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空想

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#短編小説

『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .03.1

『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .03.1

開かなくなったもの、なんでも開けます。 by 鍵屋

一番初めはこちらから。

このお話は、こちらの続きです。

第三話『ドラマツルギーの表舞台』

店先の石畳の上で、確かに狭くなっていく空を晏理は見つめていた。不気味に笑う雲が、二羽のカラスを吸い込んでいくところが目に映った。
(晴れるといいけどな......。)
openの看板をかけ、店の扉を開けて中に入ると、入れ替わるようにサキが中から出てく

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『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .01'

『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .01'

開かなくなったもの、なんでも開けます。  by 鍵屋

***第一話の続きです***

初めはこちら

第一話『オセロの行末』~After Story~

〜花言葉:移り気〜

清楚な女性は、店の外に出た。

「よかった。彼は、浮気なんてしてなかった。あの女に微笑みかけているように見えても、私だけを好いてくれるんだわ。
早く帰って、彼の部屋にスマホを戻さないと。」

ヴヴヴ...ヴヴヴ...

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『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .01

『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .01

開かなくなったもの、なんでも開けます。  by 鍵屋

***prologueの続きです***

第一話『浮気オセロの行末』

あれだけ降っていた雨は止み、ひばりが鳴くような穏やかな朝だった。
一通りの支度を終えた晏理は店の看板をclosedからopenに変えるため、外に出た。昨晩の雨で濡れた石畳風の道と重い空気、匂い。それに不釣り合いな透明感のある空の青さに気持ちが不安定になる。(きっとこの空に

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『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .00

『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .00

開かなくなったもの、なんでも開けます。  by 鍵屋

〜prologue〜

稲光が聞こえる。その大きな音によって静寂が強調されるような真夜中のことだった。
決して明るくはない暖かい色の電気の下で、木材の香りが高い湿度によって鼻に運ばれてくる。
雷の音に反応し、一人の男が突っ伏していた机から徐に頭をもたげた。数回まばたきをした後、朧げな灯の中で、ベッドに眠るもう一人の男とその隣で丸まっている三毛

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『無償の愛』

※フィクションです。

うだるような暑さの生み出した汗が、身体にまとわりついて離れない。拭えども拭えどもその汗が引くことはなく、諦めて、汗の思うがままに流れることを受け入れるのであった。
その刹那、重く湿った風が、対象を揺さぶった。
「お元気ですか?...というのも無粋でしたかね。」
明らかに元気のなさそうなのを横目に、通りかかった少女は腰を下ろした。続く言葉はなく、ただ一緒に風に揺られる時間だけ

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『金木犀』

『金木犀』

短編小説です。

フィクションです。

すっかり鼻を抜ける匂いが単純になり、目に入る光量が少なくなる。目の前を通る風の色も透き通ってきた頃のことだった。
平坦になったその景色の間に、傲慢にも割り込んでくる香りが鼻をついた。
甘ったるいその香りは、どうしてか人を惹きつける。その香りの根源に居座ったまま、その場から動けなくなっていた。
日が沈みかけているのを横目に、目の前のベンチに腰掛けた。
昼間なら

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『春霞』 part.3

『春霞』 part.3

フィクションです。

『春霞』、『春霞』part.2の続編となっております。

キッチンタイマーが90分にセットされた。
「さて。90分ほど時間がありますが。何をしましょうか。」
時を刻み始めたそのタイマーはこの木の香り漂うダイニングに、唯一そぐわないのデジタルなものと言っても過言ではなかった。
「90分後に何かあるのですか?」
私は単純に気になったことを聞いた。
「90分後には健介をこちらの世界

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『春霞』Part.2

『春霞』Part.2

『春霞』のつづきとなっております。

短編小説です。

「おはようございます。」
昨晩は、意識がまどろんでいる状態で眠りについたらしく、起きたときに状況を理解するのに多少の時間がかかった。カーテンから漏れる光を見て、体をなんとか起こし、寝室らしき部屋を出るとダイニングテーブルに拓哉さんと見知らぬ青年が座っていた。体型は細身でいて、その乱れた髪と服装のイメージから、高身長と認識するのはもう少し後にな

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『花火と夜のあつい夏』

『花火と夜のあつい夏』

短編小説です。

「花火見に行きませんか?」
「花火...苦手なんですよね。音が。」
「音ですか?」
「ええ。あの、空気を裂いた音がそのまま胸に突き刺さる感じが...苦手です。」
「なるほど。では、手持ち花火はどうです。浴衣を着て、そこの河原で、二人で。」
「...それなら。少しなら。」
「決まりですね。」

「浴衣お似合いですね。きれいです。」
「ありがとうございます。久々に浴衣なんて着ましたよ

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『春霞』

『春霞』

短編小説です。

それはある初夏の頃だった。遠くに流れる川のせせらぎを捉えながら、なぜか慣れない山道を歩いていた。半袖から出る肌には少し涼しい風があたっていて、空気は静寂を保っていた。綺麗に舗装された道の右側は断崖絶壁で、下を除いても雲海が見えるだけで、そのさらに下を見ることは叶わなかった。

真っ直ぐに続いていた道が少し行くと、どうやら左に曲がっているようで、少し先は春霞と合わさり、ぼやけて見え

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『胡蝶の夢』

『胡蝶の夢』

胡蝶の夢
私が蝶なのか、蝶が私なのか。
夢か現実かわからない儚さの喩えでもある。

いつもそう。周りは雨。僕はもう濡れることを気にしなくなり、ある種の気怠さを覚えながら、何処かへ向かって歩を進めている。
いつものbar。そこにももちろん色はない。どこで、色という概念を覚えたのかすらあやふやなほどに僕はモノクロなその世界に馴染んでいた。金属と思しき冷たいドアノブの感触に一瞬のためらいを感じながらも、

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『彩雲』

『彩雲』

”彩雲”
太陽光の回折によって虹色に見える雲のこと
太陽光が雲粒を回り込み、太陽光の中の角食の波長の長短によって曲がる角度が異なるため。色が分かれて虹色になるもの。

碧い空、真っ白に湧き立つ積乱雲、そして突き刺さる太陽の光が窓の外側に見え、部屋の中とは対照的に夏の季節を物語っていた。
そんな窓というキャンバスがかかっている薄暗い部屋の中で、コーヒーを飲みながらそのキャンバスを眺めていた。
突き刺

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