歳時記を旅する51〔薫風〕後*風かをる巣箱の穴の大中小
磯村 光生
(平成七年作、『花扇』)
漢詩を好む蕪村は、漢語「薫風」のまま句に用い始めた。
「薫風やともしたてかねつ厳島 蕪村」
そのことを正岡子規は、次のように評している。
「風薫る」とは俳句では普通に使うところだが、そのまままでは「薫る」の意味が強くなりすぎて句になりにくい。ただ夏の風というくらいの意味で使うのならば、「薫風」とつなげて一種の風の名前とするのがよい。早くにこの点に注意したのが蕪村の炯眼なのだろう、と。(『俳人蕪村』講談社文芸文庫)
句は、中七以降に名詞が続く。あえて「薫風」を動詞でひらがなにすることで、句が平板になるのを避けている。
巣箱の穴の大きさは鳥によって異なる。四十雀は二八㎜、椋鳥は五五㎜、梟は一五〇㎜なのだそうだ。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和六年六月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)