マガジンのカバー画像

なぞりのつぼ −140字の小説集−

300
読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの息抜き的140字小説を多数収録! ※全編フィクションです。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

140字小説【ネギトロのネギ抜き】

140字小説【ネギトロのネギ抜き】

「最近の回転寿司はネギトロの《ネギ抜き》が選べるんだね。でも『ネギトロのネギ抜き』って、ただのトロじゃない?」
「ネギトロの由来は確か、骨の隙間にある身をこそぎ取ることを『ねぎ取る』と呼ぶからだったような」
「へぇ〜物知り〜。ところで余った私のシャリ要る?」
「ネギもトロも抜きやんけ」

140字小説【結果、残した】

140字小説【結果、残した】

「超大盛りカツ丼、三十分以内に食べきったらお代無料に、さらに賞金一万円……この日のために昨日から飯は抜いてきた。今の俺なら絶対に食い切れる!」
「お客さん、本気で挑む気かい?」
「まぁ見てなって。ちゃんと結果残してみせるから!」

 それから三十分後……

「ギ、ギブ……」
「結果、残したな」

140字小説【雰囲気マシマシ飯】

140字小説【雰囲気マシマシ飯】

「今日のお夕食はどれにする?」

 そう言って母から出されたのはお茶碗一杯分の米と、それぞれ和風・洋風・中華風と書かれた三枚のCDだった。

「じゃあ……中華風で」

 とリクエストすると、まもなく中華レストラン風のBGMが流れ始め、おかずとしてラー油が出された。

「お味はどう?」
「世知辛い」

140字小説【気の迷い】

140字小説【気の迷い】

 すみません、私はどこへ行けば――

「ここら一帯は俺たち《窒素》の縄張りだ。他所へ行きな」
「ここは神聖な《酸素》の領域です。部外者は即刻立ち去られよ」
「ちょっと! この辺は《アルゴン》が見れる特等席なんだから! アンタは隅っこでも行きなさいよ!」

 ――《二酸化炭素》も肩身狭いなぁ。

140字小説【努力に対する対価】

140字小説【努力に対する対価】

「お願いです! 出場させてください!」
「ダメだ」
「何でですか!? 今日の運動会、絶対負けたくない相手がいるんです! そのために、毎日血の滲む努力をしてきたんですよ! だから――」
「言いたいことは分かるし、君の努力も認める。けど、さすがに血まみれの子を出場させるわけにはいかないよ」

140字小説【a.k.a社長】

140字小説【a.k.a社長】

 話題の新人ラッパーが現れたというから、友人に誘われクラブに来てみたら。ステージ上に現れたのはまさかの、つい最近ウチの会社を倒産させた張本人だった。
 社会への不平不満を流暢に吐き散らかす新人ラッパー。MCネームの《a.k.a社長》って、A(赤字)K(ケイ)A(エー)じゃねぇかよ。

140字小説【ああ無償】

140字小説【ああ無償】

 俺はかつて、空腹に耐えかねて無銭飲食を働いてしまったことがある。
 でもそのときのラーメン屋の大将は俺を警察に突き出さないばかりか、『食った分は働いて返せ』と、仕事も住む所も与えてくれた。

 あれから十年。俺は今も住み込みで、トッピングだけをエサに働かさ――働かせていただいている。

140字小説【箱に収まりきらない愛】

140字小説【箱に収まりきらない愛】

「はいアナタ、お弁当」
「あれ、弁当箱変えた?」
「だってアナタ『重箱じゃ重い』って言ってたから、もう少し軽めなお弁当箱に変えてみたの。その分中身は減っちゃうけど、だからってコンビニとか、あと他の女の子のお弁当に浮気しちゃダメよ? ちゃんと私のお弁当だけ食べてね♪」
「まだ重いな……」

140字小説【ワッツ、ハップン?】

140字小説【ワッツ、ハップン?】

「エクスキューズミー。ワッツタイムイズイットナウ?」
「えっ? ああ〜、『ワッツタイム』やから、時間か。え〜っと、10時の……8分!」
「ハップン? ワッツ、『ハップン』?」
「わ、『ワッツハップン』は『何が起きた?』やから、え〜っと……何も起きてません!」
「モウ、エエワ」
「何やねん」

140字小説【一足と書いて《つがい》と読む】

140字小説【一足と書いて《つがい》と読む】

 相方が行方不明になってしまった靴下に、黒のサインペンで「必ずお前を見つけ出す」と書いた。
 すると後日、洗濯機の裏から相方は無事に発見されたのだが。
 そこには嫁のイタズラか、赤のサインペンで「アナタならきっと見つけてくれると思った」というメッセージが……

 ……考えること一緒かっ。

140字小説【間食カリカリ】

140字小説【間食カリカリ】

「アナタねぇ!」
「はいはい、分かったからとりあえず落ち着いて。ほら、リラ〜ックス」
「いいや、もう我慢の限界! 大体アナタは――カリカリ……うまっ」
「俺が何だよ?」
「だから――カリカリ……美味しっ」
「まぁ、そうカリカリすんなよ」
「いちいち合間にお菓子を『あ〜ん』してこないでよっ!」

140字小説【腑に落ちない麺】

140字小説【腑に落ちない麺】

「腑に落ちないなぁ……」
「カップ麺食べながら何言ってんの? っていうか、その焼きそば多すぎない?」
「お店でビッグサイズ売ってたから、これくらいなら食べれると思ったんだけどさ。乾麺は水分吸って膨張するから、食道でつっかえる感覚があるっていうか……」
「だから(胃の)腑に落ちないのね」

140字小説【生まれる前の記憶】

140字小説【生まれる前の記憶】

「お母さんって昔、ヤンキーだったの?」
「えっ!? ……何で?」
「生まれる前の記憶っていうのかな? お母さんのお腹の中の風景とか、聞こえてきた声とか、今でも何となく覚えてるんだよね」
「だとしても何で私が元ヤンだって……」
「だってお母さん、出産のときに『表出ろや!』って叫んでたから」

140字小説【アトデの化石】

140字小説【アトデの化石】

「洗濯物たたみ終わったの?」
「あとでやるよ」
「それぐらいちゃっちゃとやりなさいよ。あと、部屋もいい加減片付けなさいな」
「だから、あとでやるって」
「またそう言って『あとであとで詐欺』して……あとさぁ、その手の甲に付けたままの鼻クソ、いつ捨てるの?」
「ああ、忘れてた」
「いつからよ?」