展覧会レポ:静嘉堂文庫美術館「ハッピー龍イヤー!〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜」
【約4,800文字、写真約40枚】
初めて丸の内にある静嘉堂文庫美術館に行き「ハッピー龍イヤー!〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜」を鑑賞しました。その感想を書きます。
結論から言うと、まるで初詣に行ったような展覧会でした。重要文化財の橋本雅邦《龍虎図屏風》を含め、龍にまつわる作品を数多く見たことで、今年が辰年だと実感できました。新年のお出かけにはピッタリな企画です。また「龍」に関する知識も深まり、勉強になりました(その点が会場内で説明があると、より親切だと思いました)。
▶︎訪問のきっかけ
訪問のきっかけは、1)丸の内に静嘉堂文庫美術館ができたと聞いて以来、気になっていた、2)三が日(1/2)に行ける美術館を探していたら、静嘉堂文庫美術館が営業していたことです。
▶︎アクセス
静嘉堂文庫美術館へは、東京駅から徒歩約5分。皇居近くの「明治生命館」1階にあります。
美術館の場所は以下の通り。最初「MYギャラリー」の方に行ってしまい「あれ?美術館の入り口どこ?」となってしまいました。
住所:東京都千代田区丸の内2丁目1−1
▶︎静嘉堂文庫美術館とは
まず、静嘉堂文庫美術館という名前から謎のオーラを感じました。「東京都美術館」「出光美術館」と聞けば、どういった美術館かざっくり想像できます。しかし「"静嘉堂文庫美術館"って何やねん」というのが第一印象でした。
三菱社長(岩﨑家)が集めた古典籍中心の骨董品(国宝7点、重要文化財84点、20万冊の古典籍、東洋古美術品の約6,500点など)を駿河台の岩﨑邸内の文庫に展示しました。併設した展示館で美術品も展示。展示室はその後、世田谷、丸の内(2022年)に移転しました(→詳細)。
「静嘉堂」の名前の由来は、中国の古典から「(岩﨑家)ご先祖様、安らかにお眠りください」という、身内へのメッセージのようです。
住友系は泉屋博古館をつくりました。泉屋博古館の収集は、中国古代の青銅器が中心。一方で、三菱系の静嘉堂は古典籍が中心と、好み・個性の違いが表れていて興味深いです。お金が余った財閥は、美術品を集めがちですね。
▶︎「ハッピー龍イヤー!〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜」感想
作品数は、計約50点と多くないものの、鑑賞に1時間はかかると思います。
✔️「龍」について
この展覧会に行くまで、私は「龍」について、深く考えたことがなかったです。私にとって、龍とは「強い・怖い・神秘的・格好いい想像上の生き物」くらいの存在でした。
西洋世界では“強さ・権力・悪さ”を象徴する 「ドラゴン」とは違い、東アジアの「龍」は、吉祥の霊獣として、数多くの美術品に取り上げられてます。
西洋で「龍=悪」になった理由は、キリスト教の考えに由来しているためです。蛇は生命力が強く、脱皮を繰り返します。「死と再生」はキリストを連想させます。キリスト以外に、そのような存在は認められないため「蛇(龍)=悪」になったようです(yahoo知恵袋より)。
東洋で「龍=善」になった理由は、蛇(龍)の「死と再生」が神聖なものとして信仰の対象となり続けたためです。龍は、中国の“陰陽五行思想”と結びついた結果、四神(青龍・白虎・朱 雀・玄武)のうち東を司る神にもなったり、十二支の一つ(辰・3月)にもなりました。
このように「龍」自体にフォーカスして、会場内のパネルで「コラム」としてでも言及すると、さらに良かったと思いました。このように、展覧会を通して、視野が広がることは楽しいです。
ちなみに、私にとって「四神」といえば、GAINAX社がつくったアニメ「アベノ橋魔法☆商店街」です(今、見てもものすごく面白い)。
✔️ホワイエ
静嘉堂は、珍しい構造でした。中心に四角い「ホワイエ」があり、その周りに、ギャラリー1〜4が配置されています。ここからは、展示室ごとに作品と感想を記載します。
ここに描かれた5匹の龍(裏面も合わせると9匹)は、すべて5爪です。これは、当時の皇帝の絶対的な権威を象徴する紋様です(後述)。
✔️ギャラリー1
静嘉堂が保存している美術品のメインは、約6,500点に上る古書籍です。なかでも、12世紀当時の漢字辞典にあたる『説文解字』(重要文化財!)の展示は興味深かったです。
