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#小説 記事まとめ

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note内に投稿された小説をまとめていきます。
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#創作

【短編小説】終便配達員

 バイト先のコンビニで一緒に働いている五十歳のおじさんは、半年前に突如深夜シフトに現れた僕と働くことを喜んでいるようだった。  バイトを始めて一ヶ月が過ぎたころ、好きな作家が同じだったから、二人で記念にホットスナックを食べた。  二ヶ月が過ぎたころ、僕が通っている大学を教えたら「立派だ」と言ってセブンスターを買ってくれた。  三ヶ月が過ぎたころ、もう会えない息子がいることを教えてくれた。会えない理由は教えてくれなかったけれど、僕に優しい理由はなんとなく分かった。  四ヶ月が過

【短編】『僕が入る墓』(前編)

僕が入る墓(前編)  目の前に広がる田園風景を真っ二つに分けるように一本のアスファルトでできた道がどこまでも続いていた。僕は先を行く明美の黒くしなやかな後ろ髪から溢れた残り香をたどりながら、これ以上距離を離すまいと歩数を増やして後を追った。明美の腰のあたりにはまるで大気にひびが入ったかのように陽炎が揺らめき、明美の体にまとわりついていた。 「早くー」 「待ってくれよ」 「もうバテちゃったの?」 「いいや。まだまだいけるよ」 「早くしないと置いてっちゃうわよ」 明

メロンソーダの味、あの夏の微笑み【ショートショート】

その夏、僕らはメロンソーダの味を覚えた。思い出すのは、あの青空と君の微笑み。緑色の泡に、冷たい氷の感触。そんな些細なことが、僕らの心に深く刻まれている。 君と出会ったのは、昼下がりのラムネ売りの店。太陽は煌々と輝き、街はまばゆい光で溢れていた。店の棚に並んだ瓶詰めのラムネを見つめていた君の視線は、まるで小鳥が虹色の羽根を眺めるようだった。 そして、君はメロンソーダを選んだ。僕も同じものを選び、君と並んでベンチに座った。 初めて君がその瓶を開けた瞬間、ソーダが泡立つ音が静

短編小説 | 酔生の虫を飼う

 恋をした。夢の中の青年だった。  彼は美しい日焼け肌を持ち、浜辺で暮らした。  浜辺へは決まった道のりがあった。夫の横顔である。小人となって、夫の顔を歩いて行った。  寝室の明かりを消す。と、スイッチを切り替えたようにカーテンの隙間が灯る。街灯の明かりだ。その薄明かりに夫の輪郭がほのかに白んで見える。それが道だった。  夫の五分刈りの頭。見ていれば感触が分かる。芝生を踏むような弾力がある。ぼうっと眺める。と、いつしか小人となった自分がそこに立っている。坊主頭の小さな惑星

【小説】散ることの無い桜をあなたに。 - 無色【現代ファンタジー】

- 序 - 桜は儚い。全く、春は恐ろしい季節です。 - 本篇 - 「なぁ、春原」 「なんですか先輩」 「桜はなぜすぐに散ってしまうんだと思う?」  客と待ち合わせをしている店へ向かっている車内で、新人社員の春原(すのはら)は先輩の菜花(なばな)にそう問いかけられた。  春原は窓の外の、車が過ぎ去るだけのつまらない景色を眺めながら、そんなことわかるわけが無いだろうと内心舌打ちをしていた。  春原にとって自分の教育係になった菜花は不思議な人間だった。どうも理解できないと言う

【ショートショート】ちょっと未来 (2,998文字)

 道玄坂を歩いていたら、Y2Kファッションに身を包んだ男の子が挙動不審にキョロキョロしていた。赤いプーマのジャケットに迷彩柄の極太カーゴパンツを合わせ、靴はモノトーンのコンバース、首にはヘッドフォンをかけていた。  懐かしいなぁと眺めていたら、うっかり目と目が合ってしまって、 「すみません。ちょっといいですか」  と、声をかけられた。 「え。なんですか」 「いまって西暦何年ですか?」  思わず、立ち止まり、目をパチパチさせてしまった。それはあまりに過去からやってき

プールサイド(短編小説)

初夏の深夜、散った春の花々とかつての冬に落ちた枯葉の積もった五十メートルプールのサイドに僕は立っている。梅雨明けの掃除を待つプールは虫たちの棲家になっていて腐った匂いがする。一ヶ月もすれば子供たちが虫を取り、二ヶ月もすればその観察も忘れて嬌声と飛沫が上がる。街灯もクラクションも酷く遠く感じる。 僕は去年の夏の始まりから一ヶ月も生きられなかった夏祭りの金魚の死体を、この頃気温が上がったせいか水槽を密封していても部屋に匂いがするようになったので、捨てに来ている。君の名前を付けた夏

