短編小説 | 🎁わたしのバレンタイン🍫
(1)1997年2月14日7:30
今日は早番だから、職場に7:30に着いた。休憩室で一服している同僚に、「おはよう」と挨拶する。
売場に出て、在庫品のチェックをする。荷物はまだ届いていない。荷下ろしまでの時間、私はいつもと同じ作業をする。
鮮度の落ちた商品を撤去する。そのあと、パックされたカボチャやレンコンなどのカット野菜の切り口を薄く切り取り、再びパッカーでパックし直した。
そのあと、ステンバットを洗い、氷を敷き詰める。ブロッコリーの切り口を包丁で切り直す。鮮度がよくなったように見える。バナナの房の部分も、包丁で切り口をキレイにした。
(2)8:30
やっと、昨日発注しておいた商品が届く。バックヤードの冷蔵庫(冷蔵室)には、ほうれん草の在庫がなかった。
カートに載った商品から、ほうれん草のダンボールを探す。水槽に、ほうれん草を入れて、「蘇生」作業を開始する。冷たい氷水に入れて、ほうれん草をシャキッとさせる。アカギレに染みた。
しばらく冷蔵庫に入れたあと、萎びた葉っぱを取り除き、次々に陳列していった。
(3)9:00
パートのおばさんたちが到着する。ミニトマトを計量させ、パック詰めしてもらう。途中、影に隠れて、イチゴをつまみ食いしたことを軽く叱る。おばさんが言う。
「おなか空いちゃって。ごめんなさい」
「おなかすいたなら、バナナにしておいてくださいね」と私。
遊んでる暇はない。間もなく、どうでもいいのだが、店長の朝礼が始まってしまう。
(4)9:30
社歌が流れ始める。所定の場所に従業員が集まる。みな、適当に歌いながら、整列した。
「今日はバレンタインデーという形で、売上目標はですね、○○万円という形で、チャンスロスのないような形で、皆さん、ベクトルを合わせるような形で......」
店長の店長による店長のための朝礼。
「くだらねぇ」と思う。
何でも「...という形で」がウザイ!
「ベクトル」は「方向」と「大きさ」を持つものなの!一番仕事ができる人は、一番仕事ができない人に「大きさ」を合わせなくちゃいけないの?あんたの言いたいこと、「ベクトル」じゃなくて、単なる「方向」だよね。
(5)12:30 ランチタイム
売場に並んでいた商品のチョコレートを買ってきて、おばさんが私にくれた。
形式的に「ありがとうございます」と言った。ホワイトデーにはお返しをしなくてはならない。この店で買って。。。
(6)17:30
今日は早番だったから、あとは同僚とバイトの学生に仕事を任せて、私は家に帰ろうとした。
そのとき、店長に出会ってしまった。
「悪いんだけどさぁ。ちょっと売れ残りそうだから、ひとつチョコレート買っていってくれないかなぁ。少し、値引きするからさ...」
私は値引きのチョコをひとつだけ手に取り、レジに並んだ。
「お先に失礼します」
今日の予定はこれで終わった。