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ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その3

老人と少女2

 窓から、青い蝶が入ってきたのを指差して老人が言った。
「見てごらん。蝶が帰ってきたよ」
 老人はしわの刻まれた両手でやさしく蝶をつつみ、虫かごの中になれた手つきで入れた。
 少女は虫かごの中の蝶を見つめ、不思議そうに首をかしげた。

「色がちがうよ、おじいちゃん。さっきの子は羽の色が白で、この子のは青だよ。でもすごくキレイ!」
 いつか連れて行ってもらった海の青に似ている、と少女は思った。

 老人は蝶を見つめる少女に微笑みながら言った。
「この蝶はね。食べた涙がどういうものかで、羽の色が変わるんだ」
 少女は目を丸くした。
「どういうもの?」
「涙の種類だよ。青は悲しい涙だね。これは深い深い青だから、すごく悲しい涙かな」

 少女はそれを聞いて、その涙を流した人を気の毒に思った。
「かわいそう。その人、元気になったかな?」
「きっと大丈夫さ」
 老人は目を細めて少女の頭を優しく撫でた。

「でも、おじいちゃん。涙って悲しいときに出るものでしょ。悲しくない涙ってあるの?」

 老人は白いヒゲに手をやり、ふむ、と言った。
「そうか、お嬢さん。まだ小さいから、悲しい涙の他にも、色んな涙があるということを知らないんだね」

 老人はそう言うと、さっきの虫かごをのぞいた。

 蝶の羽は白に戻っていた。
「ごらん。少し時間がたつと色が戻るんだ」
「本当だ」

「もう一度、はなしてみようか。今度はちがう涙を食べるかもしれないよ」
 老人は虫かごのグリーンの屋根を開けた。

 また、青い空に白い蝶が解き放たれた。

(今度はどんな色になるんだろう?)

 少女は蝶が飛んで行った青空を、いつまでも見つめていた。

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