歳時記を旅する51〔薫風〕前*薫風や少々きしむ寺襖
土生 重次
(平成三年作、『素足』)
お茶の世界の掛軸として使われることが多い禅語に「薫風自南来」がある。原典は、唐の政治家兼文人の柳公権の詩「薫風南より来り 殿閣微涼を生ず」にある。
南からふくよかな香りを漂わせて風が伝わってきた。酷暑の中、この宮殿もほのかな涼しさに満たされた、という意味。
さらに禅語としては、風が吹いて無駄なものがすっかりなくなったような境地、という心の状態を表す禅的な意味合いがあるとのこと。
句は、寺の襖を開けて心の中まで何もない境地に至ろうとしたところ、少しばかり雑音が混じってしまった。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和六年六月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
☆お茶室に「薫風自南来」のお軸。山田麻衣 さんのレポートをご紹介します。