朱い屋根の街を僕は愛した
公園で歌う人々
傍らを駆け抜けていく子ども達
路地裏に干された洗濯物
店先を飾るタロットカード
教会の屋根は天を指し
一心に神の声に耳を澄ます
精緻な彫刻に込められた祈りは
ステンドグラスと共鳴し
薄汚れた欲望を浄化していく
石畳の坂道を行けば
高らかに響く鐘の音
見知らぬ人とすれ違うたび
微笑みと挨拶を交わし合った午後
全てが遠い過去の欠片
だとしても
あの日刻まれた記憶が
僕を僕たらしめてきたなら
他に何を望むことがあるだろう
この空も海も
あの石畳の街へと続く
風に吹かれて立つ僕は
体だけ置き去りに
今も
朱い屋根の下を旅している