マガジンのカバー画像

エッセイ

50
運営しているクリエイター

#エッセイ

風、ランドリー

風、ランドリー

好きな匂い、コインランドリーの匂い。ふわふわな匂い。作られた太陽の匂い。
好きな匂い、うなぎ屋さんの匂い。しみしみな匂い。足跡の匂い。

最寄駅からマンションまでの徒歩10分。ちょうど半分くらいのところにコインランドリー。その隣の隣にうなぎ屋さん。
コインランドリーは何時だって明るくて回ってる。乾燥機が、ヴーンって鳴いている間、人間様は暗闇みたいに俯いてスマートフォンを見つめている。たまにボロボロ

もっとみる
心臓と脚が震える重低音

心臓と脚が震える重低音

下北沢、地下、数センチだけ高いステージ、立ち位置はいつもの下手。
フロアにはほとんど見知った顔、少しだけ知らない顔。
自分の背丈より少しだけ低いベースアンプ。ピックで弦を弾けば、ドッと心臓が震える重低音。

俺が、この重低音を鳴らしている。

自分のベースの音とJCの音はよく聴こえる。上手のマーシャルの音だけもう少し返してもらおう。
バスドラは、よく聴こえる。スネアもハイハットも、聴こえる。タムの

もっとみる
グラタンコロッケバーガー

グラタンコロッケバーガー

私は寒さがとにかく嫌いで、ただでさえ基礎体温が低いのに、外気温が低いと肌の表面から筋肉まで冷蔵庫みたいに冷えて、心まで冷たくなってくる。

でも寒さが嫌いだから冬が嫌いなわけではなくて、冬の夜に外で吸うタバコは美味しいし、セブンイレブンのおでんも美味しいし、なぜかアイスも美味しい。
お気に入りのラルフローレンのダウンを着れるのも嬉しいし、ランニングを始めてからは走るのも楽しい。

昨日は、お互いに

もっとみる
TikTok見てるおばあちゃん

TikTok見てるおばあちゃん

月曜日。月曜日はとっても疲れる。
土曜日に遊んで日曜日にたっぷり寝たのに、なぜか月曜日は一番疲れる。
残った仕事を明日の自分に押しつけて、PCを閉じて、マグカップを給湯室で洗って、コートを羽織って、階段で2フロア下がって喫煙所で一服して、新宿駅まで7,8分くらいかけて歩いて、埼京線に乗り込む。
座りたいけど、だいたい座れない。新宿駅始発の電車を20分くらい待てば座って帰れるんだけど、座るために20

もっとみる
お星さまが見えない

お星さまが見えない

疲れが取れない。歳を重ねるにつれて、まあ本当に疲れが取れなくなる。
寝ても疲れが取れないし、そもそも寝れなかったりもする。寝るのも体力を使う、と大人が言っていた意味がなんとなく分かるようになってきた。

だいたい、電車に乗っている時なんかずっとグッタリしている。首都圏の電車は、景色も何もなくて、大量の人を効率良く運ぶための箱でしかない。

電車に乗るのもグッタリするから、たまに家の最寄駅よりひとつ

もっとみる
TOKYOを駆ける

TOKYOを駆ける

2024年10月20日(日)、東京レガシーハーフマラソン2024に出場した。
1年ほど前からランニングを始めたのだが、その頃から出たかった大会、楽しかったのでせっかくなら気持ちを文字に残しておきたくなった。

東京レガシーハーフマラソン。国立競技場から四谷、後楽園、神田、日本橋など"THE TOKYO"といった地を駆ける21kmの走路。
マラソン競技に疎い方に対しては、「東京マラソンのハーフ版」と

もっとみる
死ぬまでワクワクしたいわ

死ぬまでワクワクしたいわ

私は今年30歳になる学年で、1月生まれだからまだなんとなく30歳になるのは先だと思っていたのだけど、同級生がどんどん30歳になるものだから、そうか自分ももうすぐ30歳になるのかとあたふたしています。

風邪の治りが遅くなったし、当たり障りのない天気の話とかをできるようになりました。極めてシームレスに、でも着実に、大人のようになっています。
大人のようになると、公園で水風船で遊んでいるようなワクワク

