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小説: 世界樹の魔法使い

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前に書いていたファンタジー小説。自信はないけどチマチマ更新。
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記事一覧

世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員⑤

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 永遠とも思える夜が続き、時間の感覚を麻痺させていく。医務室にいる誰もが正確な時間を知らなかったが、尖塔の炎は静かに時間を語っている。それは、赤い火が三本灯った午前三時。深く沈みきった夜が、目覚める準備を始めるぐらいの頃合いだ。 ジョイナーが自身の事を話す覚悟を決めてから、医務室の中は緊張に包まれていた。
 誰も口を開かず、ジョイナーが話し始めるのを待ち続け

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世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員④

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 チュイは体が分解されるような苦痛の中、限界に達して意識を失った。
おそらく、呪いに命まで飲み込まれないように、体が意識をカットしたのだろう。
 自我が途切れる瞬間は、脳の中を吸い取られるように、もう一人の自分がスルッと引き抜かれたようだった。
チュイに呪いが襲いかかったのは、彼女がグラウンドから北の丘を目指して間もない頃だった。
 足を踏み外すと簡単にケガ

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世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員③

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 北の丘には柔らかい風が吹いていた。
 ケンブリーの髪がふわりと流され、髪の毛が一本だけ眼鏡の隙間に入り込む。それでも彼は表情を変えないまま、落ち着いた様子でそれを手で払いのけた。その目は夜空の先を見つめていた。
 魔法を学ぶ者であれば、ケンブリーを見ただけで厳重であることが分かるだろう。彼が纏っているのは、かなり分厚い対呪詛用のローブだ。あまりの厚さに布が

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世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員②

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 暗い石造りの部屋の中を見れば、そこには巨大な何かが住んでいることがよく分かる。衣類、勉強道具、食べカス、ホコリの塊、色々なものが散かっている室内に、巨大なベッドと、女性が二人は入りそうなパンツと半ズボンがドンとある。
 この部屋の主は布団に入ったまま動かない。
 夜更かしをしても何も良いことがない尖塔は、就寝時間になると完全に静かになる。
 そんな

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世界樹の魔法使い もくじ

▽もくじ
・プロローグ
・1章:天刺す尖塔と不良教師 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
・2章:争う尖塔の学生たち  ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ 
・3章:三年前と元研究員   ① ② ③ ④ ⑤

▽あらすじ
世界には『人間と獣人』がいて、それぞれから『魔法を使える者と使えない者』が生まれた。魔法を使える人間と使えない人間。魔法を使える獣人と使えない獣人。大まかに四つの部類に別れている人類は、姿形に特

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世界樹の魔法使い 3章:三年前と元研究員①

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 ケンブリーの居ない校長室。
 その窓辺に佇むワンは、深い藍色の夜空に煌めく星を見あげて、時間を確認した。特別教育部の中からは、頂上にある火の時計は見えず、こうして星の位置で判断するしかない。
 星の配列は、昨晩から一周巡って、再び夜の時間を示していた。
 ワンはそれを見て溜め息をつくと、口元のマスクをなびかせた。
 それは、フレイソルたちに対するリズィの対応に疑問が

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ⑦

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翌朝、始業早々にも関わらず特別教育部の中では小さな騒動が起きていた。
 勢いよく複数の人間が駆け抜けていき、「うわっ」「きゃっ」「あぶねぇーな!」と、歩いている生徒や教員が例外無く驚いている。彼らの見開かれた目は、石畳を鳴らしながら通り過ぎていくものを追っていた。
 駆け抜けていったのは、誰もが良く知る男。
 天刺す尖塔の監視官、ワン・ギー。
 彼が駆ける姿

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ⑥

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授業を終えて夕刻に至る頃になると、生徒たちは天刺す尖塔から寮に戻り、教職員たちも事務的な仕事や自身の研究のために室内に籠もるようになる。生徒の鍛錬に付き合う教員もいるが、彼らが居るのは地下やグラウンドといった離れたところであるため、尖塔は必然的に、ひっそりとした空気を漂わせていた。
 空が夜の様相を呈していても、生徒が帰るときの賑やかさがあれば、夕刻のような

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ⑤

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親元を離れて暮らす尖塔の学生たちは、日々の始まりを寮で迎える。
 十二歳までの幼い子どもたちは、正門から左に入った児童寮で、それ以上の十八歳までの学生たちは、正門から右に入った男子寮と女子寮で目を覚まし、その日のスタートを切る。
 男子寮と女子寮の出で立ちは無骨で殺風景だ。
 建物は岩盤をくり抜いた三階建ての石窟構造で、手前に迫り出した石造りの建物部分が、後

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ④

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「まずは今回の行動が、ジョイナー教諭のあらゆる汚点が積み重なったことが理由であることを、校長先生にもご理解頂ければと思います!」
 既に自らの発言を我慢して、怒りで顔を赤くしているチュイ。彼女とフレイソルの後ろでは、膝をついた取り巻きたちが、二人の暴走に付き合っているという諦めの空気を漂わせている。
 静かな室内にフレイソルの語調が強くなった声が響き渡ると、それは見事

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ③

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 天刺す尖塔の特別教育部。その最上階にある校長室だけは、医務室と同じように大きな窓がいくつもはめ込まれ、開放感のある造りになっている。
 それでも今は半年間の夜。窓から見える景色は、点々と明かりの灯っている聖天都市の姿と、空に散った星の姿ぐらいなものだった。
 柔らかい椅子に腰をかけたケンブリーは、年期の入ったデスクに向かい、置かれた書類を前にして、難しい顔

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ②

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「いいね! 私も見てみたい!」
 チュイの明るい声に、ジョイナーは耳を疑った。
 対して、笑みを浮かべるフレイソル。
(おい! いつも逆だろ!)
 ジョイナーは心の中で悪態をつくと歯を食いしばって、盛り上がる二人を見た。
「おお、犬! お前もたまには話しが通じるではないか。師の勇姿を是非見せて頂こう!」
「そうだね、そうだね! 人間もたまにはいいことを言うではないか!

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世界樹の魔法使い 2章:争う尖塔の学生たち ①

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 世界には三種類の魔法使いが居る。
 まずは社会的魔法使い。彼らは限定された些細な魔法のみを扱うことはできるが、正式な魔法使いとしては認められてはいない。魔法の制御の仕方は学ぶが、あとは一般的な人と同様の生活を送り、魔法も仕事の中でのみ使うことを許されている。
 次に職業魔法使い。彼らはジョイナーと同じく、様々な魔法を操る才能を持ち、それを操る素養を魔法学校で学んでい

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世界樹の魔法使い 1章:天刺す尖塔と不良教師⑦

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 随分と短く散切りにされた髪と、つり上がった細い目。口には上だけ紐のついたマスクのようなものを下げていて、呼吸の度に少しなびいている。その全てが乗る顔は余分なものが見当たらないぐらいすっきりとしていて細く、それに合わせたように引き締まった筋肉は、無駄のない鋭い凶器のようだ。それでも、本人の優しさがにじむように、瞳は輝いている。
 少し若く見えるが、これでも四十に乗っか

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