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私の詩集1

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#眠れない夜に

〔詩〕夢を見る

〔詩〕夢を見る

夢を見るのは
現実から逃れるため
越えられないこの塀の向こうには
美しい風景が広がるはずだと
うずくまる自分に言い聞かせて

勝つとか負けるとか
そんな単純な話ではなくて
好きとか嫌いとか
そんな本能的なことでもなくて

ただそびえる灰色の塀を
見ない振りができなくなっただけ
この重く冷たい無機質な塀を
愛することなど出来はしないのに

だからまた目を閉じる
美しい風景
美しい風
美しい私を
いつ

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〔詩〕だいじょうぶ

〔詩〕だいじょうぶ

大丈夫だよ
涙が止められなくても
私はあなたを責めたりしない

その涙で何かを得ようなんて
小賢しい計算などあなたには無い
心のひび割れから零れ落ちる
痛みの結晶なんだよね

良いんだよ
大人だって
どうしようもない時はある

一人が恥ずかしいなら
私も一緒に泣く
二人で泣いて泣いて
瞼を腫らして
お互いの酷い顔を見て笑おう

大丈夫だよ
私はちっとも強くないけど
あなたの涙ぐらいは受けとめられる

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〔詩〕赤い海

〔詩〕赤い海

切なさとは
心を切りつける何か
時には剃刀
時にはナイフで
鎌鼬のように襲いかかる

せっかく大人の顔で
懐かしそうに夢を語っていたのに
諦めた不甲斐なさと
届かなかった悔しさは
おくびにも出さないで

すみません
滲んだ血をそっと拭うような
優しい言葉はありますか
逃げ込んだ先は
更に切ない言葉の海で
私は溺れるしかなくて

力尽きて漂う夜
数え切れない傷口から流れ出すのは
閉じ込められ
腐敗し

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〔詩〕隠し味

〔詩〕隠し味

痛みは生きている証だとしても
そんな証は欲しくない

悲しみが人生を彩ると言われても
余計な模様など邪魔なだけ

欲しい物だけを選んで
生きていけたなら
もっと幸せなのに

もっと幸せなはず

本当に?

