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2024年11月の記事一覧
ウサギとカメ、カメが独走【400字小説】
二度目のレースは大方の予想通り、ウサギが勝ったのだ。ぬかりなく大差をつけて。わたしが根を張るゴール地点に勝ち誇って到着。大きな賞金を手にしたウサギは有頂天。ウイニングランも上機嫌。盛大な拍手と観声に沸いた会場。森の空き地での閉会式。カメはまだ到着してないのに進められた。そうだ、その日勝ったのはウサギだった。一度目も勝ったようなものだった、油断という大敵に負けただけ。それは観衆も認めるところで、カメ
もっとみるぶんぶく茶釜、性悪和尚の思考【400字小説】
あの茶釜がタヌキだったなんて思いもしなかった。金を稼ぐ茶釜だったとは……。古道具屋は大儲けしやがった。悔しいが百歩譲って許してやるとする。問題は茶釜姿のまま死んだタヌキを茂林寺に譲ったことだ。もとはわたしの茶釜だったのだ、わたしの寺に返すのが筋だろう。茂林寺に供養をお願いするとは許せない。このわたしが何をしたというのだ。それでわたしは怒りのあまり夜の茂林寺を襲撃。誰もいない境内に殴り込み、誰も殴ら
もっとみる北風と太陽、夏になったら【400字小説】
いつだって太陽と競っていた。自信はあった。しかし、四季を通じて負けてばかり。特に夏の太陽は強敵。人間たちは日光のまぶしさと熱さに、てんてこまい。薄着になるが、それでも流れる汗を止められずに生活している。「暑いですね~」が話題の枕詞のようだ。端から勝てる気がしない。夏はぬるい息でしか吹けない。冷たさが俺の武器なのに。どうしたら勝てるか、自分自身を追い込んで考え詰めた。結果、わたしは悟りにたどり着いた
もっとみる一休さん、虎が出てきた【400字小説】
「虎を屏風から追い出してください」と言われて、将軍様はぞっとしただろう。わたしはそれでも冷静だった。わたしの力があれば生きた虎を用意することも容易だったからだ、微笑んでいたほどだ。そんなわたしを見て将軍様は不敵に笑った。ゆっくり視線を一休に向けると「わたしの右腕が屏風から虎を解き放ってくれるぞ」と言って笑った。一休は大法螺と高を括ったのだろう、あははは~と大爆笑。鉢巻をして「さあ、追い出してくださ
もっとみるおおかみ少年、この話自体がウソかも?! 【400字小説】
なんでこんなデマが国中に拡散されたのか、知らない。村にはおおかみがいないと言ったら誰にも信じてもらえないほど田舎の村。息子は誠実で、誰かを騙したりしないし、どんなに小さないたずらだってしない、まあ、言ってみれば、子どもらしくないつまらない子どもだ。それは本当の話で、それでもわたしは息子を愛しているということも、本当の本当。先日、うちの猫が死んだ時、第一発見者は息子だった。息子はわたしにすぐにはそれ
もっとみるおむすびころりん、○か△か【400字小説】
△か、○か。我々にとってそれはとても重要な事項。正直、どちらでも転がってくる意味では、どうでも良かったりする。でもね、「♪おむすびころりん、すっとんとん♫」っていう歌を歌うには△の方が向いてる。△の角がリズムを刻んで転がり落ちるからだよ。○だとコロコロとスムーズに転がりすぎてグルーヴがないんですよね。△だから当然、三拍子を叩く。難しいと見せかけて、するするっと歌えるんだな、これが。「♪おむすびころ
もっとみるみにくいアヒルのこ、こんな裏話【400字小説】
あの子が白鳥だったことには驚いた。いじめて悪かったと感じている。早く新しい生活に慣れて、美しく生きてほしいと思うよ。だからといってオレは引け目をあの子に感じたりはしない。アヒルだって立派な鳥だ。かわいげのある生き物だ!って勝手に自負しちゃう。あの子をいじめたのは、事実に薄々気づいてたからかもね。あの子が去ってから季節は移り変わった。果たしてうまくやっているだろうか、そもそも、この厳しい世界を生き抜
