英語における「甘え」の語彙
精神分析家の土居健郎は名著『「甘え」の構造』において、こう主張した。
「『甘え』という語彙自体は英語に無いが、『甘え』の心理自体は普遍的なものである」
筆者も同意見ではあるが、以下のようにつけ加えたい。
確かに「甘え」という意味を持つ単独の名詞は英語に見られないと思われる。「甘える」という動詞についても同様だ。しかし英語の名詞のいくつかには「甘え」の心理を示すものが存在し、土居の主張通り「英語圏にも『甘え』の心理が存在する」ことの裏づけになると思われるのだ。
例えば以下の二つである。
◯「sweetheart」は「恋人」の意味である。直訳は「甘い心情」だろうか。単数では恋人への呼びかけにも使う。
◯「honeymoon」は現在でも「新婚旅行」の意味で用いるが、直訳は「蜜のような月間」。もともと、結婚してから一ヶ月の間を指したらしい。蜜は甘いであろう。
これらの例は、英語圏の人間も相手との関係性次第で「甘さ」を感じていることを示している。その甘さのプロトタイプ(原型)となるのは、乳児期の母子関係だ。乳をくれる母親に対し、赤ん坊が感じる感情である。そのことは土居も、前傾書で指摘している通りなのだ。
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