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【2024年版】なぞりのつぼ −140字の小説集−

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読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの140字小説特集! 2024年も笑い、足りてる? ※無断転載および転載は原則禁止です。
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140字小説【温故知新 〜古の書物を求めて〜】

140字小説【温故知新 〜古の書物を求めて〜】

「あのさぁ、アンタのベッドの下にこんなのあったんだけど」
「ふざけんな姉貴! 勝手に人の部屋入るなよ!」
「辞書借りようと思ったの! つーか、今どきスマホやパソコンで見れるのにエロ本とか、レアだね。人見知りのくせに、人の尻は見るんだ」
「ネットで調べりゃいいのに辞書借りる奴もレアだろ」

140字小説【大人は基礎を忘れがち】

140字小説【大人は基礎を忘れがち】

 女が手渡した一本の缶コーヒー。それを男が口にした次の瞬間、喉を手で抑えながら苦しみ始め、やがて――

 ――というサスペンスドラマのワンシーンを家で見ていたら、隣で玩具に夢中だったはずの我が子が一言、

「知らない人からジュース貰っちゃいけないのにね」

 ……マジでそれに尽きると思った。

140字小説【嫁の読めない力】

140字小説【嫁の読めない力】

 俺は腕相撲で一度も嫁に負けたことがない。
 だがなぜか買い物のときだけ、嫁が秘められた力を発揮することがある。

「お菓子買いたい」
「ダイエットするんだろ? だったら買わな――くっ!? コイツ、どこにそんな力がっ……!?」

 ……結局俺が根負けするまで、嫁がそれを手放すことはなかった。

140字小説【いきな詰め合わせ】

140字小説【いきな詰め合わせ】

「母ちゃん! 父ちゃんは!?」
「遅かったね。父ちゃんなら今朝、息を引き取ったよ」
「そんな……急すぎるだろ……」
「な〜んてね、ただのぎっくり腰よ。それより、これ」
「ふざけんな! 大体何だよ、この袋……ウォエッ!?」
「父ちゃんの吐息の詰め合わせだとさ。ほら、あの人イタズラ好きだから」

140字小説【アナタは大切なものを壊しました】

140字小説【アナタは大切なものを壊しました】

「アナタが家に来てから、もう全部がメチャクチャ……何もかも壊れてしまったわ」
「ここからまた作り直しましょうよ」
「そんな簡単に言わないで! この家には、家族で暮らした思い出がたくさん詰まってたのよ!? ……返してよ。ねぇ、返してよぉ!!」
「すみません、リフォームが俺らの仕事なんで」

140字小説【リベンジ・メニュー】

140字小説【リベンジ・メニュー】

「これぐらい一人で食べれるよ!」
「本当に食べれるの〜? 無理しなくていいんだよ?」
「食べれるからっ!」

 そう言って、親の前で少しでも大人ぶろうと背伸びしていた子どもの頃の自分。
 あれから胃も体も大きくなった今、例のお店で、あの頃は食べきれなかった料理を食べています。一人ぼっちで。

140字小説【高くて広い夢】

140字小説【高くて広い夢】

『母さんの分はいいから』

 それが母の口癖だった。

 いつかそんなこと言わなくてもいいように、俺は必死に努力し、それから大人になって、ようやく母にタワマンの一室をプレゼントできた。

 本当は母だって、心の底ではこういう生活を望んでいたはずだ。

 だから俺に《高広》って名前を付けたんだろ?

140字小説【伸び縮みする背中】

140字小説【伸び縮みする背中】

 私の記憶の中の父はいつも、汚れた作業着を着ていた。それが私と母にとっての自慢だった。

 だけどいつからか、父が背広を着て出かけるようになった。休みの日でさえも。

 あるとき、父が母に珍しく怒鳴られたことがあった。

 その翌日、いつもの作業着姿で仕事に向かう父の背中は、肩が狭く見えた。

140字小説【睡眠同調】

140字小説【睡眠同調】

 休日の昼下り、イヤホンつけながらお昼寝中の嫁。
 一体何を聴いているのか気になり、ついスマホ画面を覗いてみると……まさかのゴリゴリに激しめなロック!?

 あとで本人に確認してみると、たまたまアルバムに収録されていただけとのことらしいが……寝ながらヘドバンしていたことは黙っておこう。

140字小説【習い事ガチャ】

140字小説【習い事ガチャ】

「ピアノ、ダンス、バレエ、スイミング、プログラミング、そろばん、英会話、書道、柔道、剣道、空手、野球、サッカー、フットサル、バスケ、テニス、卓球、モルック……好きなの選び放題よ。さぁ、習い事するならどれがいい?」
「あの……お母様、ちなみに『やらない』という選択肢は……?」
「ない」

140字小説【酒忘術】

140字小説【酒忘術】

 酒の味を覚え始めた頃からずっと、何杯呑んでも酔わないことが自慢だった。

 だけど、お前が俺を置いて先に逝っちまったあの日だけは、酔えない自分を憎んだ。

 今になって思う。どうして俺は《酔っ払う》以外に、嫌なことを忘れる術を知らずに生きてきたのか……知ろうともしてこなかったのかって。

140字小説【せめて夢の中だけでも】

140字小説【せめて夢の中だけでも】

 妻はおしとやかで、日頃から人前では俺のことを立ててくれつつ、俺が仕事でいないときは、しっかり子どもの面倒を見てくれる。いわば良妻賢母ってヤツだ。
 しかし毎晩、夫婦同じベッドで寝るときだけ、なぜか一方的に尻に敷いてくる。
 単に寝相が悪いだけか? それともお前、夢の中で俺のこと……

140字小説【その亀裂が治るまでは】

140字小説【その亀裂が治るまでは】

 夫婦ともに同じベッドで寝ていると、《オナラ》という弊害がどうしても生じてしまう。
 生理現象なので仕方ない……とはいえ、起き上がりざまに私の顔面に浴びせてきたときは、さすがに『お前の肛門を引き裂いてやろうか』と思った。

 ……旦那の切れ痔に免じて、とりあえず勘弁しといてやるけども。

140字小説【消費するぜいっ!】

140字小説【消費するぜいっ!】

「あの〜、折り入ってご相談が……」
「お小遣いアップなら無理と言ったでしょ」
「そこを何とか! 最近は値上げ続きで昼飯も厳しいし、仕事の付き合いとかもあるし……ほんのちょっとでいいんです! 5%……いや、8%! う〜ん、10%!」
「何で日本の消費税みたいにジリジリ釣り上げてくんの?」