一碗からピースフルネスを
4月19日 裏千家15代家元、鵬雲斎大宗匠 千玄室さんが満百歳(白寿)を迎えられました。
私が裏千家の茶道に出会ったのは20歳の頃。
大学の友人がお茶を習っていたので、京都に二人で旅行した時に今日庵を訪ねて行きました。
一台の車の横に、中を覗き込んでおしゃべりをしているおじさんが立っておられました。
ウロウロしている私達に気がつき振りむいて言われたのです。
「あなた達は見学に来たの?
どうぞ中に入ってお茶を飲んでいきなさい。」
まさかそのおじさんが裏千家のお家元とは知リませんでした。
何もわからない私はほんの少しわかる友達と中に入り、出されたお菓子とお茶を
むしゃむしゃパクパク。ゴクゴクごっくん。作法も何もわかりません。
その後、若いお弟子さんにお茶室を案内してもらいました。
茶室の入口でへーなるほどーふ~ん狭くて暗いんだなと思いました。
もう一生見れないすごい空間なのに。
今考えると穴があったら入りたいような行動です。知らないとは怖くないのです。
注意されることもなく、無作法な私達を優しく見守ってくださいました。
後でお茶の先生方にその話をするとみんなに驚かれます。
お家元から紹介された茶道具屋さんにも帰りにのこのこでかけました。
お茶をしてるわけでも習うつもりがあったわけでもないのに、お金のない大学生の私がなぜか可愛いというだけでその時に買ったのがこちらです。
今でも使える43 年前に購入した古袱紗です。
まさかその後30年以上も茶道を学ぶことになるとは、この古袱紗もびっくりしていることでしょう。
大学を卒業して就職すると同期がたまたま茶道を習っていました。
なんとなく花嫁修業がてら行くことになりました。古袱紗も持って。
無事に?花嫁になれその2年後には妊娠したので茶道は5年ほど習ってやめました。
もう一生することはないと思ったのに、何故か古袱紗は捨てれませんでした。
出産後は夫の故郷に帰り3人息子を次々と育てるだけの忙しい日々でした。
三男が幼稚園に入ってやっと自分の時間が持てるようになりました。
たまたま近所の人がお茶を習っておられ、無理やり誘われてなんとなくまた茶道の世界に入ったのです。
若い頃の私は、ただお点前の順番を覚えてその動作をするので精一杯でした。
研究会という年に2回ある勉強会では、順番に代表でお点前をしなくてはならなくて練習も大変でした。
大勢の前で京都から来られた業躰先生に、間違った点を注意されたりするとなんだか憂鬱になり、お茶をやめたくなったこともあります。
そんな中
一碗からピースフルネスを
という理念のもと、お家元は世界中に茶道を広める活動をしておられました。
月謝だけでなく、お茶会のたびにお金がかかるのにお家元は世界を旅しておられるんだと勘違いして、なんだか不平不満を感じる嫌な私になっていました。
なぜ海外に行かれていたのか?
その本当の理由を知った時、申し訳ない気持ちになりました。
お家元は特攻隊に志願して生き残られた人でした。
多くの戦友を見送り、最後の出撃を前にして終戦を迎えられたのです。
辛く苦しい戦争の体験と生き残るというさらにつらい体験。
そんな人生を歩まれたからこそ、お茶を通して平和の大切さを伝える活動をしてこられたのです。
今も多くの人にその思いを伝えておられます。
茶箱という道具があります。
お家元は茶箱を特攻隊に持っていかれ、出撃する隊員のためにお茶を点てられたと知りました。
最後のお茶をどんな思いで点てられ、どんな気持ちで隊員の皆さんは飲まれたのでしょうか。
もうそんな辛い思いのお茶会はしたくないですね。
世界にお茶を広められた理由を知ってから茶道に対する気持ちが変わりました。
どうぞお茶を飲んでいきませんか?
みんなでお茶をのみませんか?
その優しい相手を思いやる心があれば平和な世界は広がっていくのかもしれません。
この一碗の中に地球からいただいた緑のお茶が入っています。
戦争で焼け野原になった地球ではお茶の葉っぱも無くなってしまいます。
そんな世界ではお茶碗の中には何を入れるのでしょう。
悲しい気持ちはいれることはできません。
以前、大阪の藤田美術館で曜変天目茶碗を見ました。
それはまるで星がたくさん浮かぶ広大な宇宙に見えました。
手に取ると宇宙を手のひらに包んだように感じるのかなと思いました。
今は国宝なので手になんて取れませんが。
宇宙のような曜変天目茶碗にも地球からいただいたお茶を入れて飲んだのでしょう。家康さんも。
茶碗の中に浮かぶ緑のお茶は、宇宙に浮かぶ地球なのかもしれません。
地球は宇宙の大切な星のひとつ。
自然を大切にするためにも、地球のためにも、そして宇宙のためにも世界が平和であって欲しいのです。
緑のお茶をみんなで笑顔で飲める平和な世界が続いて欲しいのです。
大宗匠が願ってこられた平和という言葉さえいらない世界。
きっとくるはずです。
私達の思いが一つになれば。
一碗からピースフルネスを
この言葉を胸に私は私のまわりにできる形で茶道のよさを伝えて行きたい。
できることをしていきたい。
もう一つの理念も。
一碗で感謝、合掌、仕え合い
これが私が大切にしている教えです。
「ちょっとお茶を飲んでいきなさい。」
43年前のあの日、声をかけてくださった100歳になられた鵬雲斎大宗匠に感謝の思いをこめて記事を書きました。
私は私らしく茶道をこれからも丁寧に楽しんでいきます。
見出しの茶碗は若い頃、初めて自分で買った信楽焼です。
白にブルーが綺麗で一目惚れしました。
先程自分のために点てて、飲み終えると茶碗に湖と山が見えます。
青空と緑の大地かな?
皆様はどのように見えますか?
徹子の部屋に出演されたそうです。こちらでは映らなくて残念です。お元気な100歳の鵬雲斎大宗匠を見られた方はおられますか?