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【展覧会レポ】東京国立博物館「Hello Kitty展ーわたしが変わるとキティも変わるー」
【約4,500文字、写真約40枚】
東京国立博物館(以下、トーハク)表慶館で開催されている「Hello Kitty展ーわたしが変わるとキティも変わるー」(以下、キティ展)を鑑賞しました。その感想を書きます。
▶︎ 結論
鑑賞中、ずっと違和感が拭えない展覧会でした。それは主に、1)キティにアート性が低いこと、2)トーハクでキティ展を実施する必然性がないこと、3)キティファンにトーハクの魅力を伝える工夫が不十分だったことによります。キティファンは写真撮影、自撮りに夢中。ファンの笑顔であふれる会場は素晴らしと思ったものの、鑑賞する人によって満足度が大きく変わる展覧会だと思いました。
おすすめ度:★★☆☆☆
会話できる度:★★★★★
混み具合:★★★★★
展覧会名:Hello Kitty展ーわたしが変わるとキティも変わるー
場所:東京国立博物館 表慶館
会期:2024年11月1日(金) ~ 2025年2月24日(月・休)
休館日:月曜日
開館時間:9時30分~17時00分
住所: 東京都台東区上野公園13−9
アクセス:上野駅から徒歩約10分
入場料(一般):1,800円
事前予約:事前予約マスト
展覧所要時間:駆け足で30分
撮影:映像作品以外すべて可能
URL:https://hellokittyexhibition.com/
▶︎ 訪問のきっかけ
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今までの経験上、私はこの手の展覧会に行きません。noteでキティ展の感想を見た際も「やっぱりそういう感じかぁ」と思いました。
しかし、誘いを受けたため行くことにしました。普段は食わず嫌いな分「新しい学びがあるのでは?」と期待もありました。
▶︎ 「Hello Kitty展ーわたしが変わるとキティも変わるー」感想
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ハローキティはデビューから半世紀を迎え今や世界中で知られ、愛されています。世の中を見渡しても稀な存在と言えるでしょう。(略)本展では史上最大量のグッズ展示をはじめ、個性あふれるアーティストとのコラボ作品、オリジナル映像コンテンツなど様々なコーナーで そのユニークさを紐解きます。楽しいフォトスポットも盛りだくさん!
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✔️ 戸惑いを覚えた展示内容
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展示数は多くありません。また、展示内容は、基本的にキティグッズを並べただけ。来場者はみな「可愛い〜😆コレ持ってた〜😆」しか言っていませんでした。展示室を進むにつれて「一体、俺は何を見せられてるんや…」と、私は途中から戸惑いさえ覚えました。
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展示は全部で5章から構成されていました。
プロローグ:キティの初期ぬいぐるみが展示
第1章:過去からのキティグッズがモチーフや色別に展示
第2章:マネキンとともにキティグッズが展示
第3章:キティの変遷をリズミカルなアニメで表現
第4章:コラボグッズを中心に展示
第5章:イラストレーター30名が書き下ろした作品が展示
なお、キティファンの方から見ても、展示内容は物足りなかった意見があったようです。
✔️ トーハクには珍しい来場者
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まず、人が多すぎて驚きました(平日だったにもかかわらず)。展覧会だけでなく、グッズ売り場も大行列でした(それぞれ30〜40分待ち)。
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開催初日から、会場限定グッズの購入・転売を目当てにした来場者でごったがえしたというニュースもありました。
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来場者は、ピューロランドにいるような全身キティの方、ディズニーランドにいるような「the 女子高生」の方も多かったです。普段は絶対にトーハクにいないような方ばかり。当然、来場者の中で女性が95%以上でした。
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✔️ 鑑賞よりも撮影・自撮り
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館内ではさながら撮影大会。異様な雰囲気すら感じました。美術館の展覧会で、自撮りが許されているのは初めてではないでしょうか。キャプションをしっかり読んだり(そもそもキャプションの内容も薄い)、展示をまじまじと鑑賞する人は非常に少数でした。
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✔️ 展覧会の主なメッセージ
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展覧会の副題は「わたしが変わるとキティも変わる」。そのメッセージは展示物からも読み取ることができました。年代を追いながら当時のキティを見渡すと、その時の世相やトレンドをキティが表しているとよく分かります。
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これは、サンリオ側が、お客様のニーズを捉え、キティにうまく反映した結果です。アパレルで言うと、ハイブランドやZARAのようなプロダクトアウト(これがトレンドだから買え!)ではなく、ユニクロのようなマーケットイン(お客様の要望を捉え、お客様が欲しい商品を売る)と言えます。
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キティがかわいいことに加え、「欲しい要素」が付加されているからこそ、50年間もビジネスとして成立できたのだと思います。さながら、ダーウィンが「最も強い者が生き残るのではない、最も賢い者が生き残るのでもない、唯一生き残るのは変化できる者である」と言ったことを、キティはうまく体現していると思いました。
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全体的に、メッセージ性はとても薄いと感じました。その上で、展覧会からの学びや気づきは、1)サンリオのビジネスモデルは面白い、2)男の私にとっても、常にキティは身近にいたと思い出したことでした。
✔️ 過去最高業績を更新するサンリオ
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サンリオは、2024年3月期に売上999億円、営業利益率27.0%と過去最高の業績を更新。2025年3月期予想は、売上1,405億円(YoY+40.6%)、営業利益率は36.4%(+9.4p)と、とんでもない成長を遂げています。売上の成長に加え、利益率水準の高さには目を見張るものがあります。
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サンリオの過去最高業績の結果が、トーハクでの人混みっぷりなのかもしれません。
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サンリオのビジネスモデルは特殊だと感じます。キャラクター市場はレッドオーシャン。テクノロジー企業と違い、一発逆転もありません。1つ1つの「チリツモ」が売上・利益の源泉です。
なお、キティばかりがフィーチャーされていますが、サンリオは戦略的にキティ比率を徐々に下げています。それが、サンリオが過去最高業績を更新している一つの要因です。
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2025年は、マイメロディが50周年、クロミが20周年を迎えます。周年記念をうまく使いながら、魅力あるキャラクターコンテンツを生み出し、キャラクター間の連動を深めれば、サンリオの業績拡大もまだ余地が大きいかもしれません(ディズニーでヒット作が少ないことも影響しているかも)。
そのため、サンリオが成長するためのドライバーは、キャラクターをつくりだすためのクリエイティブな「人的資本」に集約されると思いました。
✔️ モヤモヤポイント①
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話を展覧会に戻します。鑑賞中にずっと頭から離れなかったモヤモヤしたポイントが主に3つありました。1つ目は、
「ここにいるキティたちはアート性が低い」
私は、漫画もアニメもアートであると思います。しかし、ここに展示されている「キティ」はアートなのでしょうか?
