飲み放題、お腹いっぱい
霜月に入り、少し間が空いたけれどお茶のお稽古に行くことに
お師匠さんは忙しい
お笛の演奏、鼓の練習、里帰りと慌しすぎ
「かなちゃん、お茶会の前にお稽古しないとね」
お師匠さんは私のために時間を作ってくださる
その日は朝からお稽古のはずだったが近隣の保育園からお笛の演奏を頼まれて
「悪い、お昼前からにして」と変更
「はい、大丈夫です」
お昼前、約束の時間に伺うと
ご主人のタツ先生がお稽古をつけている
珍しくすず先生は薄ピンクの着物を着て割烹着姿で現れる
私のお稽古の時は洋装がほとんどだけど
タツ先生にお稽古をつけて頂いている方は濃茶をたてているらしい
この方は今度のお茶会でお点前をされるという
「かなちゃんも今度のお茶会の練習をしましょう」
すず先生と並んでお客さんをすることなる
すず先生が先にお手本を見せてくれる
濃茶は春先のお社さんのお茶会で一度だけ頂いた
トロトロのお抹茶である
いただく時は左右の人に挨拶をしてからお茶碗を持ち上げる
飲んだ後にはお茶碗の拝見
お茶碗は持ち上げないで姿勢を低くして眺める
濃茶ではその後から使われたお茶道具も拝見する
亭主はお客さんからの質問にも答えられるようにする
ここでもお勉強である
「今日はおぜんざいをお出しするから召し上がって」
すず先生はささっと奥へ下がる
最初はお点前をなさった方から運ばれて召し上がる
次は私の前に小ぶりの扇の形をしたお盆にのったおぜんざいが差し出されて、受け取る
ここでもお作法がある
おぜんざいを頂きながら、箸休めの小皿のお口直しを入れてみる
おぜんざいがまた甘く感じてくる
おぜんざいの後にはすず先生が気を利かせて薄茶をたててくださる
生き返る思いがした
その後にはすず先生が私の盆略点前のお稽古をしてくださる
のんびりと時間は流れてゆく
「もう一度、お稽古をしましょう」
二回目のお点前をさせて頂く
「そのお茶はかなちゃん飲んでね」
すず先生もお腹がいっぱいの様子である
「はい、分かりました」
少しずつ少しずつ身体が覚えてくるようだ
本当はまだまだだけど
水屋でお片付けをしていると
タツ先生のお稽古を受けるお弟子さんたちがやって来る
見慣れぬ前掛けのような物を身に付けていて
「それは何ですか?」と私が尋ねると
「着物の衿のようなものだよ」と教えて下さる
お弟子さんたちは次々と風炉のある茶室に入ってゆく
お稽古が始まったようだ
すず先生はお弟子さんたちにおぜんざいをお出しする、他にも御用があり、忙しく動き回る
私の最後のご挨拶はまだだけど
「もう少し待っていてね」
「はい、大丈夫です」
私はもの珍しげに眺めていると
「お待たせ」とすず先生は私の前に座られる
「ありがとうございました」と頭を下げておいたまをする
外に出て、時計を見るともう四時を過ぎている
楽しい時間はあっと言う間
干菓子、おぜんざい、濃茶に薄茶
わたしのお腹は満腹でタプタプとなる
晩ご飯は軽めにしようと思っていたが牛のステーキ肉が買ってある
いい加減に食べないと…
お抹茶を飲み放題の一日は
最後までお腹いっぱい