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終身雇用の限界

日本の労働市場は大きな転換期を迎えています。
かつて日本の経済成長を支えた「終身雇用」という概念が、急速に崩れつつあります。この変化は、単なる一企業の方針変更ではなく、日本経済全体の構造的な変化を反映しています。

昨今、政治経済の論点の一つで「雇用規制の見直し」なども語られていますが、詰まる所は日本社会における「終身雇用の限界」とその変化を示唆しているとも言えます。

まず、この変化の背景を理解する必要があります。
日本経済団体連合会(経団連)の会長は、「経済界は終身雇用なんてもう守れない」と明言しています。
更に、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の豊田会長も、「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べています。
これらの発言は、日本の経済界全体が直面している課題を如実に表しています。

統計データを見ても、この傾向は明らかです。
総務省統計局「労働力調査」の調査によると、非正規雇用労働者の割合は1989年の8.7%から2019年には22.9%まで上昇しています。

この変化は、いくつかの要因によって引き起こされていると考えられています。

1. 高齢社会の進行
定年が60歳から65歳、さらには今後70歳へと延長されつつある中、組織の新陳代謝が滞り、競争力の低下につながる懸念があります。組織内の平均年齢が上がるということは、人件費の増大と近い部分がある為、コストがかさむようになることと同義と言えます。

2. グローバル競争の激化
国際的な競争が激しくなる中、日本企業は柔軟な雇用体制を求められています。世界的な外資企業の多くは、ポジションが無くなるとレイオフを行う事が割と多くありますが、日本の雇用規制下ではそれはなかなか難しいものがあります。

3. 技術革新のスピード
急速な技術の進歩により、長期的な人材育成よりも、即戦力となる人材の確保が重視されるようになっています。世界的にもAI・ブロックチェーン・IoT・ロボット等といった世界的な技術革新が日進月歩で進んでいますが、それは同時に最低限活用出来ない人は時代についていけていないことを意味します。

4. 経済の不確実性
変化の激しい経済環境において、長期的な雇用を維持することが財務的に困難になっています。株価、円高以外にも不確定要素が大きな日本企業においては、超長期的なデフレと不況により人的投資が長く抑えられ、企業は固定費を抑えざるを得ません。人的流動性の低い日本においては、経済の変動に対する企業の適応能力を低下させ、財務リスクを高める要因となりかねません。

これらの変化は、日本の伝統的な雇用システム(いわゆる「終身雇用」「年功序列」「企業別労働組合」という三種の神器と呼ばれる)の根幹を揺るがしています。

しかし、この変化にはポジティブな面もネガティブな面もあります。

▼ポジティブ面
- 個人の能力や成果がより評価される可能性
- キャリアの選択肢の増加
- 企業の競争力向上
- 労働市場の活性化
- 働き方の多様化
- 生涯学習の促進
- グローバルな人材移動の促進
- イノベーションの加速
- 専門性の向上
- 組織の柔軟性向上

▼ネガティブ面
- 雇用の不安定化
- 所得格差の拡大
- 長期的な人材育成の機会の減少
- 社会保障制度への影響
- メンタルヘルスへの影響
- キャリアの断絶リスク
- 労働条件の変化
- 社会的結束力の低下
- 経済的不安定性の増大
- 家族形成への影響
- 地域間格差の拡大

これらの側面は表裏一体な部分を有していると個人的に考えます。

国際比較の観点から見ると、アメリカやヨーロッパの多くの国々では既に流動的な労働市場が一般的です。
例えば、アメリカの労働者の平均勤続年数は約4年と言われており、ヨーロッパの主要国(EU5)も同様と言われております。
これらは日本の約12年と比べて大きく差異があります。

上記の状況を見ると、私見では「雇用規制の見直し」は不可避だと考えます。そして、社会的な雇用不安が生まれると考えています。

このような状況下で、個人はどのように対応すべきでしょうか。
キーワードは「自己投資」と「適応」です。
自身の能力・価値を高め、必要に応じて転職できる柔軟性を持つことが重要になってきます。変化の激しい労働市場において、個人が自身のキャリアを主体的に管理し、継続的に成長していくことが不可欠だと考えています。
重要なのは、この「自己投資」と「適応」という取り組みを一時的なものではなく、継続的な過程として捉える必要があります。労働市場の変化に合わせて、常に自分をアップデートしていく姿勢がこれからの時代を生き抜くための鍵となり得ます。

一方で、社会全体としては、
1. 再教育・リスキリングプログラムの充実
2. セーフティネットの強化(失業保険の拡充など)
3. 多様な働き方を支援する法整備
4. 年金制度の改革
5. 労働市場の流動性向上支援
6. イノベーションの促進と新産業育成
7. 教育システムの改革
8. ワークライフバランスの推進
上記のような対策を検討する必要があります。

これらの対策を総合的に実施することで、終身雇用制度の崩壊がもたらす社会的課題に対応し、個人と企業、そして社会全体が新しい雇用環境に適応していくための基盤を整えることができると考えます。
重要なのは、これらの施策を単独で実施するのではなく、相互に連携させながら、長期的な視点で継続的に推進していくことです。また、定期的に効果を検証し、社会の変化に応じて柔軟に修正していく姿勢も必要となります。​​​​​​​​​​​​​​​​

結論として、日本の労働市場は大きな転換期を迎えています。
この変化に適応しつつ、社会の安定と個人の成長をいかに両立させるかが、今後の日本経済の発展のカギとなるのではないでしょうか。

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