見出し画像

「Me First!」な人びと (家で★深読み)

10年ほど前に、精神科医で小説家でもある岡田尊司氏の著書「パーソナリティ障害―いかに接し、どう克服するか」を読みました。

その本ではパーソナリティー障害をいくつかの項目に分類していますが、中でも釘付けになったのが、

《自己愛性パーソナリティー障害》

でした。

知人に、個人能力は高いけれど、傲慢・尊大で真顔で嘘をつき、他人を誹謗する一方、自分を称賛し、批判されることには敏感に反応、上昇志向が極めて強い、という人物がいました。
個人能力の発現では功績も大きいが、パワハラや同僚を貶める行為などを通じて組織力にはマイナスになる、という人物です。
その人の顕在人格が、この項目にかなり合致していたのです。

自己愛性パーソナリティ障害の症状
・人より優れていると信じている
・権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす
・業績や才能を誇張する
・絶え間ない賛美と称賛を期待する
・自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する
・人の感情や感覚を認識しそこなう
・人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する
・人を利用する
・劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる
・嫉妬されていると思い込む
・他人を嫉妬する
・多くの人間関係においてトラブルが見られる
・非現実的な目標を定める

・容易に傷つき、拒否されたと感じる
・脆く崩れやすい自尊心を抱えている
・感傷的にならず、冷淡な人物であるように見える

“Narcissistic personality disorder: Symptoms”. MayoClinic.com. (2 Dec. 2011.).
和訳はWikipediaより引用 

その人物にはできるだけ近寄らないように過ごしていました。

そして、再度この《障害》を思い起こしたのが、2016年でした。
そう、アメリカ大統領候補として登場した、ドナルド・トランプの言動を目にし耳にした時です。
彼は主に、
➀ 自分がいかに優れているか
➁ ライバルがいかに劣っているか

の2点を、特に具体的データを出すことなく、時に場当たり的な嘘を交え、時には相手の容貌や身長、年齢、出自などを馬鹿にしながら《居酒屋トーク》調で語り、絶大な人気を得ました
トランプ氏のキャッチフレーズは、
「America First!」
でしたが、次第にわかってきたのは、具体的な公約とからめたこのフレーズは嘘ではないものの、あくまでも彼の《手段》であり、《目的》ではないことでした。
彼の真の目的が、
「Me First!」
であるのは明らか
でした。

(この人は、間違いなく《自己愛性パーソナリティー障害》だ)

と確信しました。

そして、《Mr. Me First》は大統領選挙にも勝利し、《President Me First》になりました。
4年間の在位期間中、彼は、大統領としての自分自身に対してはもちろんのこと、彼が行う政策のほぼ全てに、
《史上最高の》
との形容詞を付けることを怠らず、前任者の施策のほとんどを、
《史上最悪の》
の形容詞でこき下ろし、我々に《Me First》ぶりを見せつけて
くれました。

大統領就任後まもなく、米国でも精神科医らが、
「ドナルド・トランプは《自己愛性パーソナリティー障害》である疑いがある」
と警告した
そうです。

さて、下野した後も《Me First》ぶりはまったく衰えることなく、今週初めにはこんな記事が出ました。

トランプ前米大統領がロシアのプーチン大統領に、バイデン米大統領の息子の醜聞を握っていれば情報を公開するよう呼びかけた。11月に中間選挙が控える中、2016年の大統領選時に続くプーチン氏への“頼み事”。ウクライナでロシアが重ねる残虐行為が明るみに出てもなおすり寄る姿勢に厳しい批判が出ている。

共同通信 4/4(月) 配信

欧米の首脳だけではなく、一般の国民のほとんどがプーチン・ロシアのウクライナ侵略と残虐行為に怒りの声を上げる中、この発言です。

「厳しい非難が出ている」とのことですが、トランプ氏としては《首尾一貫》している、と言えるのではないでしょうか。

つまり、彼の本質は《America First》ではなく、《Me First》なのですから、
〇《真の敵》は、
・アメリカの敵(民主主義の敵、自由主義の敵)であるプーチンではなく、
・トランプ氏個人(Me)の敵であるバイデン大統領なのです。

誤解を恐れずに言うならば、ウクライナの国土や人びとがあれだけ蹂躙されても顔色を変えることなく、《Me First》を貫いているのは ──(《立派》という言葉を使うと物が飛んできそうなので) ── 徹底している、と言えます。

これはやはり、単なる《Mr. Me First》ではなく、《自己愛性パーソナリティー障害》なのかもしれません。

《自分自身以外に ── 例えば、家族を虐殺された人の心に ── 座標軸を移して考えることができない人》
なのでしょう。

今回、ウクライナ侵略を命じた人も、(こちらは見事に隠しており、タイプはまったく異なりますが)本質は《Me First》なのでしょう。
この人はあるいは、《Me》と《Russia》を完全に重ねているのかもしれません ── 《皇帝》として

この人たち以外にも、「強権政治」と言われている政治家はほとんどが《Me First》であり、親族を要職に就けたり、敵対勢力を(ジャーナリズムを含め)弾圧したり、トップに君臨する任期を限りなく延ばしたり、個人崇拝を求めたり、── しています。

冒頭に挙げた、「《自己愛性パーソナリティー障害》が疑われる厄介な人」は、優れた個人能力を背景に自分が組織のトップに立つべきだ、と信じていました
けれど、健全な組織はそれを許しませんでした

《Me First》な人びとが政治リーダーになる国は、本人がよほど巧妙にそれを隠したか、リーダーを選ぶシステムに問題があるか、あるいはその両方なのでしょう。

《Me First》なリーダーに率いられた国は、《Mr. Me First》が権力を己に集中させ、次の段階(↓)に進んでしまう、怖ろしいリスクがあります。


いいなと思ったら応援しよう!