マガジンのカバー画像

なぞりのつぼ −140字の小説集−

300
読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの息抜き的140字小説を多数収録! ※全編フィクションです。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

140字小説【塁は左回り、道は遠回り】

140字小説【塁は左回り、道は遠回り】

 植物学の研究に近道はない。たとえ遠回りでも手は抜かず、気になったことは徹底的に調べ尽くす。

 調べるのは植物のみならず。植物の成長に必要な土を採取し、調べることもある。

 これも全ては研究のため……だから今日も私はバットを持って素振りする。いつか必ず、甲子園の土を持って帰るために。

140字小説【イカ・オア・ミマン】

140字小説【イカ・オア・ミマン】

「ねぇ、この前一緒にいた子って、彼女でしょ? 何で私に紹介しないの?」
「そしたらまた品定めするだろ!」
「当たり前でしょ! それでもしロクでもない女だったらどうするの!? いい? この世の女は《お姉ちゃん以下》か《お姉ちゃん未満》だけだから!」
「《お姉ちゃん以上》はいないんだ……」

140字小説【合わせてみたとて】

140字小説【合わせてみたとて】

「この俳優、芸人の●●と▲▲を足したような顔してない?」
「わりとそうでもない顔同士を融合させたね。まるで、冷蔵庫の余り物同士を合わせたら美味しくなると思ったら、結局そんなに美味しくならなかった、みたいな。もしこれが商品開発だったら間違いなく却下されそうな……」
「もうやめたげて!」

140字小説【子どもに必要な遊びとは?】

140字小説【子どもに必要な遊びとは?】

「そろそろウチの子にも何かやらせてあげたいんだけど、何かないかしら?」
「そうねぇ、私の子はよく積み木やってるかな」
「確かにそれなら創造力が鍛えられそうね。でもそういうのって、すぐに飽きたりしない?」
「それが全然。むしろ今じゃ重機使うくらいだから」
「いいじゃない、ウチの無職よりは」

140字小説【にくきストーカー】

140字小説【にくきストーカー】

「やめて! それ以上近づかないで!」
「そんな!? 僕は君のためを思って……」
「私は望んでない! とにかく迷惑なの!」
「何だよ、人をストーカーみたいに……」
「ストーカーでしょ! さっきからそのトングで私の肉をいやらしく狙って……いい? この焼き網のここから先は、私の焼き肉だから!」

140字小説【同じ太陽の下、そして皿の上】

140字小説【同じ太陽の下、そして皿の上】

「おいパイナップル、ここがどこだかわかってんのか?」
「酢豚の皿だろ? 俺だって好きでこんな所にいるんじゃねぇよ」
「何を偉そうに、具材になってもぬくぬくしやがって! これだから温室育ちは……」
「うるせぇ豚野郎! 広い牧場でのびのび育った奴に言われたくねぇな!」
「生前の話はするな!」

140字小説【布切れ一枚の幸せ】

140字小説【布切れ一枚の幸せ】

「そのハンカチ、前に私が誕生日プレゼントであげたヤツだよね。洗濯に出してるところ見たことないんだけど」
「お手拭きに使ってないからね」
「何でよ、使ってくれなきゃ意味ないじゃん」
「ちゃんと使ってるよ。心がモヤモヤするときにこうやって握ったりすると、何だか落ち着くから」
「……ならいい」

140字小説【運んで、畳んで、そして縛られて】

140字小説【運んで、畳んで、そして縛られて】

「諦めろ。主が畳んだ時点で、俺たちはもう運び屋じゃない」
「断る! 何かに縛られる人生なんて、まっぴらゴメンだ!」
「じゃあこのままゴミとして捨てられた挙げ句、燃やされて人生終わるつもりか?」
「それは……」
「お前もダンボールならきっとわかるはずだ。全身を紐に縛られる快感ってヤツがな」

140字小説【さっきからアナタは】

140字小説【さっきからアナタは】

 せっかくのお家デートなのに彼ときたら、私の隣でずっと上の空。まぁ、そんな彼の物憂げな横顔も好きだけど。
 ねぇ、アナタは今、何を考えているの? さっきから何を見上げているの……?

「どうしたの?」
「虫が一匹飛んでるんだよ。さっさと始末しないと」

 ……殺気から見上げていただけだった。

140字小説【人の数だけ壁はある】

140字小説【人の数だけ壁はある】

 皆さんに質問です。アナタにとって《壁》とは?

「私は……『乗り越えるもの』ですかね」
「俺だったら『ブチ壊す』! だって気持ちいいもん」
「僕なら『もたれる』かな。そこにあると休みたくなる」
「拙者は布さえあれば『隠れる』でござる」
「オレ様なら迷わず『ドンする』ね。女さえいればだけど」

140字小説【家業と作業】

140字小説【家業と作業】

「お願いです、私にカ行を継がせてください!」
「それならもう間に合ってる。カ行は末っコに受け継がせるからな」
「そんな!? 私の何が駄目だと言うのですか!? 今までずっと隣でお仕えしてきたのは私じゃないですか!!」
「とにかく無理なものは無理なんだ! わかったら、とっととサ行に戻れ!」

140字小説【ヲタ苦】

140字小説【ヲタ苦】

「今月も厳しいなぁ……」
「とか言って、どうせまたフィギュアとか推しのグッズとか買う余裕あるくせに」
「何言ってんの! その欲しい物のために時には残業だってするし、それでもお金が足りなければ、生活費だってギリギリまで切り詰めるし……余裕なんかいつだってないよ!」
「ヲタクも大変だねぇ」

140字小説【湯冷めの時】

140字小説【湯冷めの時】

「風呂に肩まで浸かり、充分に身を清めた。その後も灼熱地獄(サウナ)に耐え、滝行(シャワー)を乗り越え、向かい風(扇風機)にも一糸まとわぬ姿のまま、己が身一つでただひたすらに煽られ続け……これだけの修行に耐えてみせたのだ、我が体も目覚めの時は近い……!!」
「湯冷めするわ、バカタレ」

140字小説【抜き差しならぬ】

140字小説【抜き差しならぬ】

「すまんが、ちょっとそこを譲ってくれるかい?」
「何だと? 扇風機のくせに生意気な!」
「仕方ないだろ。エアコンが壊れて、代わりに僕を必要としてくれてるんだから」
「俺はテレビだぞ! 年がら年中必要とされてるんだ!」
「今は見られてないからいいだろ! それより早くコンセント空けてくれ!」