もっとみる笠地蔵、目撃者【400字小説】
もんすんげえ、音がすっがら、あわてーて家を出たんだんばさ。えれ~勢いで何かが駆けててくのが見えから、おどれーた。なんか豪勢なもんを運んでんのがわかった。横取りしてやりたかりたかたったが、どうにもするんことできんくてな。あ゛っという間で。でも、雪の轍はできてったから、おっこらしょと、そのあとをつけたばさね。途中でめげそうになって何度も後悔したばってん。諦め駆けたとき、目の先のどえれえ向こうにきらきら
もっとみるマッチ売りの少女、現代のマッチョだったら【400字小説】
少女が寒さのなか倒れているのに誰も気にしていない。わたしは見かねて彼女の下へ早足で向かう。つるんと滑りそうで途中で「もうよそう」と引き返しそうになったが、少女が立ち上がりそうになったので、引き返せなかった。プルプルと生まれたての小鹿のようにとはよく言ったもので、そうとしか表現できない絶妙な少女の様子。近づくとわたしにしがみついてきてこちらまで倒れそうに。ところが体の感触が少女らしくなかった。全身、
もっとみる雪女、絶世の美女【400字小説】
猛吹雪のなか、小屋で晩酌をしていた。茂作と囲炉裏の湯で熱燗にした日本酒を「アツッアツッ」と飲んでいた。鍋の猪肉が「グツグツ」言っている。酒のまわったボクはいつの間にか眠ってしまう。酷く寒くて目を覚ました。それで宴会なんて夢だったことを思い出す。戸が開いて雪が吹き込んでいた。茂作の倒れた体の上に雪が積もっている。か細い女が傍らに立っていた。「このことを言ったら、てめえも殺す」と女はドスの利いた声で忠
もっとみる人魚姫、ブス【400字小説】
岩場で後ろ姿を見た時、その瞬間に惚れた。背中が海水に濡れて美しかった。太陽の光が反射してきらきら光っている。肩甲骨の辺りまで伸びた長い髪の色は明るい茶色。腰から下は、それのそれで。人間ではないから逆に美しく感じたのかもしれない。噂では聞いていた人魚。でも実際に見ることができて幸運だった。言葉は通じるだろうかと、どきどきした。ただでさえ、こんな場面で人間の女にどう声をかけたらいいのかわからないのに、
もっとみる一寸法師、おわんが湾岸【400字小説】
お姫様は毛量が軽くて爽やかな感じがした・大人にならない理由がないわけはなかった・何につけ・おわんが湾岸・居た堪れない・「せーの!」でも飛べない・デカい態度で食事をするなよ・作ってくれた人に感激を・爪楊枝を刀にして鬼と対峙・目ん玉を目がけて行く・逝きそうになって生きそうに・死んでないよ・ボクは・やっつけられてないよ・鬼を・悪は悪の正義があることをこの旅で知った・馬車のきつねを抱き締めて台風をやりすご
もっとみる金の斧と銀の斧、みずうみに身を投げたら【400字小説】
どちらの斧ももらえなかったうえに、使っていた斧もみずうみに投げ入れてしまって、明日の仕事すらままならなくなった。生活をどうすればいいのだろうと項垂れていた。気分転換にパブへ行き、大酒を飲んだ。酔っ払って苛々して喧嘩をふっかけた。ボコボコにされてなけなしの金まで取られた。家に帰ると妻の置き手紙があり、洋服掛けに服がなかったので、出て行ったようだ。いよいよ生きる価値を見いだせなくなって、斧を投げたみず
もっとみるこぶとりじいさん、そのあと【400字小説】
こぶがなくなって喜んで帰ったが、ばあさんは興味も示さずに「ふうん」と言うだけだった。いまだにばあさんを愛しているのは異常なのか。愛の言葉を言ってもばあさんは「ふうん」で片付ける。わしと結婚して不運だったとでも言いたげに。わしにこぶがなくって一日もしないで、その噂は村中を席巻した。だから隣のじいさんに会うまでもなく彼にふたつのこぶがついたのを人伝に聞いたのだ。普段から嫌われているあの人だから、村人た
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