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七瀬 渡
2017年6月27日 23:45
流れ星「お星さま、きれいだね。おじいちゃん」「そうだね」 すっかり夜になっていた。老人と少女は帰ってこない蝶を気にしながらも、夜空の星に見とれていた。 少女は星が動いたように思った。流れ星だと思い、とっさに何かお願いごとをしようとして、蝶が早く帰ってきますように、と祈った。 しかしそれは流れ星ではなかった。「あ、蝶だ! 帰ってきたよ! おじいちゃん! 流れ星かと思った!」
2017年6月27日 23:43
蝶の舌 蝶は食べ物を探し、ヒラヒラと飛んでいた。 白い建物が見えた。 窓が開け放たれていて、大きな人間が二人、小さな人間が一人いるのが見えた。 三人とも涙を流していたので、蝶は彼らに近づいていく。 大きな人間が流している涙は、過去に何度か食べていた。匂いで分かった。 なので小さな人間の涙を食べようと思った。 過去に一度だけ、食べたことがある味だった。
2017年6月27日 06:23
老人と少女5「ちょうちょさん、帰ってこないね」 少女は椅子に座って足をぶらぶらさせ、クレヨンで蝶の絵を描いていた。窓から見る夕暮れの空はオレンジ色だった。「そうだね。涙を流している人が見つからないのかな」 老人は少女の黒い髪を優しく撫でながら言った。少女は妻に似ていた。 妻は娘、つまりは今、頭を撫でいているこの少女の母親を生んだ後、すぐに死んでしまった。あのとき、生まれたばかりの赤
2017年6月25日 19:23
追憶の羽の色 とある病院の一室に赤ん坊の泣き声が響いていた。白いベッドには母親になったばかりの女性が横たわっていた。きれいな長い黒髪が枕もとから少し垂れている。 父親になったばかりの青年は赤ん坊を抱いていた。生まれたばかりの赤ん坊は、産声をあげてないていた。 ただただ、ないていた。 赤ん坊の目から雫がこぼれた。それは涙だったのか、目にたまっていた母親の羊水だったのか。 青年は足元
2017年6月25日 19:22
老人と少女4「今度は紫の羽だよ、おじいちゃん!」 少女は、窓から入ってきた蝶を指差すと、老人に向かって嬉しそうに言った。「紫の羽はどんな涙なの?」「さあて、どんな涙だったかな。忘れてしまった。思い出したら教えてあげよう」 老人はとっさに嘘をついた。蝶の羽が紫色になるときは、恐怖の涙を食べた時なのだ。どこかの誰かが恐ろしい思いをしたと知れば、まだ幼い少女を怖がらせてしまう。「うん。
2017年6月24日 01:09
蛇と女子高生 薄暗い森の中、わたしは蛇に睨まれていた。足がすくんで動けなかった。ちなみに蛇に睨まれたカエルということわざがあるけど、わたしはカエルじゃない。 花の女子高生だ。 日曜日だった。わたしの家は都心から少し離れた田舎にある。遊ぶところは都会と比べると少ないけれど、自然が豊かなところで、そこはわたしも気に入っていた。テストも終わったので、Tシャツにジーンズというラフな格好で、散歩が
2017年6月22日 23:18
老人と少女3 少女は窓から入ってきた蝶を見て喜んだ。「おじいちゃん! 帰ってきたよ! 今度はオレンジ色だよ!」 老人が手をさしのべると、蝶はその手に止まった。 少女は老人に言った。「オレンジはどんな涙?」 老人は微笑んで言った。「オレンジ色は、うれしい涙だよ。だれかさんに、幸せなことがあったみたいだね」 老人は昔、まだ小学生だったころ、新種の蝶を発見したことで表彰されたことを
2017年6月22日 23:17
表彰式「おめでとう!」 バーコードのハゲ頭に半そでのワイシャツの校長先生が、小学校の体育館の壇上で、大きな声で僕に向かって、賞状を差し出した。「ありがとうございます!」 僕は両手でうやうやしく賞状を受け取り、深々とおじぎする。 なにを隠そうこの僕は、小学生生活6年目にして、新種の蝶を発見したことで表彰されたのだ。幼いころから昆虫が好きだった僕は、自分の発見した蝶が新種と認められて
2017年6月21日 00:38
老人と少女2 窓から、青い蝶が入ってきたのを指差して老人が言った。「見てごらん。蝶が帰ってきたよ」 老人はしわの刻まれた両手でやさしく蝶をつつみ、虫かごの中になれた手つきで入れた。 少女は虫かごの中の蝶を見つめ、不思議そうに首をかしげた。「色がちがうよ、おじいちゃん。さっきの子は羽の色が白で、この子のは青だよ。でもすごくキレイ!」 いつか連れて行ってもらった海の青に似ている、と少女
2017年6月19日 23:16
とある悲恋 気がつくと、またソファに突っ伏して寝ていた。少し変な姿勢で寝ていたので体の節々が痛い。鏡を見るまでも無く、泣きはらした顔はひどいことになっているだろう。外に出る気力もない。今、何時かしら? テーブルの上に置いてあったスマートフォンを見ると朝の5時27分だった。会社からの着信が2件、友人からの着信が3件と私を心配するメッセージ……そしてまた、死んでしまった彼との思い出のフォルダを
2017年6月19日 00:22
老人と少女1 あたたかな太陽が、庭に咲いた色とりどりの花を照らしていた。 白いワンピースを着た少女が、白いアネモネに止まったモンシロチョウをじっと見つめていた。麦わら帽子からこぼれた三つ編みの髪が、アネモネと一緒に風にゆれていた。(蝶も花も、わたしのワンピースと同じ。真っ白だ) と少女は思った。「おーい、こっちへ来てごらん」 少女が声のした方をふりむくと、サンタのようなヒゲをはや
2017年6月19日 00:11