の子。
虫取りしたり、歌をつくって歌ったり、ちょっぴりいたずらしたり……楽しい毎日。
ある日、すてきな相棒・子犬のパオズがやってきました!
パオズとの出会いからアンニンちゃんの世界がどんどん広がります。
出会い
あれは何年前のことでしょう。
絵本作家にして画家の堀川理万子さんの個展で、「アンニンちゃん」「パオズ」と名づけられた、手づくりのお人形に出会ったのは……。
それは、陶器でできたあやつり人形で、手足が、かくかく、かくかく…って、リズミカルで、楽しそうに動くのです。
(ここでお見せできないのが残念!)
名前もなんだかおいしそう。
それからしばらくして、この子たちを主人公にした小さなお話が、全3回で、とある冊子に連載されることになったのです。
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南の島に住む天真爛漫なアンニンちゃんの物語は、はじめて見たお人形以上に、リズミカルに楽しそうに、物語の中を動き回っていました。
ズキュン! か、かわいい……!!!
第1回から心を打ちぬかれた、わたし。
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堀川さんが手彩色してくださったスペシャルバージョン。
挿絵が愛らしいのはさすが堀川さんなのですが、おどろいたのは、ことばのセンス。
とってもチャーミングで、どこかユーモラス。
こんな愛嬌のある文を書くことは、たとえどんなに研鑽を積んだからとて、なかなかできるものではありません。
もっと見たい! もっと読みたい!
すっかり『アンニンちゃんとパオズ』のトリコになってしまいました。
毎月ひとつ、おはなしを
「毎月一話、『アンニンちゃんとパオズ』の小さなお話を書きためて、本にしませんか?」
『アンニンちゃんとパオズ』の魅力にとりつかれるあまり、気づけば堀川さんにこんな相談をしていた、わたし。
「おはなしつくるのって、むずかしい……」
さいしょはそう不安をにじませていらした堀川さんでしたが、幼いころのこと、おもしろいお友だちのこと、ふだんの創作のこと……、あれこれおしゃべりしているうちに、最後には「やってみましょう!」とおっしゃってくださいました!
奇跡!
堀川さんの心意気に感謝です!
絵本作家としても、画家としても、多忙な毎日を過ごされている堀川さんを前に、よくこんな相談ができたものだと顔から火が出るようですが、でも、勇気を出してお話してみてよかった!
それから、堀川さんとの月1回のやり取りが始まりました。
まずは連載で書かれた作品に、手を加えて。
そして、ちっちゃなエピソードをまた一本、また一本。
それをいちばんに読めるしあわせといったら!
編集者になってよかった……と思う瞬間です。
堀川さんの手で書き進められるアンニンちゃん。
最初に口にされていた不安とはうらはらに、じつに、自由に、のびのびと、いろんな体験をしていきました。
本の中心
そうして1年が経ったころ、
10編のアンニンちゃんのお話ができあがっていました。
そのなかから、選んで、並べて、また選んで。
アンニンちゃんのいろんなエピソードのなかから、パオズとの出会い、そしてエドくん、ワヤンくんという「友だち」ができていくおはなしを本のまんなかに、7編のお話を収録することになりました。
アンニンちゃんの友だちは、この1ぴきとふたり。
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おっとりしているけど、かしこいこいぬ。
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物語の全体像が決まってから、一気にラフを進めてくださった堀川さん。
おはなしが魅力的になるページ構成を検討し、何度も何度も描き直して。
絵にあわせて、言葉を削って削って、また言葉を選び直して。
その労力を惜しまないお仕事ぶりには舌を巻きました。
「絵を描くのは好きだし、描いてみないとわからないの」
絵を描くことが職業となっても、「絵を描くことが好き!」と笑顔で言える堀川さんは、天性の画家です! わたしは感動しっぱなし。
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いちばん手前が、最終のイラストラフのコピー。
第1章の最初のページのアンニンちゃんは、
躍動感いっぱいの絵に変化しています。
印刷のこと
お話を書き進めていただき、ラフを描いていただきながら、
さて、どんな本に仕立てていくか……わたしには、密かな野望がありました。
じつは、わたし……2色刷り印刷が大、大、大好きなんです。
特色インキで刷るので、ふだんの4色かけ合わせの印刷では出せない美しい色合いの印刷になること。
それでいて、読者に色彩を想像する余白を残してくれるところ。
ずっと憧れていた形を、堀川さんの絵で実現できたら、どんなにすてきな本になることでしょう!
でも、言うまでもなく、絵を描くのは堀川さん。
2色刷印刷の絵を描くって、なかなかたいへんなことなんです。
しかも、今回構想しているページ数は、絵本のおよそ4倍の全128ページ!
欲望のままに、またしても、この図々しいお願いを相談してみることにした、わたし。
おそるおそる……でも、心の中は高揚しつつ、堀川さんに相談すると、これまたご快諾くださる!
むしろ「いいと思う~! 2色印刷って上手にできるとオシャレだよね」と、よろこんでくださる!!
なんと懐の深い!
あこがれを現実にしてくださった堀川さんに、わたし、足を向けて寝られません!
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見開きすべてに絵が入るため、こんなにたくさん!
絵の一部ができたところで、印刷所さんにテスト印刷を依頼しました。
堀川さんの絵のタッチが、カラーページ、2色ページ、それぞれどんなふうに印刷で出るのか確認しながら、微調整を重ねて慎重に進めていきました。
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アンニンちゃんとパオズは、
通常のブラック(K)とDIC F35ブルー・シエルという色(C)の2色刷り。
C版の青色は、原画に近い色を堀川さんがセレクト。
中嶋香織さんのデザイン
本の方向性がざっくりと決まってから、デザイナーの中嶋香織さんに参加していただきました。
作品のコンセプトと堀川さんのラフをお渡しすると、
「アンニンちゃんのいる島に住みたいなあ、と思ってしまいました」
と、うれしいひとこと。
『アンニンちゃんとパオズ』では、堀川さんにカバーイラストを描いていただく前に、絵のコンセプトやレイアウトを中嶋さんも交えて打合せさせていただきました。
そして、できあがってきた表紙と帯のデザインは、最初から完璧!でした。
堀川さんと中嶋さんの息がぴったり合った、表紙です。
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「と」に赤い丸が入ることで、グッと元気な印象に。
帯には、本文の中の元気いっぱいのアンニンちゃん!
中嶋さんはことばどおり、アンニンちゃんのいる島に住みこんで、本のデザインを考えてくださったんだなぁと思います。アンニンちゃんのくらしに寄り添い、美しく、あたたかで、元気いっぱいのデザイン。ご紹介した表紙と帯のデザインのほか、造本から本文の文字組み、絵の配置まで、細やかな心配りが、読み心地のよさにつながっています。
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作品イメージにあわせたブルーのしましま。
ぜひご注目ください!
アンニンちゃん、こんにちは!
駆け足でふりかえってきましたが、
ここに、ようやく『アンニンちゃんとパオズ』をお届けすることができます。
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ひろい世界にとびだして、アンニンちゃんに、たくさんの友だちができますように!
え⁉ のこりの3編のおはなしは、どうしたのかって⁉
それは、またべつのおはなし。
(文/編集部 井出香代)