【展覧会レポ】東京都美術館「デ・キリコ展」
【約4,400文字、写真約30枚】
東京都美術館で「デ・キリコ展」を鑑賞しました。その感想を書きます。
【この投稿で伝えたいこと】
❶世界中から集められたデ・キリコの作品110点をイッキに見ることで、作品や生涯の変遷が分かる、❸楽しい絵が多いことに加え、会場内が凝った造りになっているため、美術館に普段行かない人にもおすすめ、❹値段が2,200円と若干高め。9/14(土)から神戸市立博物館で巡回するそうです。
▶︎訪問のきっかけ
「デ・キリコ」という名前や作品は何となくしか知らなかったため、興味があり訪問しました。「デ・キリコ展」は2024年初めから行きたいと思っていました。
▶︎「デ・キリコ展」感想
キリコの作品は大阪中之島美術館、MoMA、ベルリン国立美術館、トレド美術館、ウフィッツィ美術館など、世界中から集められています。そのためか「デ・キリコ展」の価格は高め(2,200円!)です。そのコスト回収のため、開催期間が長い(4/27~8/29)のかな、と思いました。
前回の反省をふまえて、予約が必要か事前にHPを確認しました。そこで、土日・祝日および8月20日以降は日時指定予約制ということを知り、前日にネットでチケットを購入しました(ふぅ、良かったです)。
展覧会は、大きく5つのセクションから構成されており、その途中に箸休め的なトピックが挟まれる展開になっています。
展示室内の空間演出が良かったです。室内の壁がキリコの好きな色(オレンジ、グレー、青、黄色など)で区切られていることに加え、室内にアーチのような門を設置するなど、効果的にキリコの世界観へ没入できる仕掛けが丁寧に施されていました。
来場者は、若い方も多かったです。みなさん静かに、かしこまって作品を鑑賞していました。楽しい作品が多いため、現代アートを見るように、もっと大らかに鑑賞してもいいのにな、と思いました。
✔️SECTION1:自画像・肖像画
キリコは、生涯で何百枚もの自画像を描いたそうです。静物画の中にまで、自画像が描かれた絵を飾るほどで、相当好きだったのだと思いました。
キリコはルネサンス期の絵画を研究していたため、一般的な自画像に加えて、鎧を着たり、闘牛士の格好を着たりと、現代のコスプレのように自らを着せ替えていました。これには、森村泰昌と同じ匂いを感じました。
✔️SECTION2:形而上絵画
キリコは、1910年頃からシンプルな構成で広場や室内を描きました。さらに、歪んだ遠近法、脈絡のないモティーフの配置、幻想的な雰囲気によって、見る人に違和感、不安、憂愁を与えたり、日常の潜む非日常を表すような絵を描き始めました。それは後に「形而上絵画」と名付けられました。
キリコは、以下のように語ったそうです(意訳)。
私も、いつもの風景が急にいつもと違って見えるような不思議な瞬間があったように思います。キリコの場合は、その感覚を絵に反映させました。
「形而上絵画」は、サルバドール・ダリやルネ・マグリットといったシュルレアリスムの画家などに衝撃を与えました。ところで、私は「形而上絵画」と「シュルレアリスム」の違いが分からなかったため、調べてみました。
シュルレアリスムは、1924年、創始者である詩人アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」から始まりました。キリコが不思議な絵を描き始めたのが1910年以降です。その頃には「シュルレアリスム」というジャンルが存在しなかったため、キリコの絵は「シュルレアリスム」に分類されず、後の時代になって「形而上絵画」と定義されたようです。
1514年から第一次世界大戦が始まると、キリコの絵画は室内画ばかりにいなります。絵の中には、ありふれたビスケットや糸巻きが描かれ、消失点のない不思議な雰囲気が醸し出されています。カラフルでポップな色使いは可愛いさもあり、夢の世界を描いているようにも見えました。
また「神秘的な水浴」シリーズは、シニカルで興味深かったです。このような不思議でクール、どこか世界を蔑んでいるような雰囲気の表現は、欧州独特だと思いました。まるで「ファンタスティック・プラネット」(フランス)のような印象を受けました。おそらく、欧州の人が浮世絵を見た時も「日本独特な表現だなぁ」と、私と同様の印象を受けるのでしょう。
