#7 <前話 一覧 #8 しあげ 車が走る音さえも聞こえない。 自分たちの足音と馬が牽く送り車の車輪の音だけ。 昼間とは思えない静寂の中、帰路を粛々と歩き続…
#6 <前話 一覧 次話>#8 #7 かえり いや気の所為だろう。 閂を開ける音はしなかったのだから。 そもそも人が居るわけない。 だって目の前の一世…
#5 <前話 一覧 次話>#7 #6 みそぎ 橋を渡ってから体感で三分ほど歩き、御曽木堂の北端である現在の入り口へとようやく到達した。 馬の手綱を先々代…
#4 <前話 一覧 次話>#6 #5 なれそめ 桃歌は見える人だった。 それ故に、家族を亡くしたこと以外でも孤独だった。 僕と桃歌は出会ったというより…
#3 <前話 一覧 次話>#5 #4 おくり 『おくりもん』の流れは決して返してはいけない。 だから先代のあと先々代へと戻ることはできない。 新しい『…
#2 <前話 一覧 次話>#4 #3 さきぶれ 東の旗二本を玄関の内側へと立てかけてから草履を履く。 なぜ靴じゃなく草履なのかというと、野辺帰りで死上げ…
#1 <前話 一覧 次話>#3 #2 ととのえ 今一度体を清めた後、礼装に袖を通す。 小袖に袴、浄衣 、その全てが純白の。 神職の衣装に似ているが、烏帽…
あらすじ現代ではすっかり珍しいものとなった野辺送りという風習がある。その地域では野辺送りに加えて野辺帰りというものも合わせて一連の儀式とされている。その野辺の送…
#24 <前話 一覧 エピローグ 長い長い夢を見ていた。 わたしはその夢の中で、一人の少女と出会った。 金色に透き通るような髪の長い女の子。 その子はトリ…
#23 <前話 一覧 次話>エピローグ #24 一緒に お地蔵さんの通路まで戻ると、丸守さんが静かに語り出した。 「帰り道は少し昔話をしてあげよう。丸馬と…
#22 <前話 一覧 次話>#24 #23 土地の名前 先生が驚いたのも無理はない。 丸守さんの照らしたなかに浮かび上がったのは、狭いトンネル内の両側に並…
#21 <前話 一覧 次話>#23 #22 城 目眩がまた僕の足もとからすり寄ってくる。 ぞくり、と背中が勝手に震える。 そうだよね、鏡なんてたくさんある…
#20 <前話 一覧 次話>#22 #21 夏草 言葉にならない何かを感じた。 虫の知らせってやつ。 たくさんの超常現象に触れたおかげで、欲しくもないと思…
#19 <前話 一覧 次話>#21 #20 好きと言う資格「なあ、トリー……僕の体を使うことはできないか? 僕の中で一緒に生きていくことはできないか?」 …
#18 <前話 一覧 次話>#20 #19 夏草の露 僕は黄金髑髏を両手で抱えて、その空虚な眼窩を見つめた。 「申し訳ないですが、もう少しだけ手伝ってくださ…
パンダ番長(だんぞう)
2024年8月17日 21:06
2024年7月17日 22:05
#7 <前話 一覧 #8 しあげ 車が走る音さえも聞こえない。 自分たちの足音と馬が牽く送り車の車輪の音だけ。 昼間とは思えない静寂の中、帰路を粛々と歩き続ける。 普段なら沿道の田畑で農作業をせざるを得ない人たちは、通り過ぎるまではこちらに背を向けてしゃがんだりしているものだが、今日はそうやって外に居る人自体を見かけない。 相次ぐ分家筋の当代の死によって、送り帰りの儀式の効力が疑わ
2024年7月16日 22:23
#6 <前話 一覧 次話>#8 #7 かえり いや気の所為だろう。 閂を開ける音はしなかったのだから。 そもそも人が居るわけない。 だって目の前の一世代前の安置場への入り口扉の閂は閉じている。 侵入者がいたとしたら、協力者が居た? 確かに板鍵一枚で開く簡単な錠前だが、地元では忌み地扱いのこの野辺に好き好んで入り、わざわざ奥の安置場へと潜んで閂までかけてもらって? 啓介の
2024年7月15日 21:08
#5 <前話 一覧 次話>#7 #6 みそぎ 橋を渡ってから体感で三分ほど歩き、御曽木堂の北端である現在の入り口へとようやく到達した。 馬の手綱を先々代へと渡し、松明の火は砂をかけて消す。 一礼のあと匣鞍の左側より名帖を取り出す。 また一礼して匣鞍をいったん閉じる。 名帖を抱えたまま送り車の左横へ。 馬に向かって一礼したら送り車の台板に半分だけ腰掛け、名帖を左手に抱えたま
2024年7月14日 22:18
#4 <前話 一覧 次話>#6 #5 なれそめ 桃歌は見える人だった。 それ故に、家族を亡くしたこと以外でも孤独だった。 僕と桃歌は出会ったというよりも、周囲から二人だけ取り残されたという表現の方が近い。 大学では僕も浮いていたから。 狭いコミュニティの、しかも特殊な環境で育ったせいで、こんなにも常識が異なるのかと思うことばかりで。 それに軽い女性恐怖症になっていた、とい
2024年7月13日 21:08
