世阿弥が『風姿花伝』に質問コーナーを作っていた。丁寧に答えてくれてた。(第三 問答条々)(後編)
室町時代の天才能楽師、世阿弥が残した本を読むシリーズ。
世阿弥が最初に著した『風姿花伝』の第3章である「第三 問答条々」の後半部分を読んでいきます。
Q&A形式で書かれているこの章は、第1章「第一 年来稽古条々」・第2章「第二 物学条々」で見た基礎的な内容をどう実践するかを説いています。能役者が知りたいことを「問」の部分で書き、それに対する世阿弥の考えを「答」で述べるという見やすい形で、ノウハウがまとめられている章です。
世阿弥は9つの問答を通じて、普段から投げかけられる質問や、後世に伝えたい教訓を丁寧に説明しています。それぞれの内容については、『風姿花伝』を書いた後、別の書物に詳しく説明し直しているものもあります。世阿弥の残した書物については、一通りまとめていく予定なので、その時には「第三 問答条々」とリンクさせて説明したいと思います。
今回は残る5つの質問について見ていきます。
「世阿弥の質問コーナー!」後編スタート!!
「風姿花伝」の本文は、『世阿弥・禅竹』(表章・加藤周一校注)(日本思想体系(芸の思想・道の思想)1、岩波書店、1995年)の「風姿花伝」から引用しています。
質問5 下手な役者の得意芸は真似してもいいの?
「劣っている役者でも、意外とある方面では実力のある役者に勝っていることがある。それを実力のある役者が真似しても良いのか(または真似しないほうがいいのか)」という質問です。
この質問に対して世阿弥は、「よき所ありと見ば、上手も是を学ぶべし。これ、第一の手立なり」と答えています。良い部分が見えたら、どんな役者も学ぶのが第一の手段だと言っているわけです。あの役者は自分よりも芸位が低いからなどと驕ることなく、謙虚にさまざまな芸を吸収して自分の芸を磨くように求めました。
どんなに実力がある役者であっても、このジャンルの曲を演じるのは得意とか、この曲は苦手意識があるというのは当然です。得意分野をどんどん伸ばすことも大事ですが、それだけをしていては観客も「またこの曲かよ…」と飽きてしまいます。人々を楽しませる芸能としてやってきたはずが、これでは本末転倒です。
役者の表現の幅が広く、どれもある程度の技術を持っていれば、観客は飽きずに、むしろどんどんその役者に魅了されていきます。得意を尖らせるよりも先に、苦手をなくすのです。そのためには、自分の苦手分野を得意とする人にやり方を聞くのが一番です。自分の苦手をなくしていくと同時に、聞いた相手に直すべき部分があれば、相手の苦手をなくすようにアシストする。
稽古で打たれ負けてしまわないよう、強い心を持って臨みなさい。
実力がついてきたからと慢心せず、謙虚な姿勢で取り組みなさい。
ここで、『風姿花伝』の序言で言っていた注意書きをもう一度書いています。
自分は何年もやってきてるから、と慢心することなく、さらなるアップデートを続けるべきだという考えは、能楽以外にも言えることではないでしょうか。
質問6 芸の程度の差を知るのは大事?
次に、「能役者に備わっている位」について考えていきます。
役者ごとに優劣をつけられてしまうことは、多くの観客を前にする舞台芸能において、よく起こることではないでしょうか。名声を得られるか、あまり評価されずに全盛期を過ぎてしまうかという分かれ道には、観客の視点も大きく影響を及ぼします。
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