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選評*春灯や柩の蓋に名残窓
春灯や柩の蓋に名残窓 岡田 耕
柩の蓋に死者の顔が見えるように作られた所を「名残窓」と言うのを初めて知ったが、辞書を引いても載っていないので、もしかしたら作者の造語であろうか。それにしてもあの窓を「名残窓」とは何と的確な、そして思いの籠った命名か。試しに「名残」を辞書で引くと、「風が静まった後もなおしばらく波の立っている事、つまり余波」「物事の過ぎ去った後、なおその気配や影響などの残ること、余韻」に続いて「特に人との別れを惜しむ気持、別れること」とある。正にあの世へ送る死者との最後の対面に用意された窓に、これ以上の呼び方は無いと思われる。
その窓を開けて、あるいは窓越しに、ありし日の思い出を語ったり、感謝を述べたり、そして別れを告げる人達と、死者の顔を優しく包むように照らす春の灯。本来なら寒々しい感じの名残窓やその場に、逆にほのぼのと温みを感じさせてくれる。正に春の灯なればこそ。
(岡田 耕)