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#短歌連作
『ショパンのレシピ』 (短歌連作10首)
ブランチの山吹色のオムレツに蛙色したクレソンが合う
こんなにも赤いラディッシュそんなにも短い刻で色めいたのか
愛し合い傷つけ合った春を終え等間隔で若鮎を焼く
出窓から恋人たちのしあわせが終われと願う夏のサボテン
デンファレを艶めく髪に挿すようにカッペリーニに添えるクレソン
輪郭を失いかけた恋人はマスクメロンを手に訪れる
パスタ屋でアンダンテって云う女子にスピアナートとポロネーズ(大)
MMPⅡ 武庫川ムーンプリンセス
兄ちゃんな せっまい家の隣室でごっついいびきたてて寝んなや
兄ちゃんな 鼻のよこちょのほくろの毛抜いとる時の顔ひっどいで
兄ちゃんな おとんみたいに偉そうに味噌汁つくれ言うんやめてな
兄ちゃんな 足がみじかいのになして毎年福男目指してん
兄ちゃんな もう本厄のうちのぶん災難遭うてくれてたんやね
兄ちゃんな うちのええ人めっちゃ目が兄ちゃんの目に似てしょぼいねん
兄ちゃんな おかんみた
『武庫川ムーンプリンセス』(短歌連作7首)
あんたもう忘れたやろな二人して鳴中行こな言うとったのに
窓の横には甲子園 親友が一人で行った武庫女の附属
新井さん真芯で撃って藪さんのちっさい奥歯ガタガタ鳴った
あんたもう捨てたんやろな二十四の瞳の川野太郎のサイン
野沢直子に書いてって言うたのに川野太郎て書かれたサイン
窓の上には鳴尾浜球場で桧山にもろた坪井のサイン
歳喰うたいま何もかも恐なってあんたの優しさが欲しなった
『日清事変』 (短歌連作7首)
唐突な大阪湾は狡猾な恋の策士が計らった海
バッテラはポルトガル語の小舟やと教えてくれた人に溺れて
泥沼の恋に沈んだ帰路になぜ空がこないに晴れているんや
千年の恋人やとかおらんから三年で大満足やねん
知らんのん仲直りする野良猫は互いの傷をなめ合うねんで
06と押した途端に大量の小麦粉が降る電話ボックス
いつまでも好きやでなんて寝て起きてパンケーキ焼くまでの約束
『報国寺の七本槍』 (短歌連作7首)
鎌倉が雨模様なら小刀で下駄に桐葉を彫って行きます
雨の日も陽気に闊歩する母と相似の影が消えて降る雨
移動性高気圧にも嫌われて花柄の傘買って長谷寺
長谷駅で傘を開いて閉じる母より美しい花を知らない
ダウンから逃げてしまった水鳥の羽根よ 凍える戦士にとまれ
週末に家でみかんは嫌だから槍で足利家時を討つ
どしゃ降りのあさも会社へ飛んで行く人生は紙飛行機じゃない
『抜刀隊』 (短歌連作7首)
来るたびに云われて聞き流している「是非とも塩で食べてください」
自治会の味噌おでん串こんにゃくとこんにゃくとこんにゃくサスペンス
手土産の手鞠寿司お粥にしたら泣いて血を吐いてるお父さん
ももいろの袋のなかのわたあめは絵空事みたいに白かった
猫カフェで見た母に似たひとの子はきっと私に似て親不孝
食べものと知っていながら魔が差して私はこれであれをしました
もういちど何も知らない子になってぬ
『冬・花・火』 (短歌連作10首)
牢獄にひとり暮らして省みる一人暮らしに憧れたころ
頑張っているとは限らないのです頑張っている顔に生まれて
素晴らしい雨に降られて空に問う最後に泣いた日はいつだろう
花柄の手鍋を買った上野からあなたにはもう帰りたくない
これ以上無理だと思う私たち部屋に置き忘れたカードキー
手つなぎがピークだったね安全な火遊びはもう出来ないんだね
クッキーは上手に焼けなかったけど私らしさの欠片をどうぞ
『いもうとレンズ』(短歌連作7首)
剥がすなと云われ剥がした瘡蓋を糊で貼る半袖の妹
具が何も入っていないおむすびに眉間のしわをふたつ入れたね
金色の魚を掬えば左手の鼈甲飴の兎は逃げて
純粋な子どもを騙すくじ引きで当りを引いてしまういもうと
あんみつが食べたいと云う妹の瞳は小豆色をしていた
バイエルを窓から投げてパステルの音符だらけのパジャマで寝たね
チョキだけで何度でも負けてあげるよ白いこぶしの花が咲くまで
五色塚舞子元町新長田北野摩耶山有馬温泉(短歌連作7首)
恋愛が七割だった七色の想い出の七割は神戸に
日に一度あなたがくれたさりげないやさしさは練習の賜物
夏の夜に手持ち花火で書くスキはスキになるかもしれないの略
失恋は喜劇と知ってそばめしにフィラデルフィアのクリームチーズ
忘れろと告げたひかりの面影が記憶の海を泳いでいます
寂しいか人恋しいか呟いて詩歌の森をさまようツグミ
夕霧に産み落されて塩泉につかる塩化ビニールのアヒル