七瀬 渡

仕事をしながら、note 始めました。小説、絵本、DOT絵を作成していきたいです。

七瀬 渡

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マガジン

  • ルイアゲハ -涙を食べる蝶-

    「これはね、涙を食べる蝶なんだよ」不思議な蝶が紡ぐ物語 短い物語がいくつか絡み合って一つの物語になっていく。エブリスタ pixivにも投稿しました

最近の記事

ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その終わり

流れ星 「お星さま、きれいだね。おじいちゃん」 「そうだね」  すっかり夜になっていた。老人と少女は帰ってこない蝶を気にしながらも、夜空の星に見とれていた。  少女は星が動いたように思った。流れ星だと思い、とっさに何かお願いごとをしようとして、蝶が早く帰ってきますように、と祈った。  しかしそれは流れ星ではなかった。 「あ、蝶だ! 帰ってきたよ! おじいちゃん! 流れ星かと思った!」  それは、涙を食べて帰ってきた蝶だった。 「ああ、あれは……あの色は……」 「

    • ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その10

      蝶の舌  蝶は食べ物を探し、ヒラヒラと飛んでいた。  白い建物が見えた。  窓が開け放たれていて、大きな人間が二人、小さな人間が一人いるのが見えた。    三人とも涙を流していたので、蝶は彼らに近づいていく。  大きな人間が流している涙は、過去に何度か食べていた。匂いで分かった。  なので小さな人間の涙を食べようと思った。  過去に一度だけ、食べたことがある味だった。

      • ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その9

        老人と少女5 「ちょうちょさん、帰ってこないね」  少女は椅子に座って足をぶらぶらさせ、クレヨンで蝶の絵を描いていた。窓から見る夕暮れの空はオレンジ色だった。 「そうだね。涙を流している人が見つからないのかな」  老人は少女の黒い髪を優しく撫でながら言った。少女は妻に似ていた。  妻は娘、つまりは今、頭を撫でいているこの少女の母親を生んだ後、すぐに死んでしまった。あのとき、生まれたばかりの赤ん坊の……産声をあげてないている涙を蝶に食べさせるとどうなるか、自分の研究に目が

        • ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その8

          追憶の羽の色  とある病院の一室に赤ん坊の泣き声が響いていた。白いベッドには母親になったばかりの女性が横たわっていた。きれいな長い黒髪が枕もとから少し垂れている。  父親になったばかりの青年は赤ん坊を抱いていた。生まれたばかりの赤ん坊は、産声をあげてないていた。  ただただ、ないていた。  赤ん坊の目から雫がこぼれた。それは涙だったのか、目にたまっていた母親の羊水だったのか。  青年は足元に置いてあったグリーンの屋根の虫かごを開けた。自分のうれし涙がこぼれないように慎

        ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その終わり

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        • ルイアゲハ -涙を食べる蝶-
          12本

        記事

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その7

          老人と少女4 「今度は紫の羽だよ、おじいちゃん!」  少女は、窓から入ってきた蝶を指差すと、老人に向かって嬉しそうに言った。 「紫の羽はどんな涙なの?」 「さあて、どんな涙だったかな。忘れてしまった。思い出したら教えてあげよう」  老人はとっさに嘘をついた。蝶の羽が紫色になるときは、恐怖の涙を食べた時なのだ。どこかの誰かが恐ろしい思いをしたと知れば、まだ幼い少女を怖がらせてしまう。 「うん。思い出したら、教えて」  少女は何も疑わずうなずいた。 「ねえ、おじいちゃん。ま

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その7

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その6

          蛇と女子高生  薄暗い森の中、わたしは蛇に睨まれていた。足がすくんで動けなかった。ちなみに蛇に睨まれたカエルということわざがあるけど、わたしはカエルじゃない。  花の女子高生だ。  日曜日だった。わたしの家は都心から少し離れた田舎にある。遊ぶところは都会と比べると少ないけれど、自然が豊かなところで、そこはわたしも気に入っていた。テストも終わったので、Tシャツにジーンズというラフな格好で、散歩がてらに森に入った。  多分この辺に住んでた昔の人がこさえたんだろう細い道を歩い

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その6

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その5

          老人と少女3  少女は窓から入ってきた蝶を見て喜んだ。 「おじいちゃん! 帰ってきたよ! 今度はオレンジ色だよ!」  老人が手をさしのべると、蝶はその手に止まった。  少女は老人に言った。 「オレンジはどんな涙?」  老人は微笑んで言った。 「オレンジ色は、うれしい涙だよ。だれかさんに、幸せなことがあったみたいだね」  老人は昔、まだ小学生だったころ、新種の蝶を発見したことで表彰されたことを思い出した。表彰式で母が涙をこぼし、それを蝶が食べたのだ。そのときはじめて、蝶が

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その5

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その4

          表彰式 「おめでとう!」  バーコードのハゲ頭に半そでのワイシャツの校長先生が、小学校の体育館の壇上で、大きな声で僕に向かって、賞状を差し出した。 「ありがとうございます!」  僕は両手でうやうやしく賞状を受け取り、深々とおじぎする。  なにを隠そうこの僕は、小学生生活6年目にして、新種の蝶を発見したことで表彰されたのだ。幼いころから昆虫が好きだった僕は、自分の発見した蝶が新種と認められて、うれしくてたまらなかった。  僕は顔がにやけそうになるのを必死にがまんしなが

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その4

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その3

          老人と少女2  窓から、青い蝶が入ってきたのを指差して老人が言った。 「見てごらん。蝶が帰ってきたよ」  老人はしわの刻まれた両手でやさしく蝶をつつみ、虫かごの中になれた手つきで入れた。  少女は虫かごの中の蝶を見つめ、不思議そうに首をかしげた。 「色がちがうよ、おじいちゃん。さっきの子は羽の色が白で、この子のは青だよ。でもすごくキレイ!」  いつか連れて行ってもらった海の青に似ている、と少女は思った。  老人は蝶を見つめる少女に微笑みながら言った。 「この蝶はね。食べ

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その3

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その2

          とある悲恋  気がつくと、またソファに突っ伏して寝ていた。少し変な姿勢で寝ていたので体の節々が痛い。鏡を見るまでも無く、泣きはらした顔はひどいことになっているだろう。外に出る気力もない。今、何時かしら?  テーブルの上に置いてあったスマートフォンを見ると朝の5時27分だった。会社からの着信が2件、友人からの着信が3件と私を心配するメッセージ……そしてまた、死んでしまった彼との思い出のフォルダを開いてしまいそうになる。  思い出して涙が出そうになる。  何も考えてはいけな

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その2

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その1

          老人と少女1  あたたかな太陽が、庭に咲いた色とりどりの花を照らしていた。  白いワンピースを着た少女が、白いアネモネに止まったモンシロチョウをじっと見つめていた。麦わら帽子からこぼれた三つ編みの髪が、アネモネと一緒に風にゆれていた。 (蝶も花も、わたしのワンピースと同じ。真っ白だ)  と少女は思った。 「おーい、こっちへ来てごらん」  少女が声のした方をふりむくと、サンタのようなヒゲをはやした老人が手まねきしている。彼は少女の祖父だった。 (おじいちゃんのヒゲも真っ白

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- その1

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- 表紙イラスト

          ルイアゲハ -涙を食べる蝶- 表紙イラスト

          ドット絵 夜と猫

          ドット絵 夜と猫