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読書 | エリック・ホッファー「魂の錬金術」
はじめに
エリック・ホッファー(中本義彦[訳])「魂の錬金術」(作品社、2003年第1刷)。この本は箴言集なので、どこからでも読むことができる。
ホッファーの名前を知ったのは、図書館で借りて読んだ「波止場日記」である。波乱に満ちた人生をおくった人である。
エリック・ホッファーとは?
「魂の錬金術」では、次のように紹介されている。
エリック・ホッファー(1902--83)
アメリカの社会哲学者・港湾労働者。
ニューヨークのブロンクスにドイツ系移民の子として生まれる。
7歳のとき失明し、15歳のとき突然視力が回復。正規の学校教育を一切受けていない。
18歳で天涯孤独になった後、ロサンゼルスに渡りさまざまな職を転々とする。
28歳のとき自殺未遂を機に季節労働者となり、10年間カリフォルニア州各地を渡り歩く。
41年から67年までサンフランシスコで港湾労働者として働きながら、51年に処女作 The True Believer(邦訳『大衆運動』)を発表し、著作活動に入る。
この間、64年から72年までカリフォルニア大学バークレー校で政治学を講じる。
つねに社会の最底辺に身を置き、働きながら読書と思索を続け、独自の思想を築き上げた<沖仲仕の哲学者>として知られている。
「魂の錬金術」
作品社より
沖仲仕(おきなかせ、おきなかし)とは、船から荷物を下ろしたり積んだりする人のことである。現在では「港湾労働者」と呼ばれることが多いようだ。
略歴を見てもわかるように、港湾労働者となり、処女作を発表するまで、世間的にはずっと「負けつづけてきた人」である。失明したり、急に視力が回復するという経験だけでもすごいのに、正規の教育を受けていないにもかかわらず、著作まで書くほどの努力を肉体労働をしながらおこなった。こういう経歴だけでも興味深い。
「魂の錬金術」より、いくつかの箴言を紹介します。
ホッファーの箴言は、1行から3行程度のものが多い。長いものでも半ページくらいの長さである。どれも素敵な言葉ばかりだが、いくつか挙げてみる。
蛇足とは思うが、「→」のあと、私の感想を添える。
●われわれは自分自身を見通すときにのみ、他人を見通すことができる。
●自分自身の心が読めない人は、真の教養人とはいえない。
→まずは「汝自身を知れ!」ということですね。たくさんの論文を読み、誰々はこう言っている!、ということを知っているだけでは「教養人」ではない。
内省ができない者に、どうして他人の心が分かるだろう?
●いざ跳躍しようとするとき、足場を気にする者は誰もいない。自分の位置の安全性を気にしはじめるのは、跳躍すべき場所がないときである。成功を手にする者は、安全性を気にしない。
●わずかな悪意がどれほど観念や意見の浸透力を高めるかは、注目に値する。われわれの耳は仲間についての冷笑や悪評に、不思議なほど波長が合うようだ。
→痛いところをつきますねぇ😊。だけど真実だから仕方ない。
●押しボタン文明というものは、成長による変化---静かに、ほんの少しずつ進行する変化を感知できない。驚くべきは、神学者もまた、成長による発展を感知できないことである。彼が抱く創造の変化についての観念は、技術者や革命家のそれに劣らず、押しボタン式なのだ。
→「こうすればこうなる」ということを「押しボタン式」と呼んでいるのだろう。お金を入れれば商品が出てくる自販機のように人間を扱う者への警告だろう。人によっても反応は違う。同じ人だって変化しうるということを忘れてはいけない。
●非同調主義者は、同調的な人間よりも一定した型をもっている。現在に生きる人間で、他の時代や文明の人間と最も顕著な違いを示しているのは、平均的な人たちである。現在の反抗者は、ああらゆる時代と地域に見られる反抗者の双生児にすぎない。
→たしかに。言われてみればそんな気がする。どの時代のどの国でも、「革命児」とか「風雲児」と呼ばれるような人は互いに似ている。しかし、一般大衆は全然違う。
●他者への没頭は、それが支援であれ妨害であれ、愛情であれ憎悪であれ、つまるところ自己からの逃避の一手段である。奇妙なことに、他者との競争⎯他人に先んじようとする息もつかせぬ競走は、基本的に自己からの逃走なのである。
→恋人、自分の子ども、あるいは仕事。そういったことに没頭することは、自分からの現実逃避である。
本当に自分自身のためにしたいことは、そんなことじゃないでしょう?
●未曾有の状況下で知識や経験が役立たないとき、無知で未熟な者のほうが状況にうまく対処できる。未知のものや未試用のものは、いわば不適応の状況に対して特別の適応性を示すからである。
→ふだん何もできないことが、なんかとても素敵なことに思えてくる。
なにも知らないこともまた良し。
●思考の始まりは、意見の不一致にある。他者だけでなく、自分自身との不一致である。
●待つことは、時間に重みを与えることである。
●老人にとって新しいことは、たいてい悪い知らせである。
→私は馴染んだことやものが新しくなるのが大嫌い。老人なのかもしれない。
●他人を愛する最大の理由は、彼らがまだわれわれを愛しているということである。
→自分のことを嫌っている人を愛せないのは当たり前。
●誰かに同意するということは、その人と一緒に憎悪する機会の多さを意味している。
●過去の不幸の記憶を大切にするのは、よいことである。それは、いわば不屈の精神の銀行をもっているようなものである。
●幸福を探し求めることは、不幸の主要な原因のひとつである。
結び
読み始めたら、どれも珠玉の言葉ばかり。もう一度、全部読んでみたいと思う。
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