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自作小説

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【短編小説】その五月の陽光のもと

【短編小説】その五月の陽光のもと

 息子の運動会の感想に、「君の名は」でお馴染みの「入れ替わり」というファンタジー要素を思いきって盛り込み(※男性視点で書きたい、という気持ちが先走ったもの)、ひとつ短い小説を書きおろしました。

はじめは運動会のことを普通に日記として書こうと思っていましたが、どうしても「暗い本音」や自己陶酔のような感想になっちゃう部分が嫌。
自分の気持ちと言語化したときのギャップ。

たとえば「劣等感を抱く」と書

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【小説】昭和に次男として産まれた私

【小説】昭和に次男として産まれた私



前書き

 母は九州大牟田家に繋がる血筋、父は学習院大学を卒業し、上場企業の社長まで上り詰めたエリート。父方の祖父は生前警視総監でしたが、還暦を迎えず早逝しました。祖父が売り込んだのか編集者からお声がかかったのか知りませんが、警察のドキュメンタリー本を一冊出版しています。署と署の仲が悪く、組織としての統制が取れず、引退までに暴力団壊滅には至らなかったというエピソード。

 仰々しく書き出してみ

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【小説】シルバー・ライニング

【小説】シルバー・ライニング

あらすじ
なぜか目の前にいる「不思議な少年」に、うだつの上がらない人生をやり直すという提案を持ちかけられ、疑いながらもそれに乗る、というドロッとしたSFストーリーです。
創作大賞用に編集しています。

他に投稿するために、予告なく削除する可能性があります。
(蛇足ですが、作品中の「少年」は、マーク・トウェインの不思議な少年に、影響を受けています)



 母は運命を受け入れるべきだと私・ヨウコに

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体の中に耀る月 エピローグ

体の中に耀る月 エピローグ

秋が深まってまいりました。

ここまで読んでいただけた方は、ありがとうございます。まだの方は、一話から読んでいただけると嬉しいです。

※この話を書いた頃、息子はまだ産まれていなかったので、発達

体の中に耀る月 第6話「胸中」

体の中に耀る月 第6話「胸中」

 今より昔、当時、なんとなく書いていた部分が、今では意味が変わっていることもあります。
 そういうとき、単純な拙さとは別の読みづらさがありますが、やっぱり小説を書くことを、まだやめたくないですね。

第6話「胸中」

睦は電車を飛び出してから、途方にくれて佇んでいたが、まず敦子に返事をすることにした。

「大丈夫?」

と。それに対する返答はなかった。何コール待っても、電話への応答もない。5分・1

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体の中に耀る月 第五話「睡余」

体の中に耀る月 第五話「睡余」

第5話 睡余

 情はどこから沸いてくるんだろう。源泉はどこにあるんだろう。知らず知らずに溢れ出るものであれば、枯渇を自覚できないのも然り。満たされた時間は一瞬で、それに気づくのは過ぎたとき。振り返って懐かしく思う。虚しいものだ。

 楓は家族を愛していた。両親を、娘を、そして、もちろん妹を。彼女の良いところは、家族を恨み妬んでも、彼らの愛によって育まれ、満たされた日々の全てを嘘だと思わなかった事

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体の中に耀る 第4話「腔」

体の中に耀る 第4話「腔」

第4話 腔

 

それから夏休みまでは、穏やかに過ぎていった。校内で、睦と南戸、春は、一緒にいる時間が増えた。睦の退院後、春は、病院で敦子と何を話したか、聞き出そうとしたが、「秘密だ」と言って答えてくれない。実は、敦子と睦はほとんど何も話していない。春が出ていってから、敦子の気分は幾分和らいだようだが、睦に「大丈夫?」聞き、睦が「大丈夫」と答えたあとは、しばらく沈黙が続いた。敦子の頬にキスした後

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体の中に耀る月 第三話「肚の中」

体の中に耀る月 第三話「肚の中」

第3話 「肚の中」

斑で不均一の粒から、白く柔い生物が体節をくねらせてモソモソと這い出してきた。明朝。眩しそうに身をこごめた幼体だが、慌ただしく塀を登り始める。背中に暖かい朝日を浴びて微睡み始める。彼は、その一生を歓喜の唄だけで終えらせる。

 夏がきた。晴天の下、体育の授業だった。暑気は爽やかと感じられる程度だが、生徒は不満たらたらである。マラソンの授業で校舎の周りを三周走らなければならない。

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体の中に耀る月 第二話「脣」

体の中に耀る月 第二話「脣」

※このnoteは、所事情により予告なく削除する可能性があります。詳しくは第一話の但し書きをご覧ください。
 楽しんでいただけると嬉しいです。

第2話「脣」

 

暗がりの中に、音が響いていた。モーターと、冷却ファンの音。無機物の出す音には、秩序がある。途切れなく続いていたかと思って安心していると、ある日突然弱々しくなりこと切れる。苦しみも足掻きもない。

 春(ハル)は、モニターをぼんやり眺め

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体の中に耀る月 第一話「腕」

体の中に耀る月 第一話「腕」

※約一週間に渡り、拙作全部を公開してみる試みです。(前回はぶつ切りの上にnote用のコラムめいたものの間に挟んで公開していたので、わけが分からなくなりました。ごめんなさい)
※素人につき、賞応募や管理優先のため、予告なく削除することがあります。

第1話「腕」

 

誰より、僕が傷だらけであることを、誰に知ってもらえば良いだろう。

睦(あつし)は、教師に指定されたページを正しく開いて、テキスト

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隣のネズミ-7

隣のネズミ-7

拙作短編「隣のネズミ」はこの回で終了です。
イイネで応援してくださった方、読んでくださった方、誠にありがとうございます。

創作を「晒す」のは、レスポンスをいただける可能性とを天秤にかければ安いものと考えつつも、けっこう恥ずかしいものなので、ほんのちょっとのお気持ちが全て励みになっています。

昭和産まれの人間より、今の人達の心が弱く幼いのは、どうしょうもない事なんだろうか。

 

 高瀬さんが

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隣のネズミ-6

隣のネズミ-6

 水島さんの隣人は、一体何を考えているのか?
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 隣に越してきた水島さんを初めて見たとき、地味な人だと思った。前髪をセンターで分けて、髪を一つに縛っている。小学生低学年くらいの男の子がいて、「大変だから」で、オシャレの優先順位が低いらしい。そういう人を見ると、子供好きながら自分の選択肢は正解だと再認識せざるを得ない。オシャレする間もなく、見た目から疲れてい

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隣のネズミ-5

隣のネズミ-5

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創作 小説 5話です
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それで二週間ほど、あの坂田さんに子どもを任せてみることにした。もしかしたら息子のことを、ある事ない事つぶやきに書かれるかもとは思ったけれど、自己イメージが大事らしい彼女は、クレーマー気質では無かった。その自己イメージの中に、「子供好き」というのがあって、多少のことがあっても息子に目くじらを立てることは無いだろう、と、甘く見ていた。

 知

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隣のネズミ-4

隣のネズミ-4

 私には、ある光景が脳裏にこびりついている。直観的にネズミを可哀想だと思ってしまう。祖父母の農家で、ネズミが殺されるところを見たことがあるのだ。トラウマというほど大したものではないが、寡黙な祖父が、上がり框にうろついていたネズミを叩き殺し、ささくれ立った無骨な手に、ハンカチ一枚だけを乗せ、お腹が破れて赤黒い内臓がはみ出ている死体をつまみ上げ、ぽいっとゴミ箱に捨てていたのだった。

 その頃、豚やウ

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