【書評】『normal?』
今回紹介する本
著書名:『normal?』
著 者:井手上漠
出版社:講談社
著者の井手上さんは、LGBTQのQ(クエスチョニング:自分の性がどちらに当てはまるのかわからない)だと自認しています(著書の139ページより)。
そんな井手上さんが、中学時代までの自身のマイノリティーに対する苦悩と、母の言葉で”自分らしさ”を取り戻していき、中学時代に選考した弁論大会・高校時代に選考したジュノンボーイコンテストで輝かしい賞を受賞していき、明るい人生に生まれ変わった現在までの人生をエッセイにしてまとめているのが今回紹介する本です。
また、井手上さんの出身地、島根県の隠岐の島海士町(あまちょう)で撮影したフォトもあるので、「フォトエッセイ」様式となっております。
感想&おすすめしたい箇所
①母の存在が大きい(p38~p70)
現在の井手上さんがいるのは、「母の存在がとても大きい」ことが、第1章の中で分かります。
小学校時代から、周囲から冷ややかな目線を浴びることになり、人生が”色あせた世界”になってしまい、とてつもない孤独を感じていたそうです。(p46~p55)
しかし、そんな中でも井手上さんの母は、井手上さんの状況に理解を示し、中学2年の時に、
『漠は漠のままでいいんだよ。それが漠なんだから』
と言葉をかけたそうです。そこから井手上さんの人生は変わっていったそうです。(p60~p70)
自分のいまの存在を理解してくれることは、家族などの身近な存在であっても難しいときがあります。しかし井手上さんの母親が井手上さんに心から理解を示してくれたことによって、井手上さんのその後の人生が変わりました。
「自分にとって心から相談できる相手がいること」
「相手からの相談に対して自分が親身になって聞くこと」
この2つがセットであることが大事だと、この本で勉強になりました。
②ありのままの自分を披露することで人の心を動かす(p71~p95,p108~p120)
中学3年生の時に出場した弁論大会では、井手上さん自身のこれまでの経験と、”ありのままの自分”を互いに認め合うことで”カラフルな世界”が作られていくことをスピーチにして発表しました。そしてそれは、「全国大会2位」という結果に繋がりました。(p71~p95)
さらに、高校1年生には周囲の推薦を受けて「JUNONスーパーボーイコンテスト」に応募しました。そこでも”男らしさ”を出すのではなく、”ありのままの自分”を貫きとおしたことで、賞を受賞することができたのです。(p108~p120)
弁論大会もコンテストも、井手上さんは最初あまり乗り気ではありませんでした。しかし周りからの強い後押しと自身の”ありのまま”を貫き通すことで見事な結果を残すことになりました。
”偽の自分”を作るのではなく、”ありのままの自分”を披露すれば、周りはしっかりと見てくれているのだなと思いました。
③”普通”の基準はアップデートされるべき
井手上さんの学校で、ジェンダーレスな制服のデザインに変えていこうという機運が高まりました。始め生徒からアンケートを取ると、ほとんどの生徒が賛成しました。
次に先生に対して意見を求めたのですが、そのうちの1人が
『僕たちの時代には”そういう人”がいなかったからよく分からない』
と言ったそうです。井手上さんはその言葉に疑問と反抗心を持ち、「制服デザインによって狭い心で過ごしている人がいる」ということを熱弁したことで、先生たちの同意を得ることができたそうです。
この中で思うのは、
・基準はあくまでも”現在”のなかであるのであって、過去を基準にしたところで意味はない
・過去において、自身が認識していないことを「なかったこと」と決めつけるのは違う。むしろ「こういうことがあるかもしれない」と自分からアプローチをかけていくことが大切だ
ということです。
”普通”というのは「現在」の中にあるということを認識しておかないと、今回のようなLGBTQについてやジェンダー差別などの問題がいつまでも解決に向かわないと思います。
自身の気持ちも含めて、「常に自分をアップデートしていく」という気持ちが大事なのだなと感じました。
まとめ
井手上さんのエッセイは、LGBTQのことだけではなく、普段の日常についても考えさせられました。サブタイトルにある「”普通”って何?」というのを常に考え、常識にとらわれない過ごし方をしていくと、今後の人生はより良いものになるのではないでしょうか。
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