その後「マヌカン」と言われるキャラクターが頻出するようになります。顔のないマヌカンは、何を考えているのか分からないため、見る人に戸惑いと無力感を与えます。初期は腕のないトルソーのような見た目だったものが、後に生々しい腕が生えた「マヌカン」も登場します。
キリコの彫刻作品も展示されていました。キリコ曰く(意訳)、
とのことでした。不思議なマヌカンの絵を、彫刻で上手く立体化していました。奇妙な絵の世界観を、どの角度からもぐるっと見られるのは面白かったです。確かに彫刻が「絵画的」であることが少し理解できました。
展覧会には絵だけではなく、彫刻も展示されることでメリハリがついていたため、見飽きませんでした。また、彫刻エリアは、壁や台が会場内では珍しい白を使うなど、効果的な演出も印象に残りました。
✔️SECTION3:1920年代の展開
章立てのネーミングが「自画像」「形而上絵画」ときて「1920年代の展開」とは、急に捻りがなくなった気がしました😅
キリコから特定のテーマが消え、やりたいことに色々チャレンジする作品が増えたため、章タイトルを一つの言葉で括れなかったのかな?と思いました。ここでは、色んなジャンルの絵を描いてきたキリコが、その経験を踏まえて何か一線を越えた印象を受けました。
1919年以降、伝統的な絵画技法に興味を抱くようになり、古典絵画の様式へと回帰していきます。テンペラ技法のようなマットな感じから、油彩技法の柔らかいタッチに変わります。技法は変わっても、キリコの絵にはギリシャ神殿のようなモチーフが多いことから、生まれたルーツには強い軸をもっていると感じました。
✔️SECTION4:伝統的な絵画での回帰
キリコは、1930年代から古典絵画への関心が再燃します。ルノワール、ドラクロワ、クールベなどから着想を得て、暗い、濃密、滑らか、艶のある絵が増えてきます。
✔️SECTION5:新形而上絵画
キリコは、1960年代から遊び心をもって、今までの作風を組み立て、解体し、再構成しました。まるでそこには、終わりゆく人生の活力とともに「やりたいこと全部やったる!」的な印象を受けました。
キリコは、部屋の中に外の世界を閉じ込めた絵を多く描いています。(私はカメラで撮影する時に思いますが)部屋の中はライティングが難しいため、野外の方が撮影は簡単です。室内の絵を描く上では、光の表現が難しいのでは?と思いました。しかし、そこには「閉じた世界」と「日常」という相反する対比が面白く表現されていました。
キリコの作風(対象、モチーフ、描き方)は、時代や戦争、住む場所によってコロコロ変わるため、作品の年代を確認しながら鑑賞すると面白いです。肖像画を描くのが好き→人が消えて不思議な形而上絵画を描く→人ではないマヌカンを描く→古典的な絵画を描く→原点回帰で新形而上絵画を描く、といった変遷でした(実際はもっと並列的で複雑)。
最終的には、キリコの好きなギリシャ的なモチーフの作品が多かったように見えました。結局、自身のルーツにアイデンティティをもっていたのでしょう(私も関西から関東に来たので気持ちは分かります)。また、キリコの絵を見ていると、キリコが好きなものを、楽しそうにワクワクして描いていた感じが伝わってくるようでした(本当は苦しんで描いていたらゴメン)。
キリコの作品はどれも刺激的で面白い反面、作風が定まらなかった感じもするため、たくさんの作品ををまとめて見ると、少し混乱する(頭が疲れる)ようにも思いました。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?キリコの生涯の変遷や、幅広い作風をイッキに見られて面白かったし、勉強になりました。値段が若干高い(2,200円)ものの、世界中から一堂に集められた作品を見られるのはこの機会しかありません。楽しい絵が多いことに加え、会場内の設えも凝った造りになっているため、美術館にあまり行くことがない人にとってもおすすめの展覧会です!
▶︎今日の美術館飯
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