見出し画像

選評*裘着て泣きにゆく映画館

【スキ御礼】「選評*待人の来ると神籤に帰り花


裘着て泣きにゆく映画館   岡田 耕

「裘」とは見慣れない文字だが、「かわごろも」と読む。
毛皮で作った防寒用の衣で、現代では差詰め毛皮のコートとか皮ジャンパーと言った所か。
革ジャン、あるいは毛皮のコートで身を固めながら映画館に泣きにゆくと言うのだ。
何度観ても泣けてしまう名画をまた観にゆこうというのか。

しかし私はこの「泣きにゆく」という表現には、つい昔の古里で見た芝居を想い出してしまう。
まだ小学校低学年の頃だ。
秋祭りを迎えると私の村では競馬、隣の村では芝居が掛かるのが定番で、その芝居はと言えば旅役者の一座の演ずるお涙頂戴物。
子供にはさっぱり面白くなかったが、大人達はこぞって涙を隠さなかった。
敗戦からまだ間もない頃で、つらい思いを抱えて生きていた大人達には身につまされる所があったのだろうが、今思えば泣く事でカタルシスを得ていたのだろう。
泣くのが分かっていて、と言うより泣くのが目的でいそいそと芝居見物に出かけて行ったようだ。

 革ジャンや毛皮のコートを「裘」という古風な言葉で言い、更に「泣きにゆく」という時代がかったような表現の取合わせに何とも言えないおかしみを感じる。

俳句雑誌『風友』令和四年四月号-風紋集・緑風集選評ー「風の宿」磯村光生

☆「裘」とは、獣類の毛皮で作った衣服のこと。理子 さんが「裘」が使われている四字熟語を音声付きで説明されています。ご紹介します。

(岡田 耕)

ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!