もっとみる
知らない誰かに届け

知らない誰かに届け

このnoteを書き始めたのは、2年ちょっと前のこと。
自分のこと、好きな人のこと、自分の思うこと、思っても仕方ないこと、書いて、休んで、気が向いたら書いて、みたいなことを2年くらい続けています。

誰も読んでくれないだろうし、誰も読んでくれなくて良くて、別に誰かに褒められなくて良くて、でもやっぱり誰かに認められたくて書き続けて、みたいな2年。

ありがたいことに、褒めてくれた人がいます。私の文章を

もっとみる
最近のこと

最近のこと

最近はとても暑いです。災害級の暑さ、です。もう、外を歩くだけで体力が削られていくのが分かります。

最近はあまり体調が良くないです。暑いですから。ずっと疲れが取れないのです。

そんな時、大事なのは食事と睡眠です。栄養を摂って眠るのです。そうすれば、なんとか身体が動きます。
でも、食事と睡眠が上手くとれないと、どうにも身体が動きません。今日は、目が覚めて、しっかりと目が覚めた感覚があるのに、身体が

もっとみる
厨に立つ私

厨に立つ私

スーパーに行く時には、何を作ろうかな、ではなく、何が安いかな、と品物と値札を睨み、カゴを提げて歩く。
何を買っても、後でどうにかなると自分を信頼している(稀にどうにもならない時もある)。

ふむ、今日は茄子が安い。
茄子が安いということは、夏。
ふくふくと太った、色気のない茄子が3つ入った袋をカゴに入れ込んだ。
精肉コーナーを歩くと豚こま肉がいつもより安くて、あと鶏むね肉はいつでも安くて、とりあえ

もっとみる
惣菜売場のオガワさん

惣菜売場のオガワさん

大学生の頃、スーパーの惣菜売場でアルバイトをしていた。週4日か5日、朝7:30に出勤して11:30に退勤する。たまに、16:30まで働く日もある。

だいたい私は7:29にタイムカードを切って、もうすでにせかせか動き回るパートさんたちが7〜8人いる作業場にだらっと入っていく。そんな私を誰も叱らなかった。

業者が洗濯しても取れないタレや油のシミが染み込んだユニフォームの袖をくいっと肘まで上げて、エ

もっとみる

コーヒーショップギャラン

あー、おなかいっぱい。
そう言いながら彼女はお腹をさするけど、とてもいっぱいになったとは思えない、それはそれはペラペラなおなか。

テーブルには山賊焼という名前の揚げ鶏と、添え物のカットレタスがちょこん。
わたし葉っぱ食べるから、お肉食べていいよ、と、ペラペラおなかをさすりながら言うから、ありがとう、と言う。
僕ももう食欲はないけど、とても貧相な、懸賞金もかかっていないような弱々しい山賊を、胃に流

もっとみる
やっぱりなんでもない

やっぱりなんでもない

散歩してたら、すごく細い道に、小さな鳥居が建っているのを見つけたよ、とか

その鳥居の隣に、食紅を垂らしたように鮮やかな花が咲いていて、ちょっと嫌だった、とか

朝の電車で高校生が、ずっと高校生でいたいって話していて眩しかった、とか

近所の和菓子屋さんで、お芋のソフトクリームが食べられるらしいよ、とか

西友で売ってたドレッシングが意外と美味しかったよ、とか

多分、こういうことを文字じゃなくて

もっとみる

ぐつぐつ

背中がじっとりする感覚で目が醒めた。
時間と温度と湿度をいっしょくたに教えてくれる箱に目をやる。
4:16、23.4℃、72%。

9歩進んで、無機質な白い便器で用を足し、加熱式タバコを熱し、吸って、吐いて。

少し湿ったシーツにもう一度触れたくなくて、少し錆びた台所へ。

昨日やけっぱちになって買った大根と、にんじんと、好んで買ったあぶらあげと、いつ買ったか忘れた白だしを、鍋に入れてぐつぐつ。

もっとみる