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歳時記を旅する33〔飾売〕後*青藁の香り積み上げ飾売

磯村 光生

(平成八年作、『花扇』)

 東京の年の市は、十四・十五日の深川八幡から、二十五・二十六日の麹町平河天神までが六大市と称された。

「二十八日は薬研堀の年の市。夜になると両国の両側にはお飾りを売る店が軒を並べて、大根締め、輪飾り、締め飾り、橙子、本俵、譲葉、昆布、串柿まで並んでいる。刺子を着て向鉢巻をした若い衆が『市ちゃまけた』と呶鳴りながら、お客を呼んでいる。横町の角では伊勢海老ばかりを売る店が出ていて、遠い潮の香と近在の田畑から運ばれてきた藁の香いが夜風に吹かれてくる。」(後藤末雄『昔の両国界隈』昭和二十八年)

 句の青藁の香りは、東京から田畑がどんどん遠くなった現代では、郷愁にも似た香りでもある。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和四年十二月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)

写真/岡田 耕

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