何とかならない時代の幸福論 (鴻上 尚史・ブレイディみかこ)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
この前、ブレイディみかこさんのベストセラー「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読んだところですが、今回の本は、いつも利用している図書館の新着本の中から見つけました。
鴻上尚史さんとブレイディみかこさんの対談集ということで興味を抱いだいて手に取ってみた本です。
NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達」での対談を中心に、新たな対談も加えて書籍化したものとのことですが、想像どおりのお二人の対話がとても刺激的でした。
お二人のやりとりから、興味をもったところをいくつか書き留めておきます。
「ぼくはイエローで・・・」にも書かれていましたが、ブレイディみかこさんが住むイギリスは、新自由主義的な労働党政権の政策の影響もあり “格差社会” が強まっているようですね。ただ、それでもみかこさんはイギリスの将来に楽観的です。
このあたりは、「ぼくはイエローで・・・」に登場する “息子さん”の様子をみれば納得できますね。
ちなみに、本書で紹介された息子さんの至言、「日本人は社会に対する信頼がない」。これは「世間」や「身内」といった日本特有の概念とそれにより生じる様々な事象を考えるうえでの見事なキーワードですね。
もうひとつ、新型コロナ禍で浮き彫りになった国民性について。
ブレイディさんが気づいたイギリス社会のいいところ。
さらに、ブレイディさんがイギリスで保育士資格を取るコースで習った「人間のクリエイティビティ」を育む教育について。
こういった指導は日本の教育現場ではまず見られません。“誰にとっての何に価値を置くか” という根本思想が全く異なるんですね。
このほかにも、私も大切だと思ういくつもの気になるやりとりがありましたが、思うに、そこで語られている主張をより現実化させるためには、ブレイディさんと鴻上さんとの対話のように “同じ価値観・同じベクトル” の方どうしの対話だけではダメなんですね。
対抗する考え(たとえば、校則賛成派・悪平等肯定派等)の方とのやり取りで、相手を論破するような内容を公開しないと、“仲間どうしの相互肯定による自己満足” に止まってしまいます。
映像メディアでの討論会的なやり方もありますが、いくつかの番組を見ても、結局は議論が嚙み合わず双方言いっ放しになるというのが経験則です。
その点、本のような「文字」に残るメディアでは、双方の言い分は可視化され固定化されるので、落ち着いた検証・評価がやりやすくなります。(同じ文字メディアでも、Twitterだと、やはり言いっ放しになってしっかりした議論には不向きです)
あともう一つ大切なのは、それをどうやって「直すか」という実行論です。
本書でも紹介されたような「意味不明な校則(ex.“理不尽なリボンの色”(紺はOKで、白はダメ))」は、おそらく多くの教師もおかしいと思っているはずです。でも、直す行動がとれない。
ここに、もうひとつの大きな問題が残っているのです。何が “元凶” なのかはみなさん見当がついているのだと思いますが。
本書の最後に、鴻上さんはこう語っています。
そういった状況が少なからず生まれたのは確かですし、とても大切な変容だと思います。
ただ、実態はというと、「いままでもそういった考え方をする素地のあった人が顕在化してきただけ」というレベルに止まっているように感じます。
各種世論調査の結果をみても一定数の「無関心・無条件現状肯定層」を突き崩すまでには至っていないですね。ここまでの事態になっても、相変わらず・・・。
しかし、それでも、ここで止まるわけにはいきません。