【SS小説】幸せの幻覚 Vol2

-第二章- 長谷川裕子（はせがわゆうこ）

私の夫、学さんは優しい。
余命宣告をされて入院となって２ヶ月

毎日仕事終わりに、私の好きな物を買って来てくれる。
昨日はカヌレ。今日はきっとシュークリームだろう。
想像しただけで愛おしく笑みが浮かぶ。
少しでも私との少ない時間を笑顔でいる為に
毎日毎日、笑顔を持ってきてくれる
そんな優しい人。

「ただいま！調子どう？」

病室のドアが空き
恐らくケーキ屋さんの箱を隠してるつもりで
身体の後ろで持ち、いつもの"ただいま"を
言ってくれる。

「元気だよ！昨日一緒に見た韓国ドラマの続き見ちゃった。ごめんね。」

私は、舌をぺろっと出して謝る。
学さんが絶対に許してくれる私の必殺技だ。

「え〜、一緒に見ようと思ってたのにぃ」

今日の学さんは元気だ。
"私が泣いたあの日"から、学さんは元気だ。

余命宣告されて一カ月、
毎日お見舞いに来てくれていたが来る度に
ごめんね。ごめんね。と私に謝ってくる。
学さんが悪い訳でも無いのに。

私が苦しい思いをしてるのを、
何もしてあげれない自分が嫌で私に謝ってくる。

病気と余命を受け入れられない私達に
更に神様はまだ試練を与える。

結婚式場からのキャンセルの勧めだ。

近年コロナウイルスの影響もあり
結婚式場の延期期間は１年以内のみ。
更に、延期は１回しかできない。

その延期した1回も開催できるか分からない
私達は、
このままでは多額のキャンセル料がかかるから
キャンセル料のかからない、
今のうちにキャンセルをした方が良いとの式場からの勧めだった。

分かっている。
分かっているがそう簡単にキャンセルできない。

キャンセルを、してしまったら
本当に私たちの約束された幸せな未来も
全て無くなってしまう。そんな気がした。

でもこのまま、何百万円のキャンセル代を
払うほど私達に余裕は無い。

そんな式場からの連絡が来た次の日
学さんは病室で私に言った。

「式場、、キャンセルしてきたよ、、」

私は泣いた。
悲しさとか悔しさとかの感情を実感する前に
私の目からは涙が溢れて、
ベッドのシーツに滴り落ちていた。

式場も私達のことを考えて
ルールのある中で出来ることを提案してくれたのだろう。
学さんも、キャンセルするしかない現実と
向き合って1人でその手続きをしに行ってくれた。
誰も悪くない。誰も悪くないのに。
なんで、私、こんな目に合わないといけないの。

「私、もう死にたい、、」

感情のブレーキが効かず
私は今の気持ちを何の審査も通さずに
全て言葉にしてしまう。

「私が何をしたの！？学さんのお嫁さんになって、、
可愛いドレスを着て、みんなに綺麗だねって言われて、

パパとママと一緒に泣いて、

結婚式が終わったらハネムーンに行って

子供ができたら普通の一軒家に住んで

子供達と学さんと笑顔いっぱいの人生を過ごしたかった！

それだけの願いなのに、、」

溢れた感情はダムの様に放出されていく。
学さんは何も言わずに、悲しげな顔で私のベッドの前で立っている。

私の、いや私達の未来はもう無いんだ。
約束された幸せな未来が幻覚の様に消えていった。
その絶望に耐えられなかった。

その日から学さんは、元気になった。
私の気持ちを少しでも前向きにしようもしてくれてるのかな？
でも無理しているのか少し様子はおかしい。

そんな気を遣わせてるのが
更に苦しく感じるが、学さんの気持ちを無下にはできない。
私も精一杯の笑顔で返す。
そんな嘘の仮面を付けたまま私達は幻覚を
見続けた。

そこから２ヶ月が過ぎた秋の夜

「別れよう」

学さんにLINEを送った。

...続く

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-幸せの幻覚- Vol.1

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