降りかかる痛みも悲しみも
決して選んだわけじゃない
それでも
異物のままにするのはやめて
覚悟を決めて受け止めれば

私の確かな一部となって
隠し味のように
少し私を面白くする

かも知れない

〔詩〕花

〔詩〕花

花は振り返らない

花弁の少し歪んだ付き方も
褪せてしまった色も恥じたりしない
咲いた時期を悔やんだり
蕾を懐かしんだりしない

ただ今日のこの瞬間を
外に向かって開く
隠すことも躊躇うことも
考えもせず
ただ素直に
ただありのままに

誘うべき者を誘い
拒むべき者を拒む
種を未来へ繋ぐため
迷いなどあるはずが無い

花は振り返らない
もしもあの時
もっとこうしていたら
そんな生温い後悔で
無駄に

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〔詩〕きっと

〔詩〕きっと

夕焼けは空の約束
きっと明日は晴れると

今日の1日が
どんなにしんどくても
どんなに悲しくても
きっと明日は晴れる
だから大丈夫だと

人生はそんなに単純じゃない
でも
信じたい時もある

きっと明日は晴れる
それっぽっちの約束を
御守りのように胸に抱いた
何度も何度も
暮れてゆく空を見上げて

きっと明日は晴れる
今日よりも
昨日よりも
きっと美しい青空が広がる
だから

私も空に約束する

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〔詩〕秋物語

〔詩〕秋物語

ごめんね、って
言いたかったのか
言って欲しかったのか
もう分からない

ただ
何かが足りない気がして
息が苦しかった

あの日あなたは優しかった
多分私もそうだった
何で今ごろ
全部終わってしまった後なのにって
出来の悪い小説の
エピローグだけ綺麗な二人

ごめんねが言えなかった二人

風が吹く
金木犀が香る
信号は変わった
聞き分けの良いタイムリミット
あなたも私も
少しだけ嘘つきなまま

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〔詩〕空蝉

〔詩〕空蝉

あの日あたしは壊れてしまった
そんなこと
誰に言われなくても分かっている

壊れたあたしは
自分の欠片を拾い集め
それっぽく見えるところに
それっぽく飾って
壊れていないあたしを演じた

修羅場も悲劇も
笑って話せばおとぎ話
そんな風に見えないって言われるたび
勝ったと思っていたけど

壊れる前のあたしは
どんなあたしだったのだろう

それっぽく見せれば見せるほど
元のあたしから遠くなる気がして

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〔詩〕断罪

〔詩〕断罪

今朝の月は他人の顔
そっぽを向いて
取り付く島もない

昨夜の吐息も肌の湿度も
諦めるための儀式だった
ただ淡いだけの秘め事は
朝になれば
夢のように消えるはずだったのに

塞がりかけた夢の跡に
白い月は爪を立てる
そんな都合のいい時効なんて
認めてはやらないと
掻きむしり引きずり出すのは
綺麗事の奥の身勝手な罪

忘れることなど出来ない
狂おしいほどの罪

今朝の月は他人の顔
白々しい平穏を鼻で

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〔詩〕慟哭

〔詩〕慟哭

手遅れの「ごめんね」も
慰めの「ありがとう」もいらない

ワガママだと窘められても
バカだと呆れられても
私だけを好きでいてくれたら
それで良かったのに

それより欲しい物なんて
何ひとつ
無かったのに

〔詩〕焦燥

〔詩〕焦燥

乾いていく心をどうしよう
爽やかな炭酸水
こってり甘い花の蜜
オリーブ抜きのドライマティーニ
何を飲んでも届かない

これは渇きではなく乾き
何も欲してなどいない
いたずらに時を重ね
為す術もなく潤いをなくしているだけ

干涸らびて
ひび割れて
パサパサになっていく私は
あなたの目にどう映るのだろう
それともその目は
もう私を映してはいないのか

乾いていく心をどうしよう
何も求めていないから

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〔詩〕朱い屋根の街

〔詩〕朱い屋根の街

朱い屋根の街を僕は愛した

公園で歌う人々
傍らを駆け抜けていく子ども達
路地裏に干された洗濯物
店先を飾るタロットカード

教会の屋根は天を指し
一心に神の声に耳を澄ます
精緻な彫刻に込められた祈りは
ステンドグラスと共鳴し
薄汚れた欲望を浄化していく

石畳の坂道を行けば
高らかに響く鐘の音
見知らぬ人とすれ違うたび
微笑みと挨拶を交わし合った午後

全てが遠い過去の欠片
だとしても
あの日刻

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〔詩〕焦燥

〔詩〕焦燥

もうすぐ終わる今日に
両手でしがみついて
引き留めたくなる夜

きっと
明日も何も変わらないのに

あれも足りない
これも足りない
足りない物ばかり数えて
この手には何もないと言うぐらいなら

いっそ諦めて
泥のように眠ろう

歴史なんて繰り返さなくていい
一期一会の出逢いももういらない
足りないものはそれじゃない
私の渇きを癒すのは

愁いを帯びた歌謡曲と

遠い異国のレクイエム

〔詩〕青未満

〔詩〕青未満

想い出は紫陽花の青
晴れた空よりも
灰色の雲の下が美しい

空も海も昏い日
瞳は青を求めて彷徨う
そこに灯るのは紫陽花の青
雨に濡れ
ただ凜とした青

移り気と言われても
紫陽花は色を変えない
土壌と種類で定められた青を
律儀に静かに守っている

でも
想い出に変われないままの
胸を刺す痛みは

灰色の空を見上げる
雨粒が髪を濡らす
青い紫陽花の灯る道で
ひとり
名のない色を抱えて佇んでいる

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