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じつわこれじつわ −140字の「実話」小説集−

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これまでに公開してきた140字小説の中で、ナゾリの実体験に基づくシリーズをまとめてみました。事実は小説よりも奇なり。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
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記事一覧

140字小説【実話︰はなれて、くれない、そいつ】

140字小説【実話︰はなれて、くれない、そいつ】

 指先についた鼻クソを捨てようと、ゴミ箱に向かってピンッと弾き飛ばした。

 ……はずなのに。そいつは指先から離れず、再度弾き飛ばすことに。

 それでもそいつは離れないどころか、その後も弾く度に指先で寝返りを打ち続け――

「クソがっ!」

 ――と言っても相手は本当にクソだから虚しいところ。

140字小説【実話︰あれは伏線だったのか】

140字小説【実話︰あれは伏線だったのか】

 小学生の頃、国語の教科書を用いた《音読》という宿題があった。

 なぜ黙読ではダメなのか? 誰に読み聞かせるというのか? そもそもみんな真面目に取り組んでなどいるのか?

 そんな不満を抱いていた自分が、約十年後に声優の勉強をしているのだから、何が将来の役に立つか分からないものである。

140字小説【実話︰思い出に蓋はできない】

140字小説【実話︰思い出に蓋はできない】

 娯楽が限られた小学校において、ときに牛乳瓶の蓋は立派な娯楽へと昇華する。
 当時子どもだった私も例に漏れず日々いろんなデザインの蓋を求め、そしてついにお気に入りと呼べる一枚を手に入れた。
 しかし同級生には蓋に大きく印字された文字ばかり注目され、私のお気に入りは《殺菌》と呼ばれた。

140字小説【実話︰思い出の給食① 〜さわらの西京焼き〜】

140字小説【実話︰思い出の給食① 〜さわらの西京焼き〜】

 小学生の頃、給食に《さわらのさいきょうやき(鰆の西京焼き)》が出たことがある。

 それを当時の私は《最大火力で最強に焼き上げた魚》だと思っていた。

 教育の場なんだから、献立表くらい漢字にルビを振ればいいのに……と思ったのはさておき。とりあえず美味しかったのはハッキリと覚えている。

140字小説【実話︰思い出の給食② 〜ちらし寿司〜】

140字小説【実話︰思い出の給食② 〜ちらし寿司〜】

 ちなみに《鰆(さわら)の西京焼き》の他には、ちらし寿司の具の一つとして《きんしたまご(錦糸卵)》というものがあった。

 やはりひらがなメインの献立表であったため、当時小学生の私は『使用を禁止された卵だ』と、またしても勘違いしてしまった。

 もちろん無事だったし、普通に美味しかった。

140字小説【実話:イカ省略】

140字小説【実話:イカ省略】

 子どもの頃、イカの握りで死にかけたことがあった。

 ここでイメージしてほしい。筋を噛み切れぬまま真っ二つになりかけたイカを。

 舌の上に残るイカ、先を急ごうとするイカ、それらを繋ぎ止める一筋の糸。そして押し寄せる吐き気の波……

 ……果たして無事に飲み込めたのか、その後の記憶がない。

140字小説【実話︰立ちはだかるネジ】

140字小説【実話︰立ちはだかるネジ】

 子どもの頃、親に買ってもらった玩具を組み立てる際に、とある大きな壁が立ちはだかった。

 それはたった一本の《ネジ》の存在だ。

 子どもゆえ、ドライバーなどの工具は危険だからという理由で触らせてもらえない。だから親にお願いするしかないのに……

「今は忙しいから、あとでね」

 ……詰んだ。

140字小説【実話︰戦闘不能“風”】

140字小説【実話︰戦闘不能“風”】

 プラモデルのような組み立てを要する玩具には、戦いで傷ついた雰囲気を醸し出す、いわゆる《壊しの美学》というものがある。
 その美学に魅せられた子どもの頃の私は、ハサミを手に早速、自分の玩具に傷を入れてみたが……

 ……結果、戦闘不能“風”ではなく、本当にただの戦闘不能にしてしまった。

140字小説【実話:ばり悲しい体験】

140字小説【実話:ばり悲しい体験】

 あれは私が小学校高学年の頃、確か国語の授業中のときのこと。
 誰が発端でそういう話の流れになったのか、先生も交えて、クラスのみんなが幽霊ネタで盛り上がったことがあった。
 そこで、ふいに先生がみんなに質問した。「金縛りに遭ったことある人、いる?」と。

 ……私以外、全員が手を挙げた。

140字小説【実話︰鎮護国家】

140字小説【実話︰鎮護国家】

 私が中学生の頃、歴史の授業で《鎮護国家》について教えてくれた先生。
 その先生が乱雑な字で黒板に書き殴ると、ご丁寧にルビを振り、やがてそれらを黒板消しで消す際、所作が雑すぎてルビの「゛」と「こっか」のみが器用に消され、黒板のド真ん中に残ったのは……

 ……先生、あれはわざとですか?

140字小説【実話︰輪ゴム天使】

140字小説【実話︰輪ゴム天使】

 中学生の頃、ある日の授業中にふと黒板の方を見やると……

 おじさん先生のちょうどハゲてる後頭部に、誰かが飛ばしたらしき輪ゴムが乗っていた!

 気づいていなかったのか、その後も輪ゴムが自らズリ落ちるまで、淡々と授業を続けた先生。そんな彼の後ろ姿は、まさに《天使》と呼ぶに相応しかった。

140字小説【実話︰興味ないです】

140字小説【実話︰興味ないです】

 中学生の頃に受けた実用英語技能検定(英検)。その準二級・面接試験での最終問題の意味が分からず、私はとっさに『ノー』と答え、さらに英語で『それについて興味ないです』と続けた。

 落ちたかと思った。でも結果は一発合格だった。

 ちなみに筆記試験の方は不勉強すぎて、五度目の正直で通った。

140字小説【実話︰魔法の弁当箱】

140字小説【実話︰魔法の弁当箱】

 明日の昼食用に取り置きしていた市販のソーセージパンが、翌朝になって消えていた。
 すると代わりに母が弁当を作って持たせてくれたのだが、いざ昼休みになって弁当箱を開けてみると、中には昨日見たソーセージパンのソーセージ“のみ”が、さもメイン級のオカズのごとく入っていた。

 ……パンは?

140字小説【実話︰こっち】

140字小説【実話︰こっち】

 あれは学生の頃、文化祭で友人と共に入ったお化け屋敷でのこと。あまりに暗くて出口が見えず途方に暮れていたら、やがて「こっち……こっち……」と、微かに声がした。

 本来なら耳を傾けてはいけない声だったかもしれない。それでも藁にもすがる思いで導かれてみたら……

 ……無事に外へ出られた。