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『どこにでもある鍵屋...UNLOCK』 .01

開かなくなったもの、なんでも開けます。  by 鍵屋


***prologueの続きです***


第一話『浮気オセロの行末』

あれだけ降っていた雨は止み、ひばりが鳴くような穏やかな朝だった。
一通りの支度を終えた晏理は店の看板をclosedからopenに変えるため、外に出た。昨晩の雨で濡れた石畳風の道と重い空気、匂い。それに不釣り合いな透明感のある空の青さに気持ちが不安定になる。(きっとこの空に手が届くことはない...)伸ばした手は空を切り、やがて自分の元に戻ってきた。その手は湿っていた。鳴き声のしたひばりの姿は見えなかった。

「...晏理。遅いから見にきちゃった。寒いでしょ?中に入ろ。」
「......。そうだね。   ...空、綺麗だよ。行ってみたいんだよね。」
「僕は別に行きたくもないな。綺麗に見えるところには行きたくない。綺麗なものにはその分の苦しみがついてまわるんだよ? 空はきっと寒い...。......中に入ろう。」
「......そうだね。入ろう。」
中に入ると、昨日の夜中に手渡した木箱は既に開いていた。


しばらくして、ベルがなった。入ってきたお客さんは、清楚な雰囲気の女性だった。
「おじゃまします。開いていただきたいものがあるのですが。」
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」
晏理は女性を接客用のテーブル席に誘導した。
「おかけいただいて。本日はどうされましたか?」
「スマホが開かなくなってしまって。これなんですが...。」
女性は、カバンからカバーなどは付けられていない裸のスマートフォンを一台取り出した。そのとき、ネコは寝ていたソファを離れて虎史の元に駆け寄った。
「...失礼ですが、ご自身の持ち物ですか?それとも......?」
「私のものではないんです。付き合っている彼のものでして。最近、彼の挙動がおかしいもので。多分浮気なんです...だから、一度スマホを確認しておこうかと思いまして。」
「なるほど。承知いたしました。本当に開けてしまってよろしいでしょうか?」
「はい。何もなければ一番いいのですが...。よろしくお願いします。」
「では、契約書のここにサインいただけますか。お願いいたします。」
そう言って晏理が女性にペンを渡し、立ち上がって作業用の机へと向かおうとした。すると、机の方から、虎史がラップトップとケーブルを持ってこちらに向かってきた。
「これでしょ?」
「うん。ありがと。流石だね。」
「サキが教えてくれたから。依頼は大丈夫そう?何かあればすぐ呼んでね。」
「多分大丈夫だと思う。ありがと。」
そういうと晏理はラップトップとケーブルを受け取ってテーブルに戻った。知らぬ間にサキはソファの上に戻って寝ていた。
「サインありがとうございます。では、作業始めていきますね。」
ケーブル類の中から、このスマートフォンにあったものを探す。あとは、接続確認を行ない、既存のパスワード解読プログラムを動かすだけだった。作業はほんの10分ほどで終了した。
「ロック画面は開きました。どうぞ。ご確認お願いします。」
「ありがとうございます!見てみますね。

......特に怪しい部分はなさそうです。...よかった。」
「暗証番号、1126だったんですが、何か心当たりは?」
「あ...私の誕生日です。」
「ちゃんと愛されていたのではないですか?」
「そうみたいです。ありがとうございました。また、お願いします。」
「はい、またいつでもどうぞ。」
女性は、店を後にした。



彼女が出ていくと、虎史が作業をしながら晏理に話しかけた。
「晏理、あの女性はシロだったんだね。よかった。」
「どうかな。俺はクロだと思うけどね?」
「......。」



虎史は一瞬顔をもたげて、眉毛を緊張させ、晏理の方をみた。そこにいた晏理はどこか遠いところを見つめていて、今にもどこかに行ってしまいそうなほど儚かった。
サキがベッドから移動して晏理の膝の上に座った。
「そろそろご飯かな?ちょっと待っててね。」

虎史が窓に視線を移すと、陽は高くなっていて影が短くなっていた。


after storyに つづく

※フィクションです


では、また次の機会に。

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