#3 <前話 一覧 次話>#5 #4 おくり 『おくりもん』の流れは決して返してはいけない。 だから先代のあと先々代へと戻ることはできない。 新しい『おくりもん』を迎えなければならない。 仕方なかった。 僕しか居なかった。 叔父は先代よりも前に、僕の弟も幼い頃に亡くなっているから。 祖母や母は存命だが、女性は死者を宿す恐れがあるということで『おくりもん』にはなれないし、
2024年7月12日 22:34
#2 <前話 一覧 次話>#4 #3 さきぶれ 東の旗二本を玄関の内側へと立てかけてから草履を履く。 なぜ靴じゃなく草履なのかというと、野辺帰りで死上げ部屋へと入ったあと、履物を燃やすことになっているからだ。 改めて気を引き締め、母屋へ再び一礼すると匣鞍だけを持ち、いったん外へ。「当代、遅かったな」 先々代が既に馬の準備を終え、手綱を持って待っていた。 送り車も馬に繋
2024年7月11日 23:06
#1 <前話 一覧 次話>#3 #2 ととのえ 今一度体を清めた後、礼装に袖を通す。 小袖に袴、浄衣 、その全てが純白の。 神職の衣装に似ているが、烏帽子や笏のような小道具はない。 ただし、真鍮製の板鍵に紐をつけたものは、首から下げる。 朝食は取らない。というより、仕事の前日の日没から野辺帰りが終わるまでは胃を空にしておかなければならない。 死に触れる仕事として黄泉竈食を
2024年7月10日 22:10
あらすじ現代ではすっかり珍しいものとなった野辺送りという風習がある。その地域では野辺送りに加えて野辺帰りというものも合わせて一連の儀式とされている。その野辺の送りと帰りの儀式を執り行う『おくりもん』である「僕」は、儀式の最中に周囲を彷徨く影を気にしていた。儀式が進む中で次第に明らかになる、その地域の闇とも言えるべき状況と過去、そして「僕」の覚悟。その結末が救いであるのかどうかは、読まれた方の判断
2024年7月9日 12:50
#24 <前話 一覧エピローグ 長い長い夢を見ていた。 わたしはその夢の中で、一人の少女と出会った。 金色に透き通るような髪の長い女の子。 その子はトリーネといった。 わたしがトリーネちゃんと出会ったのは森の中。 深い深い森の奥の、大きな木の根元、秘密基地みたいな洞の中で。 そこはとっても居心地の良いところで、わたしはすっかりくつろいでいた。 そこにトリーネちゃんがやって
2024年7月8日 12:51
#23 <前話 一覧 次話>エピローグ #24 一緒に お地蔵さんの通路まで戻ると、丸守さんが静かに語り出した。「帰り道は少し昔話をしてあげよう。丸馬と呼ばれる前はね、ここいらはコヤス沼と呼ばれていたんだ。子どもの安全って書いて子安」「それ普通は子守の意味で使われる言葉だね」「さすが先生。最初は本当にそういう場所だったんだよ」「だから先生はよしとくれって」 丸守さんは構わ
2024年7月7日 12:48
#22 <前話 一覧 次話>#24 #23 土地の名前 先生が驚いたのも無理はない。 丸守さんの照らしたなかに浮かび上がったのは、狭いトンネル内の両側に並ぶお地蔵さんたちだったから。 壁には等間隔にくぼみがあり、そのくぼみの一つ一つにお地蔵さんが安置されている。 食料とかを運ぶ道なのに? もうこの道自体がホラーなアトラクションになりそうな気配。「気休め、だけどね」 丸守
2024年7月6日 19:16
#21 <前話 一覧 次話>#23 #22 城 目眩がまた僕の足もとからすり寄ってくる。 ぞくり、と背中が勝手に震える。 そうだよね、鏡なんてたくさんあるオカルト噂のうちのほんの一つだったじゃないか。 終わってなんかいなかったんだ。 振り返った僕の目の前でナイトメア・ザ・メリーゴーラウンドが回っていた。 今度ばかりは風のせいじゃないって即座にわかった。 灯りが点ってい
2024年7月5日 21:25
#20 <前話 一覧 次話>#22 #21 夏草 言葉にならない何かを感じた。 虫の知らせってやつ。 たくさんの超常現象に触れたおかげで、欲しくもないと思っていた能力が磨かれてしまったのだろうか。 でも今はその能力があることに感謝しよう。 ミラーハウスの外に出る直前、僕はトワさんに追いつき、手鏡を受け取った。 そしてそれが正しかったことがすぐに分かる。 ミラーハウスを出
2024年7月3日 12:41
#19 <前話 一覧 次話>#21 #20 好きと言う資格「なあ、トリー……僕の体を使うことはできないか? 僕の中で一緒に生きていくことはできないか?」 僕が居なくなったら会社にも取引先にも迷惑はかかるけれど、でも代わりの人がちょっと苦労してでも仕事を引き継げる。 代わりが居るんだ。 でもトリーは、トリーの言葉は、替えがきかない。「フーゴ」 急にトリーが僕から離れた。「
2024年7月2日 12:37
#18 <前話 一覧 次話>#20 #19 夏草の露 僕は黄金髑髏を両手で抱えて、その空虚な眼窩を見つめた。「申し訳ないですが、もう少しだけ手伝ってください」 僕は走り出す。 黄金髑髏をできるだけ地面に近づけたままで。 予想通り犬の影は追って来る。 間違いない。 こいつら犬の影にとって、この黄金髑髏は大切なものなんだ。 僕が向かう先にはトリーと瑛祐君、ネイデさんと他に