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歳時記を旅する55〔きりぎりす〕後*秋風や二手を合はす千手佛

    磯村 光生

(平成八年作、『花扇』)

 八月五日(陽暦九月十八日)、芭蕉は那谷寺を立ち寄り、「石山の石より白し秋の風」の句を詠んでいる。

 那谷寺は、本尊は十一面千手観音で拝殿の奥の岩窟内に安置されている。千手観音は、胸の前で合掌する二本の手のほかにある千本(那谷寺は四十本)の手は、どのような衆生をも漏らさず救済しようとする、観音の慈悲と力の広大さを表しているという。

 秋風は色なき風ともいい、空気が一際透きとおる感じがする。句の観音様の祈りも、身に沁みとおる感じがする。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和六年十月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)


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