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ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その1

老人と少女1

 あたたかな太陽が、庭に咲いた色とりどりの花を照らしていた。


 白いワンピースを着た少女が、白いアネモネに止まったモンシロチョウをじっと見つめていた。麦わら帽子からこぼれた三つ編みの髪が、アネモネと一緒に風にゆれていた。
(蝶も花も、わたしのワンピースと同じ。真っ白だ)
 と少女は思った。

「おーい、こっちへ来てごらん」
 少女が声のした方をふりむくと、サンタのようなヒゲをはやした老人が手まねきしている。彼は少女の祖父だった。
(おじいちゃんのヒゲも真っ白だ)
 少女はそれがおもしろくて、思わずフフと笑った。
「なあに、おじいちゃん」
「おいで。珍しい蝶を見せてあげよう」

 老人は少女を、庭の隅にある小さな白い壁の建物に案内した。
 部屋の中には木で出来た大きな机と、フカフカの椅子、壁際には棚が並べられ、たくさんの本といくつかのグリーンの屋根の虫かごがあった。

 開け放たれた窓からは、青空が顔をのぞかせて、時おり涼しい風が入ってきた。

 老人はひとつ虫かごをとってくると、少女に見せた。真っ白な羽の蝶だった。羽にはうっすら模様が入っていたが、よく目をこらして見ないと気づかないほどだった。
 老人は少女に言った。

「これはね、涙を食べる蝶なんだよ」

「涙を?」
 少女はそれを聞いておどろいた。少女の蝶の知識と言えば、花の蜜を吸う、羽がキレイ、それくらいのものだ。
「だれの涙を食べるの?」と、少女は期待を込めた目で老人に聞いた。
 老人は何も言わず少女に微笑み、虫かごのグリーンの屋根を開けた。
 白い蝶が、青空へと羽ばたいていった。

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