『「大阪都構想」ハンドブック 「特別区設置協定書」を読み解く』 :大阪市民は〈犠牲〉になるだけ
書評:大阪の自治を考える研究会 編著『「大阪都構想」ハンドブック 「特別区設置協定書」を読み解く』(公人の友社)
大阪市民がこれを読めば、「都構想」に賛成票を投じることなど、とうていあり得ないだろう。
本册は、「大阪都構想」の問題点を、大変わかりやすく、かつ具体的に紹介しており、パッと見ほどに難しい内容ではないので、大阪市民ならば、自身の「死活」にかかわることなのだから、ぜひ本册を手に取ってほしいし、手に取るべきだ。
でないと、あとで悔やんでも、悔やみきれないといったことになるかもしれない。
本册で紹介されている、「大阪市を、四つの特別区に分割する」という「都構想」の問題点を、おもいっきり簡単に紹介しておくと、次のようになる。
(1)「税収」は大阪府に召し上げられ、それに見あっただけの仕事を負担してもらえない。
(2)「厄介な仕事」は特別区に任され、行政的な「権限」は大阪府に召し上げられる。
(3)四つの特別区に分割されることにより「スケールデメリット」が多数発生して、住民サービスが低下する。
(1)は、要は「大阪市の税収の4分の3」が大阪府に移管され、そこから「財政調整交付金」が特別区に公布されるという面倒な仕組みによって、特別区は経済的自立性を失い、大阪府の意のままに犠牲を強いられることになる、ということ。
(2)は、大阪府が欲しいのは「財源」と「権限」なので、「面倒な仕事」は、そのまま特別区の自助努力にお任せすることになる、ということ。
(3)は、自治体のスケールが小さくなる(細切れにされる)と、実質的に人員不足が発生して、住民サービスが低下する、ということ。
なぜ、実質的に人員が減るのか。例えば、これまでは大阪市として運用していた人員を四つに分割すると、個々の特別区の人員は4分の1になるけれど、「必要な職種(住民サービスの種類)」は決して、4分の1にはならない、からだ。
つまり、すべての職種を、特別区それぞれで、これまで同様に揃えようと思えば、人員を増やさなければならない。しかし、もともと「都構想」は、整理統合による効率化が目的なので、人員を増やす気などないから、維新の会が牛耳る大阪府は、特別区の住民がいかに求めようと、新たな人員用の予算はつけない。その結果として、特別区の職員は、一人で複数の仕事を掛け持つ「兼職」状態になる。当然、そこでは「専門性」が失われ、効率は低下し、あれもこれもはできないので、結果として、市民サービスが低下する、ということになるのである。
さて、維新の会の支持者たちは、本册に書かれていることを、きっと「否定」するだろう。しかし「反論」はしないはずだ。
なぜなら、ここに書かれていることは、「特別区設置協定書」を検証した上での、事実に即した批判だからで、実際には「都構想」の細かい内容など理解してはいない、維新の会支持者の「都構想」推進派には、反論などできる道理がないからである。
だから、大阪市民の方は、「都構想」のメリットばかりを強調している「維新の会の説明」をそのまま信用する(鵜呑みにする)のか、それとも「本册で紹介された問題点」を自身で確認した上で、どちらに説得力があると判断するのか、そのどちらかを選ぶしかない。
当然、肯定否定双方の意見を知った上で判断するのが「賢明」だというのは、論を待たないだろう。
だが、それでも「おいしい話」に、思わず飛びついてしまう人が少なくない、という現実もある。
しかし、そういう人が、どういう犯罪被害(例えば、投資詐欺)に遭っているかを少し考えれば、「都構想のデメリット」を知らないまま、賛成票を投じるなどという愚挙にはおよべないのではないだろうか。まさに「後悔先に立たず」なのだから。
初出:2020年7月24日「Amazonレビュー」
(2021年10月15日、管理者により削除)
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https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/131723