水戸黄門の映像で「印籠」を見たことがあります。しかし、実物を見たことは初めてでした。見た目は、AirPodsケースみたいです。
「印籠」は、腰に提げて中に常備薬を携行する道具で、本来の用途からは離れ、腰に提げるおしゃれな装飾品として、男性の必需品(美術展ナビより)となったそうです。今でいうところの、カラビナ、ウォレットチェーンのような存在なんですかね。水戸黄門のように、人の地位などを見せつけることが目的のグッズだと思っていました。
✔️ギャラリー2
✔️ギャラリー3
展示物の中で一番印象に残った作品が、橋本雅邦《龍虎図屏風》(重要文化財)でした。壁にかける絵ではなく、立体的な屏風に描かれることで躍動感が出ていました。直近に、水野美術館(長野県)で、橋本雅邦の作品を観たため、静嘉堂でも観られて良かったです。
キャプションで、わざわざカッコ付きで「5爪龍」と表現されているのが気になりました。調べると「5爪龍」はとても権威ある龍だと分かりました。
中国の元代には「五爪二角」が本当の龍とされ、「五爪二角」の龍は皇帝専用の文様となりました。それ以降、中国では皇帝以外の者が五本爪の龍を使用することが禁止されました。また、明・清の時代になると、爪の本数が所有者の地位を意味するようになり、階級によって3〜5本爪を明確に分けるようになったそうです(引用元)。
また、キャプションなどで5や9という数字が多く出てきます。中国では、5は、五行学において「木」を意味する数字です。「木」は、柔軟で生命力が強いとされているため、5は成功や長寿を意味するとされています。9は、「九=久」とも書けるため、5と同様に長寿を意味して、縁起がいいとされているそうです。
このように、絵の背景にある文化なども、展覧会で言及されていると、観覧者の満足度がより上がると思いました。
✔️ギャラリー4
ギャラリー4のみ撮影不可でした。国宝である《曜変天目》があるため、カメラで撮影した際に、万が一、傷付けることを防ぐためでしょうか。実物はキラキラ光って綺麗でした。これで抹茶を飲むイメージはしづらいですが😅
現存する《曜変天目》は、静嘉堂を含め、日本に大徳寺龍光院(京都)、藤田美術館(大阪)の3つあり、全て国宝に指定されています。静嘉堂の《曜変天目》は、1934年に岩崎家が購入し、1度だけ実際に使用したそうです。
✔️撮影について
カメラを使った撮影は禁止されていました。なお、ケータイなら可能でした(ギャラリー4を除く)。このような規制をたまに見かけます。看視員の方に、その理由を聞いてみました。
❶精細な画像で撮影されることにより商業利用を防ぐため
❷被写体と距離を取って撮影した際、観覧者とぶつかることを防ぐため
とのことでした。看視員の方は即答だったため、公式のQAがあることに加え、来場者によく聞かれるのかなと思いました。実際、展示室が狭かったため、看視員の方が言うことも納得できました。
私は、いつも一眼レフカメラで撮影しており、スマホで撮ることは稀です。ケータイは、サッと撮ることができるため、画質に思い入れがなければ、ケータイも良いですね。なお「デイヴィッド・ホックニー展」もケータイのみ撮影可能でした。当時も、看視員の方に理由を聞けば良かったです。
✔️その他
展覧会は、人が多かったです。1/2が展覧会の初日だったことに加え、三が日に営業している美術館が少なかったからだと思います。正月早々、美術館に来る人(私も含めて)が多いことに若干驚きました。そのため、展示ケースを見るために列ができることがあったため、見づらい時もありました。
看視員の方がとても優しかったです。話し方が優しかったことに加え、子どもの落書き用に、鉛筆、作品リスト、クリップボードを貸してくれました。
展示室のガラスの反射が少なかったため見やすかったです。館内は綺麗で、展示品のクオリティも良かったです。加えて、フォトスポットなどもあった方が、来場者の満足は上がると思いました。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?展覧会を通して「あ〜、今年は辰年だなぁ。縁起のいいものをたくさん見れて良かった」としみじみ思える初詣のような展覧会でした。また、龍について調べることで、その背景なども知ることができて良かったです。会場内のパネルなどで、その説明があると、より知的好奇心が満たされて親切だと思いました。
▶︎今日の美術館飯
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