(本稿は、2010年に投稿したものの再録です)
「正義」へのアプローチ
ハーバード大学の超人気講義とのこと。NHK教育テレビでの放送も見られなかったので、楽しみにして手にした本です。
「正義」という根源的なテーマ。マイケル・サンデル教授は、具体的な事例における意見の対立を示しながら、その意見の対立の元にある「思想・価値観」等を論じていきます。
まずは、議論のはじめにこういったくだりがありました。
本書が「正義」を狭義の「哲学」の中で論じようとしていないことの表明です。
さて、本論。まずは、「分配の際の公平さ」という切り口から入っていきます。
ここで示された「正義に関する三つのアプローチ」が、本書におけるサンデル教授の論考の軸になります。
最初の「幸福の最大化」で採り上げられるのがベンサムを代表とする「功利主義」の考え方です。
後者の立場に立つならば、「どんな義務や権利が、結果に関わらず尊重されるべきか」という点が問題になります。しかし、功利主義は、こういう道徳的義務や人権を認めません。
徹底した「最大幸福原理」です。
(ただ、救命ボートのケースでは、結果、「良心の呵責に苛まれながらも生き残ることが幸福だ」という価値観が問われることになります)
二つ目の「自由」についての議論は別に触れるとして、三つ目の「美徳」に関する議論はアリストテレスの思想が登場します。
この「ふさわしいもの」とはなにか、その判断のためには「目的論的思考」が重要だといいます。
この考え方は、「目的」に合致した判断をするというものですから、現在の私たちにとっても理解しやすいものだと思います。
サンデル教授は、本書に記された考察を通して、この「三つ目の考え方」、すなわち「正義には美徳を涵養することと共通善について判断することが含まれる」との見解が自らの立場であると明らかにしています。
最後に、本書の中で紹介されたロバート.F.ケネディの演説の一節を書きとめておきます。
そういえば、今年(注:2010年当時)、日本はGDPで世界2位から3位になるのでした。
カントの正義
サンデル教授によると、カントの思想は「正義を自由と結びつける」アプローチだと言います。
それはカントの著作「道徳形而上学言論」で説かれているとのことですが、このあたりの解説は私にはさすがに難解でした。
ということで、自分で理解できていないという前提で、いくつかのフレーズを覚えとして記していきます。
この「自律」の概念はひとつのポイントです。
従ってカントは、自殺や売春を認めません。カントは、すべての人に平等に備わっている理性的能力への尊敬を説きます。他者を尊重することは人間の義務だとの考えです。
このあたりの考え方は、夏目漱石の「私の個人主義」のなかにも同種のものが見受けられました。
さて、こういったカントの道徳哲学の思想のなかでもうひとつ私の興味を惹いたのが「嘘」に関するカントの考え方です。
カントは「真実を告げる」という義務を重視します。したがって、「嘘と誤解を招く真実とのあいだには道徳的な違いがある」というのがカントの考えです。
「真実ではあっても誤解を招く言い様」は、結構身近でもお目にかかります。私自身も正直なところ心当たりがあります。詭弁的な言い方は、越えてはならない最後の一線への正直さの現われでもあるのでしょう。
最後に、「功利主義」に対するカントの姿勢をメモしておきます。
カントは、人々がそれぞれに持つ多様な価値観を重視します。特定の価値観の押付けには断固として反対するのです。