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私が思う「アート」の条件は、その作品に「問い」「メッセージ」があるかどうかだと考えています。しかし、ここにいるキティたちから、それらはほぼ感じられませんでした。これはキティに責任があるのではなく、キュレーションの問題でもあると思います。
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キティ展について、私がウダウダ書いていることを客観的に見ると、もしかしたら、私は「美術館でアニメキャラを許さない」人と同類になっているのかもしれません😅
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✔️ モヤモヤポイント②
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モヤモヤしたポイントの2つ目は、
「キティ展をトーハクで行う意味が非常に薄い」
このようなマーケティング色の強い展覧会は、トーハクではなく、イベント会場や、ファッションビル、百貨店などのスペースで実施した方が良いと思いました。
トーハクの表慶館とキティのコラボは、コントラスト抜群で面白かったです。しかし、トーハクでキティ展を実施する必然性を見出せませんでした。
トーハクは「東京国立博物館 2038 ビジョン」として「いにしえから宝物を創ってきた人々の想いを、いまを生きる力にする」を掲げています。しかし、キティ展は、トーハクの動員数を大きく伸ばすアウトカムは生じたものの、上記のビジョンにどこまで調和できていたのか疑問でした。
✔️ モヤモヤポイント③
モヤモヤしたポイントの3つ目は、
「トーハクのファンを増やす取り組みが不十分」
トーハクは、キティ展に来場した「トーハクと距離がある人たち」を、アート全体、もしくはトーハクの企画展やコレクション展へ積極的に誘導しなければいけません。しかし、そういった試みがほぼありませんでした。
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キティと浮世絵とのコラボ作品(見返り美人図、風神雷神図屏風)がありました。しかし、数が少ないことに加え、グラフィックだったことも残念でした。作品自体に意外性はなく、既視感すらありました。
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2月に東京都庭園美術館に行った際、旧朝香宮邸とアーティストの作品の調和が素晴らしかったです。その展覧会の後にキティ展へ訪れたこともあり、トーハクとキティをマッチさせる工夫の欠如には残念な気持ちがしました。
▼ 建物と作品の調和に感銘を受けた東京都庭園美術館
アートではなく「文化」的側面からキティを見ると、トーハクで実施する意味もあったかもしれません。しかし、文化的背景からの考察も、キュレーションからはほぼ感じませんでした。
✔️ 良かったポイント
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来場者はみな、笑顔で溢れていることは素晴らしいと思いました。会場では、サンリオの企業理念「みんななかよく」が体現されていました。サンリオは、社会に貢献していることに加え、世界になくてはならない企業だと実感しました。
なお、第5章のコラボレーターの中に「killdisco」があって、びっくり。私にとって、killdiscoといえば、イラストレーターではなく、DJです。私は、killdiscoの作るREMIXを聞いて、クラブ音楽の面白さに気づいたといっても過言ではありません(同じくPandaBoYにも感謝)。
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✔️ 1年をかけて巡回
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キティ展は多くの会場を巡回する予定です。他の会場でも長蛇の列ができそうです。
2025年3月7日~5月11日:沖縄県立博物館・美術館
2025年6月24日~8月31日:福岡市美術館
2025年9月25日~ 12月7日:京都市京セラ美術館
2025年12月~2026年2月:名古屋のどこか
近年、京セラ美術館は人気コンテンツを連発していますネ(村上隆、蜷川実花、モネ、草間彌生など)。
▶︎ まとめ
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いかがだったでしょうか?全体的に残念な展覧会でした。それは主に、キティにアート性が薄いこと、トーハクで展覧会を実施する意味を感じられなかったことなど、展示を見ながらずっとモヤモヤが拭えない内容だったためです。なお、キティファンにとっては、常に笑顔でを楽しめていたのは良かったと思ました。
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