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「あめんぼの歌」と「アップルパイの唄」

【スキ御礼】「歳時記を旅する16〔水馬〕前*水馬一歩一歩に水つかむ


発音トレーニングでよく使われる「水馬赤いな。ア、イ、ウ、エ、オ。」で始まる、通称「あめんぼの歌」は、北原白秋の「五十音」という詩である。(童謡集『祭の笛』大正十一年六月)

 詩の前書きに「これは單に語呂を合せるつもりで試みたのではない、各行の音の本質そのものを子供におのづと歌ひ乍らにおぼえさしたいがためである。」とわざわざ念押しに書かれているように、子供たちが歌いながら自然に覚えられるように工夫して童謡に作りあげられている。

白秋は、童謡集『祭の笛』の発行の前年に、翻訳童話集『まざあ・ぐうす』を発行していて、「五十音」も英国のマザーグースの影響を少なからず受けている。

 マザーグースには、同じように、子供たちにアルファベットの順序を教えるための簡単な韻である「A Was An Apple-Pie(アップルパイの唄)」がある。

  A Was An Apple-Pie

 A  was An Apple-Pie
 (Aはアップルパイだった)
 B  bit it,       
 (Bはそれをかじった)
 C    cut it,         
  (Cはそれを切った)
 D dealt it,                     
 (Dはそれを分配した)
 E  eat it,                             
 (Eはそれを食べた)
 F fought for it, 
 (Fはそれを欲しさに喧嘩した)
G got it,                     
 (Gはそれを手に入れた)
          ……(以下略)

藤野紀男・夏目康子『マザーグース・コレクション100』ミネルヴァ書房 2004年

ところが、白秋が日本の子どもたちに、と翻訳した童話集『まざあ・ぐうす』全131篇の中には、「五十音(あめんぼの唄)」のアルファベット版もいえる「A  was An Apple-Pie(アップルパイの唄)」が収録されていない。
マザーグースでアルファベットを暗記するための唄はいくつもあって「A  was An Apple-Pie(アップルパイの唄)」は一番の人気なのだそうだが、この唄を収録した童謡集はそれほど多くないらしい。
 白秋が参照したという四~五種の童謡集に採録されていなかったのだろうか。
 それとも白秋は、翻訳にあたっては逐語訳を旨としたというが、それでは歌の意味が通じなくなるので、翻訳を断念したのだろうか。

「五十音(あめんぼの唄)」を 詩乃ジカン。さんが朗読されています。
ご紹介します。

「A  was An Apple-Pie(アップルパイの唄)」の動画がありましたのでご紹介します。

(岡田 耕)


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