奇妙なもの
奇妙なものを拾った。
なぜそれを拾ったのかはわからない。けれど、私はそのまま通り過ぎることもできず、かといって喜んでそれを拾おうなんても思わず、ただ、拾わざるを得なかった。
それが奇妙なもの、と思わず口に出てしまったけれど、それが奇妙かどうかも、正直わからなかった。人によっては何の変哲もないものと思うかもしれないし、もしかしたら宝物のように思うかもしれない。私にとっては、なぜだろう、奇妙なもの、というのが一番しっくりきた。
それを拾ったからといって、どうするか、までは考えつかなかった。そもそも、このまま家に持って帰っていいものなのかすら疑わしい。
わかっていることは、今、それは、私の持ちもののひとつになった、ということだけだ。
さて、どうしたものか。
私はひとまず、歩きながら考えることにする。
いつもの散歩道から外れ、行こうと思っていた買いものを犠牲にし、いつもと違うことをする。
奇妙なものなのだ、いつもと違うことをするほうがきっと何か考えつく。理由なんてそんな程度なものだ。
せっかくなら、と思って、髪留めを外し、髪を下ろす。ちゃんと腕を振って歩いてみる。その他…………
どれだけの時間、歩き続けているだろうか。
何を思わないまでも、幾分晴れやかな気持ちが私の胸に湧き出ているのを感じてはいたものの、体のほうには疲れも見えてきた。
余計なことを考えたり、いつもと違うことをするのは間違いなく苛立ちの種となり、発芽したそれは当然のことながら心を蝕んだ。
けれど、もしかしたら、いつも通り、という縄に縛られて、文字通りがんじがらめの奴隷に成り下がってもいたのかもしれない。
疲れはたしかに感じていた。普段しないことは私の調子を乱し、何か脅かされているような気さえする。なのに、胸中は晴れやかな、涼しげな風が通るような、そんな風景に変わっているのだ。
なんて、矛盾したことであろう。
あぁ、本当、そんな程度のものなのかもしれない。整合性なんてまやかしで、この世は矛盾に満ちている。
私は思わず苦笑してしまい、はっとして、この奇妙なものを思い出す。はてさて、どうするか。
そのとき ぴん 閃いたものがあった。
かの檸檬のように、どこかに、置き去りにしてみるのはどうであろうか。
ーー私はそのとき、きっとこの奇妙なものを拾った前の持ち主も、同じようにあそこに置き去りにして、それを私が拾ったのではないか、という確信めいた直感が働いた。
それなら、今度は、私がこれを置き去りにして、次の誰かが拾い上げ、何がしか考えたのちにまたどこかへ置き去りにするであろう、というその先まで想像してしまった。
それとも、他に、どうするであろう。
笑いがこみ上げてくる。あぁ、きっと、こんな気持ちだったのかもしれない。
私は 感 の働いた場所を見つけると、そこにこの、奇妙なもの、を置き去りにした。
さながら、爆弾を置いた気分だ。
私は何食わぬ顔でそのままこの場所を離れ、もう振り返ることもなく、家路に向かって歩き出した。