『記憶冷凍』(毎週ショートショートnote)

「記憶冷凍?!」 おもわず声が大きくなってしまった。 辺りを見回すと 私以上に恥ずかしそうにしている妻の顔が見えた。 「何それ、知ってる?」 声を潜めて聞いてみると 妻が「知らないの?すごいって評判よ」と言った。 すると妻の隣にいた娘が 「テレビでやってるよねぇ~」と妻に笑いかけた。 最後のところは妻の声も重なっている。 2人から「ねぇ~」と言われても 普段からテレビを見ない私には 何のことやらさっぱりであったが、 実際は妻も娘もすごいってことは知っているが 何がすごいかま

【短編】『春の訪れ』

春の訪れ  森の奥深くの洞穴に眠るヒグマはツバメの鳴き声を聴くなり寝返りを打つ。誰もいないはずの湖のほとりにつがいのシマリスが現れ、風で飛ばされた木の実を求めて草をかき分ける。それを遠くの水面からじっと見つめるカバは水中へと潜って再び水面に顔を出すと、鼻から水を勢いよく吹き出す。シマリスは突然のことに身を震わせて森の方へと去っていく。再びツバメが鳴くとヒグマが寝返りを打つ。どこからか怪物が唸り声をあげながら近づいてくる音がする。白いボートだ。船上には二人の人間が立っている。

【40秒小説】ふたりだけのかくれんぼ

「もういいかい?」 ミヨちゃんを見つけたら ヘビのおもちゃで驚かせてやろう。 「まーだだよ」 タケトくんに見つかったら おままごとで遊んでもらおう。 今回のタケトくんの役は ドングリをステーキだと思って 一生懸命食べるパパを 不憫な目で見るママの隣で エサを忘れられてお腹を空かしている ワンワンになってもらおう。 「もういいかい?」 ミヨちゃんを見つけたら この前ドッジボールでミヨちゃんばっかり狙っちゃったことをごめんねしよう。

短編小説『いつもじゃない』

 スマホのアラームを止めて数分後、起き上がると大きく伸びをしてベッドを抜け出す。裸足で踏むフローリングはいつも他人行儀で、ひんやりと冷たい。キッチンでグラス一杯の水を飲んで、トーストを焼いた。お決まりの朝食を食べて、意味もなくスマホの画面をスクロールする。今日もいつも通りの休日か。窓越しにベランダを見ると、セキレイが物干し竿に止まっていた。いつも通りじゃない休日、もいいかもしれない。  私はクローゼットの奥にしまいこんでいたアイボリーのワンピースを身に纏って、いつもよりふん

短編小説【田々井村から】

《あらすじ》 山村の田々井村から都会に出てきた私は、あるとき地図を拾う。都会は美しく、ふるさとは違う。そう思いながらも、自然豊かな情景が書かれた地図に興味をひかれる。地図がきっかけで、田舎の美景を目にした私は、田々井村にもそれがあったと気づきはじめる。        『田々井村から』  大学の門を出ると、秋の虫が鳴いていた。田舎では毎日鳴いていたから、うるさかった。都会だと珍しいからか、新鮮にさえ思えた。ついこの間まで明るかったのに、いつのまに日の入りが早くなったのか、

【短編】『読書するぼく』

読書するぼく  美容院で髪を切り終わった後、たまたま次の予定まで微妙な時間が空いてしまったため、僕は喫茶店で本を読みながら時間を潰そうと思った。お店に入ると、そこら中に人がごった返しており、席が空くまで待機する必要があった。いくら待っても皆席を離れようとはせず、まるでここが喫茶店ではなく、会社のオフィスにいるかのようにそれぞれが自分の決まった席を持っているようだった。僕はなぜここまで長時間席を独り占めしては新たに注文をするわけでもなく、ただ自分の時間に没頭している者たちを店

【掌編小説】勘違い

 密かに好意を寄せている人から、バレンタインデーにチョコレートをもらったら、大抵の人は大喜びするだろう。  僕もその点に関して半分は同意する。  あと半分は……疑いを持つ。どの程度の気持ちなのか、と。  と言うのも、僕がもらったのは明らかに義理チョコっぽいものだったのだ。  谷口弥生さんは、僕が勤める会社の2年後輩で、隣りの部署に所属している。  笑顔がかわいらしく誰にでも親切で、多くの同僚から慕われている。  “堅物眼鏡”と揶揄される僕にも、丁寧な物腰ながら親しく話しかけ

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