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【短編小説】週3日投稿

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SF・ミステリー・コメディ・ホラー・恋愛・ファンタジー様々なジャンルの短編小説を週に3日(火〜木)執筆投稿しています。 全て5分以内で読めるので、気になるものあればご気軽に読んで…
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2024年4月の記事一覧

【短編】『春の訪れ』

【短編】『春の訪れ』

春の訪れ

 森の奥深くの洞穴に眠るヒグマはツバメの鳴き声を聴くなり寝返りを打つ。誰もいないはずの湖のほとりにつがいのシマリスが現れ、風で飛ばされた木の実を求めて草をかき分ける。それを遠くの水面からじっと見つめるカバは水中へと潜って再び水面に顔を出すと、鼻から水を勢いよく吹き出す。シマリスは突然のことに身を震わせて森の方へと去っていく。再びツバメが鳴くとヒグマが寝返りを打つ。どこからか怪物が唸り声

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【短編】『尾行族』(完結編)

【短編】『尾行族』(完結編)

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尾行族(完結編)

「間宮くん、左利きだったっけ?」

「あ、いえ。席が狭いので滝本さんに肘が当たらないようにと」

「そうかそうか」

間宮くんは気の利く人だと思いながら、今し方自分のしたその質問が妙に頭に引っかかった。そういえばあの夜、犯人の男は崖の上で社長の胸ぐらを掴もうとした際に左手を先に出したのだ。その瞬間、僕の思考は急速に回転し始め、暗闇に隠れていた犯人の姿をありあ

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【短編】『尾行族』(後編)

【短編】『尾行族』(後編)

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尾行族(後編)

 あの夜、社長と隣で話をしていた男は誰だったのだろうか。なぜ社長をわざわざ人気のない千葉の断崖まで連れ出したのだろうか。社長は会社のすぐ側の公園で何を思い悩んでいたのか。僕には全くもって犯人の見当がつかなかった。愛人でなかったのだからやはりカネか。もしや闇金から借金でもしていたのだろうか。僕は社長と繋がりのある者を片っ端から調べることにした。もし闇金に縁のある

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【短編】『尾行族』(中編)

【短編】『尾行族』(中編)

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尾行族(中編)

 僕は社長に気づかれぬよう一定の距離を保ちながら跡をつけた。社長は足早になって道を進んだ。会社のある方角へと向かっていた。交差点を渡ると、向こうに大きなビルに挟まれた小さな建物が見えた。我々の会社だった。5階の窓を見ると一箇所だけ照明がついており、まだ誰かが残業をしているようだった。あの照明の位置から見るに河本だろうかと思いながら社長から目を離さずに後ろから観

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【短編】『尾行族』(前編)

【短編】『尾行族』(前編)

尾行族(前編)

 都心の一等地に身構える巨大ビル群の隙間にひっそりと佇む古い建物の5階に我々のオフィスはあった。なんだか出勤するまでは一端の大手企業勤めの会社員といった心持ちで駅からの道を歩くも、それも束の間建物の入り口に入った途端に、定員5名のレトロなエレベーターが我々を出迎えてくれる。階を過ぎるごとに大きな振れを味わいながら、とりあえずは社長と出会さなくてよかったと安堵したのちに、今日も今日

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【短編】『一目惚れ』

【短編】『一目惚れ』

一目惚れ

 一目惚れとは、一般的に異性を一目見てから長らく忘れられずにいるという生理的現象、あるいは恋煩いという名の病のことを指すのだが、この原理を紐解くことは非常に難解であることは誰もが承知のことであろう。しかし、一つの仮説を提言するのであれば、一目惚れという現象は、一人が死を体験することと似ているのだと思う。

 順を追ってこの仮説を論じよう。まずはもちろんのこと一目惚れとは視覚があって初め

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【短編】『ルックス・クライシス』(完結編)

【短編】『ルックス・クライシス』(完結編)

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ルックス・クライシス(完結編)

 私は初めてのホストクラブへの来店のために少々ぎこちなさを顕にしていたが、ホストの一人が私のその姿に気づき率先して話しかけてくれた。

「お姉さん。若いし可愛いね」

「ほんとですか?」

「ほんとほんと。俺ここの誰よりも見る目あるから信じて」

「嬉しいです」

と苦笑いを見せた。彼は私にとても優しく対応してくれた。初めての客に慣れているようだっ

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